日本の医療界には外から見たら不思議な風習がいくつもありますが、その中の一つが「脇付」です。診療情報提供書(俗に言う紹介状)を書いたとき、縦書きの場合宛名の左下につける「侍史」「机下」といった相手に対する敬意を示す表現のことを脇付と言います。現在日本のほとんどの所では使われるのを見ることは少ないと思いますが、医療界では「常識」らしく、紹介状の宛先にはまず間違いなくこの脇付が添えられています。中には「御侍史」「御机下」とダブルで敬意を表現しているものもあります。(本当は役職名や肩書き自体がすでに敬意を示しているはずですから「○○先生 侍史」ですでにダブルの敬意表現となっているはず。ただ、「様」と脇付の併用はOKですから(OKですよね?)ダブルまでは良いのでしょう。でもそれにさらに「御」をつけたらトリプル? ちょっと(相当)過剰ですね)
実は私も医者になってすぐ、これをつけるように教わって以来ずっと使っています。3年前までは「机下」派だったのですが、これは画数が侍史より少ないから、というまったく人に言うには恥ずかしい理由による選択でした(でも……手書きの場合にはこの画数の違いによるコンマ何秒の節約もたまれば大きいのです……と弁解モード)。
私が教わったのは机下は「机の下に差し出しますからお好きなときに読んでください」という意味だったのですが、「つまらない手紙なので読み終えたら机下のゴミ箱に捨ててください」という意味だ、というのも聞かされて考え込んでしまいました。だって紹介状を捨てられたら困りますから。(もちろん捨てる人はいないとは思いますけれど)
それに対して侍史は、本来貴人のそばに控えている書記のことで、直接お渡しするのは畏れ多いから侍史を経由して手紙をさし上げる、という意味になるそうです。こちらだと間違いはなさそうなので、現在私は「侍史」を愛用しています。(最近紹介状はパソコンで作るようになったので、画数が関係なくなった、というのも一つの理由です)
しかし、おそらく医者にさえならなければこんな単語を使うことはなかっただろう、と思うとちょっと不思議な気持ちになります。ついで(?)ですから他の脇付の「膝下」「台下」「親展」「平安」なども使ってみたい気にもなってしまいますが……私がうっかり書くと見事に使い方を間違っていて(親に対する脇付を他人に使ったりして)恥をかくのがオチでしょうね。
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