死語シリーズ第五弾。「薬漬け」とセットでよく言われていたことばです。もう、耳にタコができるくらいに。
クイズです。あなたは以下の医者の外来における行為を妥当だと思いますか?
1)「消化不良がひどいんです。げっぷをしたら楽になります」と言ってきた人に、心電図検査をした。
2)咳がひどい人に、胃内視鏡をした。
内科を学んだ人には解説は不要でしょうが、1)は狭心症や心筋梗塞を考えています。心臓の病気だからと言って「心臓が痛む」とは限りません。その周辺に痛みが放散することがあるのです。2)は逆流性食道炎による頑固な咳を疑ったのですね。
で、医師を軽々しく非難する人は、一見関係なさそうな検査をすると「検査漬けだ」と医師を軽々しく非難します。ところがそういった“無関係な”検査をさせずにおいてあとから別の医師によってその診断がついたら(あるいは誰の目にも明らかな症状が出たら)「なんで早くちゃんと診断をつけられなかったんだ、ヤブ医者め」と非難します。検査をしたら非難して診断をつけるための検査をやりづらくしておいて、こんどは「なんでちゃんと診断をつけられないんだ」。人の両手を縛って水に放り込んで「なんでちゃんと泳がないんだ」と言っているようなものかな。なんで上手に泳げないか、その理由は非難している人が一番知っているんじゃないかなあ。
もちろん、1)の人のお腹も触らずに心電図の指示をするとか、2)の人ののどを見たり胸の音を聞いたりの前にまず胃の検査をする、は、名医か検査マニア(あるいは金儲け医者)です。検査伝票の項目にすべてチェックを入れて「これだけ検査したら何か当たるだろう」式の検査マニア医師は、大ヤブです。もしも頭蓋骨の中に脳味噌が詰まっているのなら、それを使わなきゃ。患者さんとのインタビューで大体方向を絞り込んで病名をいくつか思い浮かべて優先順位をつけて、それが正しいことを確認するために検査をする、これが「王道」です。わからないから検査をするわけではありません。もちろん「正常であること」を確認するための検査もします。「正常だと思う」と「正常である」ことの間には、想像と事実という大きな違いがありますから。大切なのは思い浮かべる病気の確率と重大性の評価です。
……ただ、やっぱり、いくら考えてもわからないことはあります。たとえば、疑った病気の順位で5番くらいまでが全部ハズレだったとき。そんな場合に「もしかしたらこの病気だろうか、どうか当たってくれ」と祈るような気持ちで検査をする医師もこの世にはいるのです。
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