時代劇の臨終のシーンです。老人が苦しい息の下から「わ、わしが死んだら……」と言いかけたら「お父っつぁん、きっと助かるからそんなこと言わないで」と娘がすがりつく……はい、上手い人が演じたら泣かせどころ、大根がセリフ棒読みでやったら笑わせどころになるシーンです。
で、私にはその娘が「父が最後の息を使って残そうとしていることばに耳を傾けようとしない親不孝者」と見えるのです。(ものすごく難しいことである)自分の死を受け入れるつらいつらい過程を通った人に対して、「そんなことを言ってはならない」と声高に主張することでその受容過程をあっさり否定しさらに文字通り口封じをしようとしているわけですから。その口封じを破るために「お父っつぁん」は乏しい体力をさらに使って「とにかくワシの言うことを黙って聞け」と努力しなくちゃいけないのです。その努力で体力を使いきってしまったら、どうします? まあ、脚本家が上手くやるんでしょうけれど。
でも、脚本家がいない場合には……自分の死を認め受け入れるのはつらいことです。それに耐えて「わしが死んだら……」と話し始めたのに、「自分はあんたの死を受け入れない。死を受容したあんたの心のあり方も否定する」と高らかに宣言するのは、ちょっと残酷すぎません?はい、残酷です。それに、人の話を途中で遮るのは失礼な行為ですよね。
涙をこらえて、あるいは滂沱と涙を流しながらでもいいですから、遺言にはきちんと耳を傾けてあげましょう。肉親の死を否認したいという気持ちは当然の気持ち、でも、この場面での主人公は、遺族(予定者)ではなくて死にゆく人の方なのです。お父っつぁんの死後に遺言通り動くかどうかはまた別のお話ですが、それは遺族同士でゆっくりやって下さい。
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