文部科学省は2001年に「科学技術基本計画」を発表しました。いろいろもったいぶったことばが並んでいますが「2.21世紀初頭に我が国が目指すべき国の姿と科学技術政策の理念」の中には「具体的には、国際的に評価の高い論文の比率が増加、国際的科学賞の受賞者を欧州主要国並に輩出(50年間にノーベル賞受賞者30人程度)、優れた外国人研究者の集まる研究拠点が相当数できること等をめざす。」とあります。例によって抽象的でなんとも不明瞭な文章です。たとえば上記の文中で一見もっとも具体性のありそうな「50年間にノーベル賞受賞者30人程度」だけに限定してもまるっきりぼろぼろ。ちょこっとそこだけでも解析してみましょう。
「50年」をいつからカウントするのか明記されていない(特に基礎研究の場合、その結果が出たり評価が確定するのは論文が発表されてからずいぶん先です)/「ノーベル賞」のどの賞かが明記されていない/「30人」が日本人なのか、日本で研究した日本人に限定なのか、外国で研究した日本人も含めるのか、日本で研究した外国人も含めるのか、外国に国籍を変えた元日本人も含めるのか、業績を上げてから日本に国籍を変えた元外国人も含めるのか、が明記されていない(もしかして少しでも「日本」に関係があったら全部カウント?)/数値目標っぽいのに「程度」がついている(これがたとえば「以上」なら私は(数字はともかく日本語としては)OKですが……)……さてさて、結局何を言いたいのか「具体的」にきちんと何が伝えられています? 私には杜撰さしか伝わってきません。
今回のノーベル賞受賞のめでたい騒ぎで文部科学省は「具体的」に「ノーベル賞受賞」を何人とカウントするのでしょう? 物理学賞の益川さんと小林さんは「日本の業績」でカウントしてよいでしょう。でも化学賞の下村さんと物理学賞の南部さんの研究の地盤はアメリカです。つまり「日本の業績」ではなくて「アメリカの業績」。南部さんにいたっては国籍もアメリカです。
さて、何人?
科学技術基本計画は「日本の科学技術の環境のレベルアップ(優秀な人が頭脳流出をしなくてもすみ、日本でばりばりと業績を上げられるような研究環境の整備。個人的にはサンタフェ研究所のようなものが日本にできて欲しいと切に願います)」を目指す計画のはずですが、それをする前に、「基本計画を作る人の(知識と日本語と教養と論理と視野の広さの)基本的なレベルアップ」をしておかないと計画倒れ(言いっぱなし)になるのがオチじゃないかしら。
ところで、基本計画が閣議決定されて7年間、「日本のレベル」はどのくらい上がっています? 「今年“日本人”が4人もノーベル賞! 日本の科学技術の将来はこれで安泰」「2001年からの8年で7人だ。最初の10年の“ノルマ”はクリアできた!」「いやいや、1年で4人だから50年に直せば200人だ!」なんておめでたいことを言ってるようでは駄目ですよ。
※蛇足です。今回の記者会見などを見ていて思うのですが、せめて「反物質の作り方」「対象性が破れなかったらどうなっていたのか」「クオークがなぜ4種類ではだめで6種類必要なのか」「素粒子研究がなぜ宇宙論につながるのか」などの回答を素人にもわかる平易なことばで引き出せる知的なインタビューアーを配して欲しい、と感じました。学者には「素人にわかる平易なことばで」が苦手な人は多いから、そこを“翻訳”してみせるのが学者と素人の間に入ることばのプロの腕の見せ所でしょう。あるいは学術ではなくてもっと柔らかい話題たとえば人間関係を聞くのなら、私だったら(「クオーク」の名付け親の)ゲルマンとの交友がどの程度かとかにも興味があるんですけどねえ。
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