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脳にぶら下がっている下垂体(かすいたい)は、指のあたまくらいの大きさ(小ささ?)ですが重要なホルモンをたくさん出す大切な臓器です。そのホルモンの一つに成長ホルモンがあります。これは文字通り人(子ども)を成長させることが主目的のホルモンですが、その分泌が適正レベルより過剰になると巨人症(あるいは末端(先端)肥大症)、不足すると下垂体性小人症になります。巨人を小さくすることは困難ですが、下垂体性小人症の場合は骨端線が閉鎖する前(子どもの骨がまだ成長している時期)に成長ホルモンを補充したら、体を成長させることが可能です。
現在では「遺伝子組換え成長ホルモン」が製品化されていますので、それを投与すればよいのですが、では「遺伝子組換え成長ホルモン」がなかった時代にはどうしていたでしょうか。
まず考えるのは動物からいただくことです。実際、昔は牛や豚からのインスリンがありましたし、骨粗鬆症に使うホルモンのカルシトニンには鮭のものもありました(サーモトニンという商品名でした……過去形で言っちゃったけど、今でもあるのかな?)。
しかし、動物の成長ホルモンは人間には効かなかったようです。そこでつぎに考えるのは人体から。だけど「下垂体を取り出す」はつまりは「脳を取り出す」ことです。脳全体は残して下垂体だけ取り出したとしても取り出された人が困ります。そこで昔は人間の死体から脳下垂体を取り出してそこから成長ホルモンを抽出していました(頭蓋骨を開けなくても、顔面(鼻の穴だったっけ?)からのアプローチがあったはずです)。これを「下垂体抽出成長ホルモン」と言います。
私が学生時代のお話です。
たまたま授業で教師がその話を始めたのですが、非常に印象深かったので今でも覚えています。(「覚えています」と書きましたが、記憶は変質するものですので「事実」とは異なってしまっているかもしれません)
当時の日本は「下垂体抽出成長ホルモン」を外国に頼っていました。(日本で「死体から脳を取り出し、そこからホルモンを抽出している」という話を聞いたことがある人はいないはずです。死んだ人はふつうそのまま焼き場に送りますよね) あるドクター(この話をしてくれた医師本人のことだったかもしれません)が北欧の小国に行って分けてもらう交渉をしたら「我が国にも十分な量はないのだけど、お困りでしょうから」となんとか少し分けてもらえたのだそうです。だけど患者全員を平均身長まで伸ばすにはとても量が足りないため、男女でそれぞれ身長の到達目標を設定して(具体的な数字は忘れましたが、たしか平均身長よりずっと低い数値だったはず)、そこまで背が伸びたら「もう君の分はおしまい。残りのホルモンは別の人に」とやっていました。ことばが悪いのですが、量が足りないからちびちび使うしかなかったのです。
で、「また分けてください」とその国に行くと不思議そうな顔で「日本では自分の国の国民でまかなえないくらい成長ホルモン欠乏症が多発するのですか?」と聞かれたそうな。自分たちの国でも歯を食いしばって死体からの抽出をしているのだから、日本も当然それくらいの努力はしているだろう、という前提での質問でした。
そのドクターは、とっても恥ずかしかったそうです。
※そういえば、「外国で移植を」の募金運動は日本では美談扱いです。それで日本人が割り込むことでその外国で誰かの順番が遅くなっていることには、マスコミは無関心ですが、そういった観点で取材をしたことは無いのかしら? イギリスでもかつては子どもの臓器移植は募金をしてアメリカに渡って、と日本と同じだったのですが、BBCは“そういった観点”から番組にしました。そのせいかどうか、今イギリスでは“自前”でやってますね。(『イギリスにおける移植医療の夜明け ──ベン・ハードウィック物語』エスター・ランジェン/ショーン・ウッドワード著、前田祐子監訳、はる書房、1994年)
「高い志を持ったマスコミ」もこの世のどこかには存在しているようです。
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