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(本日のお話はフィクションであり、実在の人物・施設・介護保険に似ていても、それは偶然の一致です)
ずいぶん前(といっても、今世紀になってから)のことです。何ヶ月か前に退院した患者さんの家族からすごい剣幕で電話がかかってきました。要約すると退院直前に介護保険の申請をしていたのですが、要介護度2と認定されたのが気に入らない、というのです。で、2が4になるように主治医意見書を書き直してくれ、と。
介護保険の仕組みに詳しくない人のために、簡単に解説です。認定される要介護度は1〜5まであって、数字が大きいほど状態が悪くて介護保険でたくさん面倒を見てあげよう、ということになっています(軽症の人は要支援(現在2段階あります)か自立、と認定されます)。
数字の違いは状態の違いですが、有り体に言うなら、数字が増えるほど一ヶ月に保険で使える金額が増えます(要介護度の2と4だと大体月額10万円くらい違います。ただし、1割の自己負担なので、使えば使うほど自己負担も増えます。で、要介護度によって決まっている限度額を超えて何かしたい(あるいは何かを購入したい)場合は限度額を超えた分はすべて自己負担になります)。要介護度は、主治医が書いた意見書とケアマネージャーが訪問調査した結果とをつきあわせて認定審査会で審査して認定されるシステムになっています。
さらに言うと、「医療と介護は別物」のタテマエによって、最初の構想では介護保険の認定には医者は関与しないことになっていたそうです。それを医師側が「病気で要介護状態になる人が多いだろうに、それを医療の素人だけで判断するのは危うい」と口を挟んで今のシステムになった、と私は聞きました。ですから、主治医意見書は実は後付けのものなのだそうです。
ともかく、「この患者さんがどの程度の認定を受けられるか」は、主治医意見書を出した時点では私にもわからないのです。
で、電話の声は、とにかく前回の主治医意見書を書いた“責任”を取れ、の一点張りです。「認定にご不満なら、私にではなくて、そういう認定をした審査会に異議申し立てをしてください。そういう手続きがありますから。あるいはここ最近大きく状態が変わったのなら申請をやり直せば新しい認定がもらえます。その場合は診察の上で主治医意見書を書き直す必要があります」と言いながら、退院後はこちらには全然受診されていないのを思い出しました。退院時に近くの開業医宛に紹介状を書いていて、そちらに通院しているはずなのです。「現在の状態が退院時より明らかに悪いのなら、その旨を私が紹介状を書いた○○先生に主治医意見書として書いてもらったらどうです?」と言うと「『そんなものは書けない』とあっさり断られた」とのこと。
……つまり、退院後の状態はそれほど変わっていない=現状は要介護度4相当ではない、ということですね?
結局「これだけ言っても書かないというのか!」と電話をガチャ切りされました。
だけどねえ、何と言われても私は「4にする意見書」は書きません。「現実を見て意見書を書いたらその結果として要介護度が4になる」ことはありますけれど。特に現在の意見書は大切なことが落ちてしまう形式ですから、備考欄には力を入れて切々と現状(「数字としては出ないけれど、こんな状態だから介護の手がかかるんだよぉ」)を具体的に書きます。でも、現実を無視した意見書を捏造する気はありませんし、そもそも私の書いた意見書が現実やケアマネージャーが書いた調査書とかけ離れていたら私の信用問題になってしまいます。もちろん「なんでこの患者さんが要支援なんだ?」とか「へー、この程度でも要介護度○がもらえるんだ」とか思うことはありますが、それはまた別のお話。
子どもの通知表と少し似ています。最近の小学校の通知表はことばをぼかしてわかりにくくなっていますが、私の時代には1〜5で(相対評価ではありましたが)成績がはっきりわかりました。で「他の子が100点をばんばんとるテストで30点でも、通知表の2は気に入らないからうちの子は4にしろ」と教師にねじ込む親はいませんでした……いませんでしたよね? ……いたかな?
……しかし、通知表の2は嬉しくないですが、要介護度の2は「まだ軽い方で良かった」と思うことも可能なんじゃないかなあ。状態が軽いのが嬉しくないのかしら。
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