最近話題になっている「採血器具の使い回し」。もちろん誰かにぶすりと刺した針をそのまま交換せずに次の人にも刺すのは論外ですが、採血器具の先端のプラスチック部分から病気が次の人に伝染することがどのくらい考えられるのだろうか、と私は考えこんでしまいました。
「感染の可能性がある(理論的には確率がゼロではない)」と「感染の可能性が現実的に存在する」とは違います。それは細かく分けて考える必要があります。さらに、地球規模にまで視野を広げる必要もあるでしょう。
最初の報道は、私の記憶では、糖尿病の自己血糖測定用で複数の針が最初からセットされていて手動で回転させれば新しい針に変わるのを、自動で回転すると勘違いして同じ針を次々違う人に刺した、というものでした。で、ここでも、実はあそこでも、と報道が積み重なるうちに「針は換えているんだけどキャップは換えなかった」が登場しました。針には明らかに血液が付着しているから感染が起きる可能性は高いでしょうが、キャップやホルダーから?
そもそもは個人専用の採血器具としてのコンセプトで開発されたものですから、毎回針は交換するにしても、本体やキャップは交換しない前提の製品だったのです。問題は、その個人用の器具が病院で多人数を相手に使われたことです。 もちろん病院でも「個人専用」とすることは可能です。バーのボトルキープのように棚にずらりと採血器具を並べて「はい、○○さん、いらっしゃい。あなたの採血器具は……」とやればよいわけです。ただしその場合、採血器具の取り違え事件(他人の器具で採血をしてしまった)が発生する可能性は高いでしょうし、棚のスペースをどう確保するかの問題は生じます。
さらに最近は、ホルダーに真空スピッツを差し込むタイプの採血器具が話題の中心に座ったようです。以前はスピッツの中が滅菌されていないから勢いよく流入した血液が体内に逆流して感染を起こすのではないか、と心配されました。今は滅菌されているそうですが、こんどは「使い回し」をされているホルダーから感染が起きるのではないか、という心配が浮上しているのです。だからニュースの検索をかけたら「使い回し」「使い回し」またまた「使い回し」です。だけど、複数の話題が一つのキーワードでまとめて語られていませんか?
さて、この採血器具で、ホルダーを介して他の人に感染を起こさせるためには、次の条件がすべて満たされなければなりません。
1)最初に刺された人(Aさん)の血液がホルダー(注射器で言えば、筒の部分)を汚染する。
2)次の人(Bさん)の皮膚にその血液がスタンプされる。
3-1)Bさんの皮膚に傷があってそこからAさんの血液が侵入する。
3-2)スタンプされた血液の部分を針が刺してBさんの体内にAさんの血液が入る。
4)Bさんの体内に、感染を起こすに足りる十分な量の病原体が侵入する。
肉眼的に血まみれの器具を次の人にも平気で使うのは論外ですが、目で見えないくらいの微量汚染だと、2)と3)が成立したとして4)までいくのは……感染力の強い、たとえばB型肝炎でしょうか。ただ、3-1)が成立するためには皮下組織がむき出しになっているような生傷でないと困難でしょう(普通の出血しているような傷やふさがった傷だったら外部からの侵入は困難です)。ただ、痛々しい傷のところで採血しますかねえ。3-2)も、スタンプしたところとは別の所を針が刺すように思います。わざわざキャップやホルダーでずりずりこすって血液を塗り広げたら話は別ですが。
ということで、ふつうに考えたら3)のところが成立しにくいのではないでしょうか。
もちろん理屈通りに世の中は動きませんから、大切なのは現実です。いくらおかだが何やら言っても、実際に採血器具を介しての院内感染が次々発生しているのなら、当然現実優先です。イギリスでそういう症例報告があった、というのは聞いていますが、それに対する反論もあるそうなので、私は何を信じたらいいのか現時点ではわからないのです。
考えるのが面倒くさいからとにかく「万全の対応」をすればよいのだ、となれば、まずは……ホルダーの使い捨て(コストがかかり、ゴミを増やし、有限な石油資源をさらに減らし、CO2発生を増やします)。以前の針と注射器方式にする(どちらも使い捨てですから「使い回し」はなくなります。コストもホルダーを捨てるよりはおそらく少しは安くなるでしょう。しかし職員の針刺し事故は増えることが予想できます)。なんだか、どちらを選択しても“よくないこと”があります。
「エコ」とか「CO2削減」などの観点からは、石油製品の大量消費は望ましいことではありません。医療の場合は「安全」という“錦の御旗”があるからこそ現在はそれ(石油製品の大量生産、使い捨て)が認められていますが、生産の面とゴミ捨ての面から、それが永遠に続けられるでしょうか。石油は有限の資源です。私が子どもの頃には「埋蔵量はあと数十年分」と言われていて、今もやっぱり「あと数十年分」ですが、残が正確にはどのくらいかはともかく、無限に埋蔵されていないことは確実です。そのときのことも今から考えておかなければなりません。廃棄物の処分場も、大丈夫ですか?
私としては「ホルダーなどからの感染は実は心配する必要がない」という根拠を示してもらえるのがとりあえず一番“楽”なんですが……どこかにありませんかねえ。
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