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 私が若い頃働いていた県立病院は赤字が問題で、そのことで院長は定期的に県庁に呼び出されていました。「明日は議会で赤字について説明しなきゃいけないんだ」とげんなりした顔でぼやいていた姿を私はお気の毒になあ、という思いとともに覚えています(私は下っ端だったから、お気楽だったのですが)。だけど、病棟は常に満床で外来にも患者が溢れていてそれで赤字になるのは、院長のせいではないとも思っていました。だって当時の院長には明らかに実質的な人事権も予算編成権もなかったのですから。(医者の人事は大学が、それ以外の人事は県庁が、予算は議会が握っていました)

 民間病院は企業ですから、赤字はまずいでしょう。でも公的病院では経済オンリーではないちょっと違った角度からの政治的判断も必要だと私は思っています。
 たとえば経営者や管理者の放漫経営が原因の赤字は、これは民間でも公立でも完全に駄目です。だけど、たとえば県の中核病院で、他の民間病院では不可能な(あるいはコストがペイしないから民間では行われない)高度な治療をそこで行なっていたために赤字になった、は、県民の安全保障(いざというときのための高度な医療を準備)のためのコストとして捉えたら「黒字でないから駄目」とは軽くは言えないように思います(もちろんとんでもない巨額の赤字は駄目かもしれませんが)。

 ところで……公的な行政機関や出先機関で「黒字」の所って、あるのでしょうか。現金の流れだけ見たら税務署は「黒字」ですが、あれは「税務署の収入」ではありません。
 「赤字の消防署」「赤字の義務教育」「議会が赤字なのは問題だ」って、ふつう言いませんよね? 「自衛隊の赤字は問題だ」とも言いません(そもそも消防署や学校や自衛隊が黒字か赤字かは問題になりましたっけ?)。道路やダムはお金を使えば使うほど出先機関は本省から褒められます。ああそれなのにそれなのに、公的病院は黒字にしないと怒られるのです。

 なぜ?
 「現金収入」があるからかな? だけど、「安全保障」の分まで赤字・黒字で判定して良いのでしょうか?


 アメリカの保険制度では、病院が黒字であることだけではなくて保険会社も黒字であることが求められます。医療費が高くなるわけです。おっと、実は病院の経営状態はどうでも良いのかもしれません。保険会社から見たら病院なんか取り替えのきくコマでしかないでしょうから。「赤字の自治体病院なんかどんどん潰せばいい」という人から見ても、病院はきっと何かの(おそらくは自分の政治的な主張を実現するための)コマでしかないのでしょうね。


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