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行きつけの本屋で、週刊朝日MOOKの「手術数でわかるいい病院2008」が目につくように平積みされていたので、ちょっとぱらぱらめくって見ました。脳血管疾患や癌などの手術数のランキングが一覧表で載っています。全国集計だけではなくて、ご丁寧に地域別のページもあります。よくまあこれだけ集めたものだ、と感心しますが「データを集める手法が統計学的に妥当なものなのか」とか「数字の正当性の裏付けが取れているのか」がちょっと気になりました。
「手術数」の理屈はわかります。「数をこなしていなければ腕は上がらない」……これは(手術ではありませんが、検査手技や治療手技に関する)私の体験からも真実と言えます。(たいていのことは、最低100、できたら1,000やればそのことに関して一丁前のことは言ってもいいだろう、が私の経験則です)
また、「名医がいる」と評判が立てば遠方からも患者が集まり、その結果手術の件数は増える、というメカニズムも考えられます。ですから「手術数」を一つの目安とする、という考え方に取りあえずは首肯できるのです。
しかし……
「手術数」だけ見たら「いい病院」が簡単に判断できるのでしょうか?(このMOOKを買う人の多くはそれを期待しているはずです) 私は、本は元に戻し、疑問を抱えて帰宅しました。
1)『チーム・バチスタの栄光』(海堂尊、宝島社)には「すごいチーム」が登場します。誰か一人欠けても手術成績が落ちてしまうだろう、優秀な人間の集まりです。ではこのチームがスカウトされたとして、そっくりそのまま他の病院に移ったらどうなるでしょう。
新しい病院での手術数はまだゼロです。したがってこのムックでは新しい病院は「いい病院」として評価されないことになります。チームが抜けた前の病院が「いい病院」。(実際には、手術チームだけではなくて手術後の病棟での管理も重要ですから、手術チームだけスカウトしても“基礎体力”のない病院だとその良さが活かせないでしょうけれどね)
2)「手術数」も大切でしょうが、それよりも大切に思えるのは「手術成績」です。「たくさん手術した、たくさん失敗した」では意味がありません。手術によってどのくらい“治った”かの成功率が高くないと意味がありませんが、この数字を見るにも注意が必要です。
まずは「手術が成功した」と「患者が治った」とが必ずしもイコールで結べないことに注意が必要です(「手術は成功した。しかし患者は死んだ」という言いまわしがありますね)。さらに、患者満足度もまた別の重要な要素ですが、これについてはまた別の機会にでも。
とりあえず、「手術成功率」だけを論じます。
【問】ある特定の疾患(病名)に対する、甲病院の手術成功率は50%、乙病院の成功率は80%。さて、どちらが「いい病院」?
【ありがちな回答】もちろん乙に決まっているだろ!
【正しい答】これだけでは判定できません。
【解説】数字だけ見たら乙の方が“優秀”なように見えます。しかし、実は、甲は瀕死の人ばかり100人、乙では軽症ばかり1,000人を手術した結果だったとしましょう。すると、甲は、瀕死の人を半分は生還させたところですし、乙はたとえ軽症の人でも全員は治せないところです。しかし「数字しか見ない人」には、乙は「手術数も多く、成功率も高いいい病院」、甲は「手術数は少なく、患者の半分も殺した悪い病院」となるでしょう(“瀕死”なのですから、手術の“失敗”はそのまま死にいたるはず)。さらに甲病院では軽症は手術以外の方法できれいに治しており、乙は瀕死の人が来院したら即座に甲病院に紹介して自分の手は汚さない(自分の所では死なない)ようにしている、なんて事情を加えることも可能です。
ということで、私には甲の方が「いい病院」と思えますけれど、意見が合わない人がいたら、残念です。
【結論】手術成功率の数字“だけ”見ても、真実は見えません。手術前の患者重症度とそれぞれの改善度について、きちんと一定共通の基準で評価する必要があります。
単純に数字だけを指折り数えて何かわかったと思う、あるいは人にそう思わせるのは、世間をなめた態度であると同時に医学の複雑さに対して「高を括り」かつ「多寡も括る」態度と言えるでしょう。
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