まったく無視されていた研究が、たとえばノーベル賞を受賞したら突然時代の寵児扱いすごいぞすごいぞとマスコミが持ち上げる持ち上げる、の大騒ぎは良くある話です。「人を見る目がない(身近にあってもその良さが自分のおつむでは評価できず、他人の高い評価を知ってはじめてその価値がわかる)」のか「舶来に弱いだけ(自分のおつむでは評価できず、外国人が高く評価してはじめてその価値がわかる)」なのかは知りませんが。どちらにしても、国内の素晴らしいものから眼を背け、海外で高く評価されて後追いをすることしかできない人(あるいはマスコミ)は、肩の上に乗っている「おつむ」に「おむつ」を当てた方が良いのかもしれませんな。
ところが日本の医療制度、WHO(世界保健機構)では評価が高いのに、日本国内では全然「見直したぞ」と言われませんねえ。どうしてでしょ? こういったときだけ「よその評価はよその評価。自分の評価は自分の評価」ですか。しかし、20世紀末にはWHOに「世界一の保健医療制度」と褒められていた日本の制度、「改革」が必要というのは一体世界何位にしたいんだろうと私は危惧していましたが(だって世界一位がイヤ、ということは、それより順位を落としたいということでしょう?)、なんだかその危惧があたりそうな不吉な予感がしています。いや、もう当たっているのかな。コワイからWHOの医療制度の国際比較のページが開けません(モニターで英語を読む気力がなくなったのかもしれませんが)。興味のある方はご自分で覗かれて、ついでにその結果をご教示下さったら幸いです。
医局の私の机には『
図表でみる世界の保健医療 OECDインディケータ(2005年版)』(明石書店、3000円(税別))という本が置いてあります(幸いこれは日本語です)。これもまた「海外の評価」なんですが、ぱらぱらめくると面白いデータ(の国際比較)に次々お目にかかれます。OECDによって本当に様々な要素での各国のデータが集めてあって、一目で比較できるようにグラフ化がされています。
……もしかしたら日本のマスコミは「おつむ」や「おむつ」の問題ではなくて、「WHO」のことを最初から知らないのかもしれませんね。ならばOECDのことも知らないでしょうから、念のために簡単に追記。OECDとは経済協力開発機構のことで全30ヶ国、俗に先進国グループと言っても良いものです。閑話休題。
では適当にぱらぱらとめくってグラフを読んでみましょう。面白いですよ。(以下は、本当に適当にページをめくってピックアップした項目です)
【死因】日本は他殺の死亡率は1番の低さです(最悪はアメリカがダントツです)。ところが自殺の死亡率では、日本は下から3番目。他人には殺されにくい国だけど、自殺はしたくなる国、ということです。
【低出生体重】かつての日本は、低体重で出生する子どもは少ない方でした(全新生児の5%)。ところが近年その率はぐんぐん上昇し、最近ではOECDの中で最も率が高い(9%)国になっています。その原因は、女性の喫煙・出産の高齢化・不妊治療などが考えられるそうです。ただ、低体重出産が増えても死亡率は落としているのですから、日本の産科医療はほめられるべきだと思います。実はレベルの高いことをやっていますよ。
【予防接種】意外なことに日本は小児の麻疹の予防接種が100%となっています。あれまあ、私は以前「日本は麻疹の輸出国」と書きましたが、嘘を書いたのかな……と一瞬心配しましたが、実は若者はこっぽり抜けているし、一回は打ってもちゃんと2回目を打つ人が日本は大変少ないのでした。やれやれ、安心しました(おっと、安心してはいけないのですけれど。昨年大学などであれだけ流行したことをもうみんな忘れているのでしょうか?)。
【肥満】日本はダントツのトップ(肥満が少ない国)です。ダントツのビリはアメリカ。まあ、予想通りですね。
【総カロリー摂取量】これは予想通りアメリカがトップで日本がビリ。ただ、アメリカも集団のトップといった感じで、それほどダントツではありません。体重ではダントツなのに、その差はなんでしょう? アメリカ人のライフスタイルは食事だけではなくて全体として太りやすいものなのかな、と考えたくなります。
【医療機器】CTやMRIは日本が異常に多くなっています。他の国に比較して明らかにとんでもない突出です。そういえば、私の学生時代にCTが普及し始めましたが、私の住んでいた県で最初に買ったのは、大学病院ではなくて開業医でした(機械はがっこんがっこんと1度ずつ回転し、写真ではなくて英文タイプライターで擬似的に所見を打ちだしていた時代のお話です)。
【ベッド数】急性期治療ベッド数に関して日本はダントツの一位です。今それはどんどん削減されていますからそのうち(OECDの中では)“並み”になるでしょうけれど。
【人口当たり医師数】日本は上から27番、つまりはビリから4番です。ただし、日本より下位の、韓国・メキシコ・トルコはいずれもどんどん医者を増員していますから、そのうち抜かれそうです。幸い(?)日本のすぐ上のカナダが医者の増員をしない方針らしいのでそれを抜けばビリにはならずにすむでしょうから、ご安心を(って、誰が?)。
【保健医療支出】国民一人当たりの国際比較では、日本は上から18位です。GDPに占める割合でも同じ順位。先進国で平均以上になるためにはまだカイゼンの余地あり、ですね。
【その他】保険医療制度とは直接の関係はありませんが、国民一人当たりGDPは上から17位、「貧富の格差」を示すジニ係数では上から(所得格差が無い順番で)16位、さらにその格差は拡大中、ということがグラフから読み取れます。(つまり、日本はOECDの中では格差が“ある”方のグループです)
日本の「公共事業」ではモノ(ダムや線路や道路やハコモノ)に投資することが重んじられ、ヒトを育てることは軽視されています。それと同じ傾向が、日本の医療にも見られます。もの(ベッドや先進医療機器)には非常に多くが投資されていますが、人への投資はケチられています。つまりはこれが日本の“風習”なのでしょう。同じ価値観が公共事業にも医療にも通用しているわけです。
「日本は経済大国」「自由世界でGNPが第二位」と聞かされて私は育ってきました。だから私の意識の中では日本は「大国」です。しかし、データは別のことを物語っています。日本は先進国グループの中では中位の国のようだと。だったら医療制度もそれにふさわしく、世界で20番くらいのもので良いことにします? 中位の国にトップクラスの医療は“贅沢品”なのかもしれませんから。あ、それが厚生労働省の目論見なのかな。
※国際的な見地から日本の医療を論じたい人は、せめてこれくらいのデータ集には目を通しておいた方が自信を持って主張を展開できそうです(ネガティブな言い方をするなら、後で恥をかかずにすみそう)。なおこの本は、これまで2年ごとに出版されていたので、今年中に2007年版が出版されるだろうと私は予想します。ゆっくり購入したい人はそちらを待たれるのも手でしょう。
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……ということは、アメリカに貢ぐ、という名目が立てば、日本の医療費の削減は無くなるかもしれません。何か良い知恵はないでしょうか?(^_^;)
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