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以前は新聞やTVでよく見聞したのに最近見ることがずいぶん減った「逮捕された○○容疑者は、過去に精神科の通院歴があり……」というフレーズがあります。ということで「死語シリーズ第四弾」です。今でもときどきは見かけるから、完全に死語という決めつけはできないでしょうけれど。
私はかつてこの言い回しを見聞するたびにどこか落ち着きの悪さを感じていました。私が不思議に思うのは、この言い回しが、1)一体何を目的としていたのか、2)実際どんな効果があったのか、3)どうして最近あまり見なくなったのか、の三点です。
1)まず「目的」ですが、「単に事実だから報道した」ということが考えられます。しかしそれなら「○○容疑者は過去に虫歯で歯医者に通院したことがある」とか「××容疑者はスギ花粉症で耳鼻科に通院していた」なんてことも報道する価値があることになりますが、抗ヒスタミン剤による居眠りを疑われる事件以外でこんな報道を見聞した覚えは私にはありません(どなたかご存じですか?)。
ではこの記事は「精神障害者によってその犯罪が起こされた」を婉曲(?)に表現しようとしているのでしょうか。しかし、それが事実かどうかは、裁判(精神鑑定)によって明らかにされるべきことであり、マスコミが検事や裁判官のお仕事を先行代行してはいけないでしょう。「逮捕された後精神鑑定が行なわれ、結果として措置入院となった」「判決で犯行時には心神耗弱状態であったと認められ、結果として刑が減免された」なら報道に耐える“事実”ですが、容疑者逮捕の時点でそんな先のことまで想定して記事を書いているのでしょうか? それとも「裁判なんかなくても俺には全部わかるんだ」という全能感の発揮? 結局私には「目的」が判然としません。
2)次に「効果」です。報道の「目的」はどうであれ、そういった報道を見聞した人の中には「犯罪と精神科通院歴は密接な関係がある」と短絡的に判断する人が少なからず存在します。つまり、こういった報道によって「精神障害者=犯罪予備軍」という偏見が強化されてしまうわけです。
私は、他人に対して害を為す可能性がある精神障害を持つ者が身近にいた場合、その人が「精神科通院中」である方が「過去には通っていたが今は通院を中断している」あるいは「全然精神科にかかったことがない」状態よりも安心できます。なぜなら「通院中」ということは「その人に対して主治医が入院の必要がないくらい状態が落ち着いていると判断している」ことを意味しており、同時に「本人が自分の病気の存在を認めてちゃんと服薬することで病気を管理しよう(再発を防ごう)と努力し続けている」わけですから、そうでない(精神科に通っていない)場合より周囲(私)が迷惑をかけられる恐れがぐっと少ないはずだからです。(もちろん、その可能性はゼロではありませんが、それを言い出したら、精神障害がない人間から私が迷惑をかけられる可能性もゼロではありません。単に「あるかないか」ではなくて、確率的な重みづけによる判断が必要になるでしょう)
しかし「精神科通院」を犯罪と結びつけて見られる世間の目に晒される場合、精神障害者は喜んで精神科に通院するでしょうか? むしろ通院を隠そう、できたら通院をしないようにしよう、と行動する確率が高まります。つまり「通院中」が「過去の通院歴」に変換されてしまうわけ。そちらの方向に精神障害者を誘導する報道が、はたして社会に好ましい効果をもたらしているのかどうか、私には大きな疑問でした(現在完了進行形)。
3)最後に、ではなぜこういった報道が最近目立たなくなったのでしょうか。これは私にはわかりません。実際にそのような行動をしている人に直接聞いてみる必要があるでしょう。もし過去に「精神科通院歴が」と記事を書いていて最近は書いていない記者に会う機会があったら質問してみたいと思います。
そうそう、最近の報道では、「容疑者はわけのわからないことを言っている」という言い回しが目立つように思います。これは「過去の精神科通院歴」の代用なのかもしれませんが、できたら具体的に発言内容を伝えてもらわないと、それこそわけがわかりませんね。たとえばがちがちの左翼の主張はガチガチの右翼には「わけがわからない言葉の羅列」でしかない、なんて可能性もあるわけですので。
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