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昨日の新聞の片隅に「助けての 小さなサイン 受け止めて」と小さな広告がありました。11月が児童虐待防止推進月間なので、その啓発です。
「自分は児童を虐待しないから、自分には無関係な話」と思う人が多いとは思いますが、実は完全に無関係な人は日本には存在しません。
児童虐待についてはわざわざ専用の法律があります。
「児童虐待の防止などに関する法律」ですが「児童虐待」はその第二条で定義されています。
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
身体的暴力・猥褻行為・減食や放置といった「劣悪な環境」・心理的暴力、とまとめることができるでしょう。
こういってはナンですが、日本の法律にしてはよくここまで具体的に書いた、と私は感心します。
で「第三条 何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。」ですべてがすめばいいのですが、いくら法律で禁止しようとする人(したい人)はしたいことをします。そこで……
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十五条の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。
ついでですが、ここで触れられている児童福祉法第二十五条の規定はこんなものです。
「児童福祉法」
第25条 要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満14歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。
「児童福祉法」よりも「児童虐待の防止などに関する法律」の方が規定が明確になっています。とくに注目するべきは、児童虐待に関する通報がどちらの法律でも「通告しなければ★ならない★」と法的な「義務」とされていることです。それも「速やかに」。それは「発見した者」全員の義務なのです。「自分は警官じゃないから」などという言い訳は効きません。私が最初に「無関係な人は日本には存在しません」と書いたわけがわかります? 「自分が発見者になる」可能性は、社会に生きていたらゼロ%ではありません。あなたにも「発見者」になってしまう(=通告の義務を負う)可能性があるのです。そしてたとえば近所で虐待されている児童の存在を知ったら、それを通告せずに放置するのは、倫理的には問題のある行為であり、法律的には違法行為、ということになるのです。(罰則はありませんが、「罰則がないから違法行為はしても良い」と主張する気には、私はなりません。そう主張したい人を止める気もありませんが)
私の場合には、外来での発見、も考えておかなければなりません。医師は医師法・刑法(公的病院勤務の人はさらに公務員法)で守秘義務が課せられています。病院に限らず日本の多くの職場の職務規程も(おそらくは個人情報保護法も加味して)守秘が謳ってあるはず。しかし「刑法その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない」です。「児童虐待の防止などに関する法律」はプライバシー情報に関しては刑法や医師法よりエライのです。
ですから「助けての 小さなサイン 受け止めて」でサインを受け止めなければならないのは日本に住むすべての人です。
……ただ……これはきわめてまっとうな広告なのですが、問題は、その広告主が「厚生労働省」であることです。ワーキング・プアやネットカフェ難民、薬害などの健康被害者などにきわめて冷たく「小さなサイン」どころか「涙混じりの訴え」にも耳を貸さず、困窮者の生活保護申請に冷酷な応対をし、「このままだと医療崩壊だよ」という「大きなサイン」も平気で無視し続けてきたお役所が、「お前たちは虐待されている児童の小さなサインを受け止めるべきだ」と要求しているわけ。それを思った瞬間、この広告の「力」はみごとに小さくなってしまいますな。まだ児童福祉事務所で本当に頑張っている人とか現場で苦労している小児科医とかが広告に名前を出せばパワーのある広告になったでしょうにね(もちろんその場合でも、金は厚労省が出すべきですが)。
「(生きている)ことばの正しさ」とは、「そのことば自体の正しさ」だけではなくて「そのことばをしゃべっている人自身の“正しさ”」にも負うところが大きい、ということなのでしょう。
「信用」や「実績」は大事です。失ったもの(自分で捨てたもの)を取り戻すのは大変。でも逆に、一度自己批判をきちんと行いこれから身を正しくして見せれば(見せ続ければ)、回りの扱いが変わることも期待できます。児童虐待をした親でも、本当に悔いてこれからは真っ当に児童を扱うのなら、児童がその親の元に戻されるように。
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虐待の連鎖は貧困の連鎖と同じ負の連鎖だと思っています。
「ハッピーバースデー」という本があります。(ホラーのリングらせんの作者ではありません。児童虐待に関する本です。)読んで毎ページ泣きました。多くの人に読んでもらったら、みな同じような感想をもっていました。
厚労省のたわごとを聞くより、こういう素晴らしい本を紹介して読んでもらうほうがよっぽどいいと思います。被害者にも加害者にも。そして虐待なんか関係ないと思っている人にも。
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