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 医療報道に関して多くのマスコミが明示している問題点は、医療に奉仕や貢献をしようという思いを持っていないことと医療人に対する軽蔑の念を隠せないこと、の二つの「ない」でしょう。私は、もちろん軽蔑する相手には容赦はありませんが、それでも最低限の「礼」は守ります。さらに自分が尊敬している人に対してはたとえ批判する場合でも一部のマスコミが使うような“あんな口”はたたけません。ただ、医療以外の分野でも、様々な記事の論調や記者会見での無礼で傲慢な態度などを見ていると、彼らは自分たちこそが世界で一番エラくて(スポンサーと反撃が怖い人を除いては)、いつでも自分の感情を発動して誰でも自由にこづき回せるとでも思っている(世の中のほとんどすべての人に対してそういった奉仕とか貢献とか尊敬とかを持ち合わせていない)のだろう、とも感じます。

 結局「“世界”は自分たちの“飯の種”でしかない」なのかなあ。

 医者の中にも「患者は自分の飯の種でしかない」の人間もいますから、私もあまり大きなことは言えませんが。


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 30年くらい前の「暮らしの手帖」で、卵料理のエッセーを読んだことがあります。筆者の名前は忘れましたが、料理が得意な人で、でも終戦直後の苦しい時期で何も手に入らなくて代用料理ばかりで欲求不満が募っていたところに、家族の人数分の卵が。筆者は大喜びで台所に向かいました。料理名は忘れましたが、卵白を泡立てたり潰れないように気をつけながらオーブンで焼く、なんて記述があったのを覚えていますので、おそらくスフレでしょう。本当に久しぶりに腕をふるってご馳走をこさえたのですが、家族の評判は上々とは言えず、「せっかく珍しくて美味しい料理を作ったのに」と筆者はがっかり。ところがしばらく経って「何年ぶりかの卵だったのだから、皆が食べたかったのはスフレではなかった(私はオムレツ、ワシは卵焼き、ぼくはゆで卵、だった)のではないか」と気がついて愕然とします。「自分が作りたいもの(食べさせたいもの)」ではなくて「自分が食べたいもの」が本当のご馳走だった、という話でした。


 お話は大きく変わって「ハムレット」。その中のセリフ「To be, or not to be, that is the question.」は、翻訳はいろいろあるそうですが、一番有名なのは「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」。
(各種の翻訳の例は、たとえば「ハムレットとマクベスのテーマ」に参考文献がいろいろ並んでいます)

 私はハムレットの考え方に“異議”を唱えたいと思います。
 もちろん、「生きるか死ぬか」は重大な問題ですが、しかしそれだけが重大な問題なのではありません。死ねば一応そこで話は終わります(死後の世界についてはいろいろあるのかもしれませんが、それはまた別の話)。だけど私が住む医療の世界では、生きたらそれですべて一件落着、ではありません。
 たとえば脳卒中。生きる/死ぬ、の“次の段階”で後遺症の有無があります。命が助かって次の段階に行ったらたとえば片麻痺(右半身とか左半身が麻痺している状態)があった場合、では「生きるか死ぬか」と同様に「片麻痺が直るか直らないか」ですべてを判断して良いでしょうか。「直れば一件落着。直らなかったら人生はおしまい」と考えて良い?
 私はそうは思いません。後遺症があって、それが消えればよし。でも、直らない/直りが悪い、場合にはまた“次の段階”に突入です。「直らない障害をかかえてどうやって生活に復帰するか」の段階に。動かない手足をいかに活かして生活をするかの工夫/不自由な体で生活できるように環境を改造/激変した自分自身を受け入れるための心理的なサポート……やるべきことはいくらでもあります。それでも上手くいかない場合でもそれで「もうおしまいだ」ではありません。私はさらに“次の段階”を想定します。
 「生きるか死ぬか」はたしかに重大な問題です。でもそれ“だけ”が重大な問題ではありません。視野を広げて様々な状況を想定し対応できるようにしておかないと、いざ事態が思わぬ方向に進み出したときに“想定外の状況”となって、足は立ちすくみ思考は停止するはめに陥ることになります。そうなったら残る選択肢は絶望への道だけです。

 卵はハムレット、もとい、オムレットとスフレのどちらかにしかできない、わけではありません。もっといろいろな料理にすることができます。さらに、その中のたとえば同じゆで卵でも、そのまま/ カレーやラーメンに添えて/煮卵/燻製卵/サラダ/サンドイッチ/グラタン/おでん/各種の肉との煮物/スコッチエッグなど、本当にいろいろな食べ方ができます。
 そして人生も、生と死の二つにだけ分けられる単純なものではありません。


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