私が勤務する病院では、一般へのインフルエンザ予防接種の前に職員の分を済ませておこうという事で何回かに分けての接種が始まりました。前回の外来で、私の目の前にどんと積まれたのは130人分(!)の予診票の束。
さて、インフルエンザワクチン接種の標準的な手順はこうなります。
1)希望者は、説明書を読み、その内容(予防接種の目的とか副反応があることなど)を理解します。
2)希望者は「予診票」にいろいろ書き込みます。(本日の体調とか、病気を持っているとか、アレルギーとか)
3)体温を測って予診票に書き込みます。
4)以上のデータや診察から、医者は予防接種が可能か不可能かの判定をします。
5)希望者は医者の判定が「可能」だったら、そこで最終決断(予防接種を受けるか受けないかの決定)をして予診票にサインします。
6)ワクチンを接種します。
7)予診票に、打ったワクチンのロット番号と注射量、接種日時(年月日と何時何分)と接種場所を記載します。
8)カルテに予防接種をしたことを記録します。
9)支払いをします。
これを読むだけで「医者の所に行って腕をめくったら、チクッとしてお終い。すべては15秒ですみました」にはならないことは、どなたでも理解できますね。6)の「医療行為(注射)」そのものはたしかに15秒ですみますが、それでも、ここに書いていない注射の準備(注射器と針のセット、ワクチンの吸い上げ)や使用済み注射針や注射器の廃棄(量がまとまるとけっこうな手間です)にそれなりの時間はかかります。さらに、文書仕事に膨大な時間が必要です。予防接種に関しては、ほとんどの時間は文書に費やされると言って良いです。泣き言を言います。130人分の予診票の医師チェックは、けっこう負担なのです。サインするだけでも最後にはイヤになります。嘘だと思ったら、自分の名前だけでも130回連続で実際に書いてみてください。きっと「小学校の漢字練習じゃないぞ」と言いたくなりますよ。で、私が書かなきゃいけないのは自分の名前だけではないのです。
だけど文句を言っていても仕事は終わりませんから、集中力を保ってきちんとやりましょう。それもできる限り時間を無駄にせずに。ここで重要なのは、流れ作業の効率を維持することです。ところが、4)まで来た人が医者の前で「あ、たいおんをはかるのをわすれてた」と棒読みで言ってそこで体温を測り始めたら、その列の後ろの人はそれだけ余分な時間を待たされます。予診票を書いていない人が注射をしているところに紛れ込んで「自分は特別に早く注射をしてくれ、はやくはやく」と注文をつけたら、その注文に現場スタッフが対応する時間分、きちんと順番を守って列に並んでいる人が待たされます。まったく困ったものです。
それやこれやで、いつもは暇で暇で閑古鳥がかーとかぎゃあとか鳴いている私の外来が、珍しく活況を呈してしまいました。さすがに殺気立つところまでは行きませんでしたが。
私がここで連想するのは、もちろん新型インフルエンザ発生時のワクチン接種です。規模にしてこの数十倍、数百倍、数千倍? よほど効率を考えて作業スケジュールをあらかじめ非常時用に組んでおかないと、現場は回らないことが確実です。「根性で頑張れ」はやめましょうね。そう主張する人が「根性」で新型インフルエンザに打ち勝って見せてくれたら、そのことばを信じても良いですけど。(だけど日本のお役所は、「計画配置」という言葉はお好きなくせに、こんな非常時に備えての効率的で実際的な人員や物資の戦略的な計画配置を計画し実行するのはなぜか苦手なんですよね。必ず現場が悲鳴を上げる事態になります)
細かい工夫は可能です。一つの現場でワクチンのロットを揃えておけば、ロット番号の記載は省略(あるいはあとでまとめて記入)できそうです。注射量も成人は一律だからあらかじめ事務レベルで記載しておけばいいでしょう。接種日と場所も事務レベルで記入(あるいは「接種日ごとのフォルダ」を作成して、その日の予診票は全部そこに突っこむ、とか)。接種した時刻は必要です? 要らなければ省略しましょう(官僚がどうしてそんなデータを欲しがるのか、私にはわかりません。本当に欲しいのだったら、欲しい人が自分で記入すればいいと思いますが)。これだけやれば数秒は節約できます。ああ、それでも数秒か。それでも人数分×数秒ですから、でかいといえばでかいのです。
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昔のインフルエンザのワクチン接種では接種後に必ず「よくもんでください。今夜は風呂に入らないでください」と言われていました。
ところが最近は「もまなくて良いですよ。風呂には入って良いです」です。
「時代が変わった」と言えばそれまでですが、それにしてもここまでみごとに逆転しますかねえ。
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