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 現在の医療破壊の波の中で目立ちませんが、精神科の病床を削減する話もあります。

「精神病床35万の2割を削減」
http://www.asyura2.com/0406/nihon14/msg/282.html

 いや、この場合政府の言い分もわかる部分があります。精神病院を覗いたらすぐわかりますが、異常な長期入院(20年とか30年とか)の人がごろごろいるのです。さらに、この記事の中でも書いてありますが、日本の精神病床がずいぶん多いのはたしかです。

 なぜ長期入院になるかのでしょうか? 理由の一つは「なかなか直らない」(治療が下手、という見方もあるでしょうが、たとえば暴力性が大の知的障害者といったタイプの人もけっこう精神病院に入れられています。福祉施設では処遇が困難だからでしょうが、これは「直らない」でしょう)。だけどもっと大きな理由は「病院から出ても行き場所がない」です。つまり「出口が狭い」のです。
 入院してくる人は一定の割合でいます。入り口に比較して出口が狭いと、当然“渋滞”が発生します。だったら入り口から出口までの時間距離を伸ばすか収容人数を増やすしか需要に応える方法はとりあえずはありません。

 で、怒った厚労省は「精神障害者は社会に帰す」と宣言したわけです。
 ところがこれは「出口を広げる」のではなくて、精神病院内部の「渋滞」を強制的にすくい取って社会に戻そうとする行為でした。入院治療が必ずしも不必要な人たちをとにかく外来治療にしろ、というわけです。

 では、行き先は? 厚労省は「家族」と言いたいでしょう。しかし、引き取る家族がいるのなら、退院できる状態で30年精神病院で過ごす人はふつういません。
 では、自立。
 職についてはあとで考えましょう。日本ではまだ精神障害者は生活保護が受けやすいので、当面はそれで生きていってもらうことにします(異論はあるでしょうが“緊急避難”です)。でも、どこに住むかは重要です。ホームレスにしたのでは病院から出した意味がありません。まずはアパートを探しましょう。さて、ここで求められるのは、入居一時金と保証人です。何十年も病院に“捨て”られていた人が、数十万円の貯金と保証人として使える知人を持っている、と思う人、手を挙げてみてください。(手を挙げるのは、「連帯保証人になってやる」という人でもいいです)
 次に就職。精神障害には「再燃」の問題が常について回ります。薬で症状が抑えられているとしても、いつかまた状態が悪くなる可能性があります。その確率を少しでも減らすために外来通院が欠かせませんが、定期的な外来通院に理解のある職場が日本でどのくらい期待できるでしょうか? これは「現場」にいて毎日忙しく働いている人たちにはよくわかっているはずです。



 余談です。重大な犯罪を犯した精神障害者は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」によって、再犯のおそれがなくなるまで釈放されません。つまりは“無期懲役”です。(これは「心神喪失」を無罪を勝ち取るための手段として使った人がいることへの社会の反発ではないか、と私は感じています。「理屈を上手くつけて処罰を逃れるのはずるいぞ」という素朴な感覚でしょう) しかし……健常者は、再犯のおそれがばりばりでも刑期満了だと堂々と釈放されるので、結局“要領”の良い者はちゃっかり振る舞って、本当に救われるべき精神障害者が割を食うのではないか、と私は思っています。


 社会に生きていて「自立」した人間は他の人間の支援ができます。もし他者の支援を一切しない人がいるとしたら、その人は自立しているのではなくて孤立しているだけ、あるいは社会にただ乗りをしているだけです。

 そして「障害者の自立」にはまず「障害者が社会に出てくる」ことが必要です。社会から隔離された状態を自立しているとは呼べません。つまりあなたや私の隣りに障害者がやってきて共に仕事や遊びなどをすること、それが自立への第一歩です。それをあなたや私は(タテマエではなくてホンネで)望んでいるでしょうか?

 精神障害者に関して言えば、昔は「精神障害者はどこかに閉じ込めておけ」という考え方が主流でした(今でもそう主張する人はいます。特に異常な事件が起きた直後にそういった言動が増加することが観察できます)。その「どこか」とは、明治時代には座敷牢や脳病院、最近は精神病院です。しかし精神障害によって惹起される症状の一定の部分は飲み薬でコントロールできます。多くの人は入院でなくても外来通院で症状を管理できるのです。もちろん再燃の問題がありますし、本人たちの不安感などの問題もありますから、退院できるとしても病院から一挙に社会に出るのではなくて社会復帰のための中間施設に移る人も多くいます。ところがこの中間施設に対して、「社会」はどのような反応をしているでしょうか。


 以前住んでいたところの町内会での話です。ある日二つ向こう(隣の隣町)の町内会から回覧板が回ってきました。なんでもそこに、精神病院から退院した患者さんたちの社会復帰のための中間施設ができそうなので、ぜひ皆さんにも反対の署名を、というものでした。私は署名しませんでした。しかし、我が家の隣にそんな施設ができるとしたら、それに大賛成できるか、と自問してしばらく考え込んでしまいました。
 ともかく、政府は「精神障害者は地域社会へ」と言っています。しかし地域社会(の一部、あるいは多く)はそれを拒絶しています。それが事実です。

 「反対運動」でインターネット検索をかけてみると、日本中でさまざまな“迷惑施設”に対する反対運動が起きていることがわかります。ざっと見るとその中には精神障害者の施設だけではなくて、老人施設や保育園などにまで建設反対運動が起きています。この検索結果だけを見ると、「日本社会は精神障害者の社会復帰(=自立)を喜んでいない」それどころか「日本では社会的弱者を排除しようとする風潮が強い」という結論が出てしまいそうです。

 「“可哀想な人”に施設が必要なのはわかる。自立の支援も必要だろう。でも自分からは見えないところに施設は作ってくれ」こう主張する人もいます。どこか遠い山の中か無人島にでも施設を作れ、という主張です。しかし、先述したように、社会から障害者を「隔離」するのは、「姥捨て山」を作るだけで「自立を支援」していることにはなりません。



 さてと、ではいつも(?)の質問タイムです。
1)あなたの自宅のお隣に「昨日精神病院を無事に退院できました」という人が引っ越してきました。あなたはその人を「お隣さん」として受け入れますか?
2)あなた(あるいはあなたの家族)が精神病院で治療をうけてずいぶん良くなりめでたく退院となりました。さて、あなたは近所の人にそのことを受け入れて欲しいですか?





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