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2008.04.13 07:19 |  診療  |  医療制度 / 行政  |  医療事故  |  社会・歴史  |  おかだ  | 推薦数 : 1

『死因不明社会』読書感想

 『死因不明社会 ──Aiが拓く新しい医療』海堂尊 著、 講談社ブルーバックス、2007年、900円(税別)

 『チーム・バチスタの栄光』などに登場する“ロジカルモンスター"「白鳥室長」へのインタビューから本書は始まります。ブルーバックスにフィクションが進出するとは異例です。この人、厚労省のお役人という設定なのですが、干されているせいか厚労省への悪口が止まりません。日本の死者は年間100万人以上。そのうち解剖されて死因がきちんと確定されているのは約2%。残りは体表からの観察だけで“死因"が決められています。それは解剖が儲からないから厚労省がなるべくやめる方向に誘導しているからなのですが…… それで良いの?と白鳥サン(著者)は問います。今の医学は「死」を「糧」にすることで進歩してきたのにそれをやめてしまって良いのか、と。犯罪絡みの死者に対する司法解剖は年間きっちり5000例。つまりは予算のシバリがかかっています。それ以上の犯罪は放置、で良いのか、と。さらに、事故調の発想は、監察医制度がほぼ完璧に機能している東京の住人ならではの(東京以外の地方を全く無視した)ものでしかない、とバッサリ。
 一時、研修医病院の基準に解剖率の数字も含まれていて、私も副院長に尻をたたかれて亡くなった患者さんの家族の方に解剖をお願いしていた時期がありました。ところが1995年にそのシバリははずされているそうです。あのお願いは、する方もされる方も辛いものですから良かったね、と言いたいところですが、解剖によって診断が変わった例が12%(以上)ある、という論文の紹介を見るとあまり喜ぶわけにもいきません。
 著者は「解剖率の低下に病理医の意識などを持ち出す人がいるが、それは間違い」と主張します。それは著者が病理医だから、というだけではないでしょう。実際私も解剖を依頼して断られたことはありません。原因があるとしたら臨床側(と厚労省)でしょう。ただし、もしも臨床側がどんどん依頼したとしたら、こんどは解剖側がパンクします。だって厚労省は解剖に“余分な"お金を出す気がないのですから(もちろん問いただせば「そんなことはどこにも書いてない。必要なお金は出す」と口では言うでしょうが……私は臨床の人間なので、相手の主張よりは行動やデータから“診断"をつけたいのですよ)。2006年現在の日本では、司法解剖などができる法医学者は119名、病理解剖ができる病理学者は1928名で、着実に減少中だそうです。(ちなみに、病理学者のメインのお仕事は、生検の判定などです)
 解剖の詳細については、本書を読んでください。ただ医師がいればできるようなものではないことはすぐわかるでしょう。私は解剖室での見聞からそのことは最初からわかっているつもりでしたが、解剖室の清掃は病理医がするべし、という通達を旧厚生省が出していたのは知りませんでした。官僚には官僚の理由があるのでしょうが、解剖が終わった病理医に病理検査ではなくて清掃をさせているのは、人件費の無駄遣いのような気がします。
 そして近い将来に起きるのは、法医学と病理学の崩壊です。原因は、厚労省が金を出さないこと(白鳥室長いわく、儲からないし美味しい天下り先にもならないし……)とリスペクトがないことと……

 著者は厚労省や学会トップの悪口で済ませてはいません。
 死亡時医学検索システムがちゃんと機能しなければ、事故調も裁判員もきちんと判断できない(あるいは根拠なしに判断する)ことになります。これは国民全体の問題です。どこでどんな議論や調査をするにしても、正しいデータ(証拠)がなければ冤罪を作るだけなのですから。そこで著書が持ち出すのは「えーあい」です。えーあい=Ai(オートプシー・イメージング)。要するに死亡時に画像診断(全身CTやMRI)をするわけですが、利点がいくつもあります。
・遺体を傷つけない。
・判定が早い。
・解剖が本当に必要な人をピックアップできる(解剖を補完する)。
・普段解剖しない場所(たとえば腸骨)も見ることができる。
・治療効果判定もできる。
・医療の透明化と患者主体の医療が実現する。
難点は……コストとマンパワー。それと(まだ)普遍的な検査ではないため、現場での抵抗(理解不足)。コストは厚労省が頑強に抵抗するでしょうね。「1件さんまんえん! 100万人の死亡でいくらかかると思うんだ!! 却下キャッカきゃっかぁ!!!!」と。しかも健康保険法は「(保険が認めた)疾病の治療」が目的ですから、AIは健康保険にはなじみません。おそらくやるとしても厚労省は「やりたかったら勝手に自費で」と言い出すんじゃないかしら。
 私は「Ai以外に日本の医療や犯罪捜査にもっと良い方法がなければ、Aiを採用したらよい(もちろん、解剖と併用)」が現在の立場です。
 そうそう、「死因」は「究明」されるものではない、という点でも私は著者と同意見です。殺人以外では、死因は「確定」されるものですよね。

 「死因確定は基本的人権である」……本書を貫く通奏低音はこれです。ふざけた口調が目立ちますが、それにごまかされてはいけません。著者の態度は真摯です。たとえばホスピス医療に対するAiの必要性を説くところなど、私は読んでいて涙が出そうになりました。本書はもしかしたら「『後期高齢者』に医療を制限したい」厚労省に対する、もっとも強硬な抗議であるのかもしれません。

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