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昔いたところでは、春になると自殺目的で農薬を飲む人が続いて、季語か、と言いたくなりましたっけ。
クロルピクリンという気化しやすい農薬を自殺目的で飲んだ患者が運び込まれた救急室で、吐物から有毒ガスが発生して大騒ぎになった、というニュースがマスコミで大々的に報じられています。
一例として、読売新聞の記事「農薬自殺男性が吐いた物から有毒ガス、54人体調不良…熊本の病院」
この事件の問題点を整理すると以下のようになるでしょう。
#1 患者が死亡したこと
#2 無防備に医療スタッフが次々巻き込まれたこと
#3 他の患者や家族も巻き込まれたこと
では考えられる対策は……
0)患者本人の救命ができなかったことへの医学的対策は、特に思いつきません。医学以外なら、たとえば本人の「死にたい」という意志を尊重してなにもしなければおそらく病院でこういった騒ぎはおきなかったでしょうが、それは倫理的にはどうなんでしょう。この場合は意志が遺志になってしまいますが。
1)救急搬送場面。まずは救急隊員を守らなければなりません。気密のストレッチャーか気密の救急車(後者の場合、救急隊員が防毒面か宇宙服を着用)を全国に標準配備する必要があるでしょう。SARSがニュースで大々的に取り上げられたときに気密のストレッチャーがニュース画面に出てきたのを見た覚えがありますが、あれは寝かせて運んでいるだけで救急処置は困難に見えました(気密を破らずに手を突っ込むのは難しそうです)。だけど自殺目的で農薬服用の場合は、絶対に救急処置が必要です。さて、どうすればいい?
2)救急室を共有にしない。これで少なくとも#3は予防できます。救急室が一つしかない病院はそこが空くまで次の患者の受け入れはストップとなりますが。
3)救急室を「ガス対応」にする。
部屋を気密にして外に何も漏れないようにする(出入り口はエアロック。換気は閉鎖式で外界より低圧にしておく。人は宇宙服を着用)……全病院に設置するのは大変ですね。でも、ここまでやれば、少なくとも上記の#2#3は予防できます。
4)到着前に有毒ガス発生の可能性についての情報が病院にもたらされる。
ハードだけではなくてソフト面も大切です。
情報として「何を飲んだか」が正確に伝えられることが大前提ですが、それを生かすために「気化しやすい農薬」の名称のリストが欲しいですね(一般名や商品名だけではなくて、俗称も。私は一度「農薬を飲んだ」患者の診察でもらった情報が「ナメクジ殺しの薬」というだけであとは「商品名は覚えていない」「瓶は捨てた」で、これでは中毒センターから情報をもらうことも不可能どうすりゃいいんだ、と途方に暮れたことがあります(なぜかこういった場合、家族は瓶を捨てることが多いのです。捨ててなくても「納屋には瓶がずらり、なので、どれを飲んだかわからない」と言われることもありますが))。ただし、その薬品が瓶や試験管から気化しやすいかどうかだけではなくて、人体に入ってからのその薬物の運命についても情報が必要です。呼吸や嘔吐だけではなくて、採血や採尿をしたらそこから有毒ガスがもわ〜っと、では困りますから。さらに、単体で気化しやすいかどうかだけではなくて、他の農薬や薬剤などとの相互作用も情報があらかじめ準備されていると助かります。農薬自殺の場合、少なくとも私が経験した例ではすべてが一種類だけの服用でしたが、二つ飲むとか三つ飲む例が絶対ないとは言えませんし、常用薬物との相互作用もあり得ます。その場合に人体内で有毒ガスが発生する可能性があるのかないのか、どなたかリストを作ってくださいません?(混ぜて飲んだ場合と、単独で次々飲んだ場合とで差があるかどうか、についてもお願いします) あ、そうそう、体内で代謝を受けて変化する場合についても、よろしく。
救急車到着時に顔色を見ただけで「あ、これは○○を飲んでいる」と診断がつけば良いのでしょうが、おそらく数千種類はあるだろう市販されている化学物質についてそれぞれの自殺目的使用時の性質および複合反応(ガス発生の可能性)について頭にすべて入っている人は、あまり世界にいないと私は思います(それとも私が無知なだけ? もしそうだったらお恥ずかしい)。だからリストが欲しいのです。
ただ、到着時に(あるいは到着直後に)「有毒ガスの可能性あり」とわかることは、それはそれで新しい問題を引き起こします。救急室がガス対応になっていなければ#2の問題が(他の患者がいたら#3も)発生するのですから。「有毒ガスに対応できる病院に行ってくれ」とその病院が受け入れ拒否をやって、いいです?
以前パラコート服用患者の処置をやっていて、気持ちが悪くなったことがあるのを思い出しました。パラコートは組織移行が早くて、肺から呼気に乗って出てきていたのです。苦しくて呼吸が荒いからどんどん体からパラコート混じりの空気が排出されて、病室がパラコートのガス室になっちゃったわけ。急いで窓を開けて事なきを得ましたが(その証拠に今でもこうやって無事に生きています)今回のニュースも他人事ではありません。
そういえば最近流行している硫化水素自殺。あれも処置する人間はガスを吸わされるわけですよね。今回のように大量発生だとニュースになりますが、ごく少数例の巻き添えは全国に意外に多いのではないかなあ。
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研修医がたくさんいる市中の病院の医師からの又聞きですが、最近の研修医の多くはみごとにマイペースだそうです。耳にした具体的な行動を一々書くのはやめますが、指示待ち・指示されても嫌がる・汗をかきたくない・他人の目を気にしない……なんてことが平気だそうな。まあ「伝言ゲーム」でちょっと大げさに私に伝わっているのではないか、とは思いますが、それでも「俺の若い頃に比べて」と指導者たちはかりかり来ているそうな。
ある大学の医局では若い医者の「田舎嫌い」が問題になっているそうです。便利でなんでも揃っている都会の病院指向で医局命令でも田舎に行きたがらない。結局しわ寄せが中堅の方に行って若い頃田舎で苦労した人が中堅になってまた田舎行きの辞令をもらっているそうです。
「若いときの苦労は、買ってでもしろ」と昔は言いましたが(死語シリーズに追加?)研修医の気質に大きな変化が生じているのでしょうか。
いや、そうではありませんね。「研修医が変化した」のではなくて、今どきの高校生がそのまま医学生になって研修医になっただけでしょう。だから、今どきの(若い)患者さんにはピッタリの対応ができるんじゃないかな。古い患者さんは……古い医者が対応しましょうか?
ただ、あまりに苦労知らずの人たちがそのまま医者の主力になってしまったら、今の医療崩壊はどうなるんだろう? いや、「あまり頑張らない医療」になって、お互い幸せなのかもしれません。
制度の不備を補うために多くの個人が身を粉にして頑張った結果が今の医療崩壊です(もちろん「ただ乗り」した人や濡れ手に粟だった人もたくさんいたようではありますが)。だから「頑張らない」のも医療崩壊に対処する一つの方法論かもしれないと私は最近思うようになってきました。
……これって敗北主義?
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