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昨日の(1)ではヨーロッパと中国の名医を取りあげました。さて、今回は……
日本が世界に誇る名医は、赤ひげやブラックジャックですね。残念ながらどちらもフィクションですが。私も良く言われました「赤ひげのような立派な医者になれ」と。(なぜか「ブラックジャックのような立派な医者になれ」と言われたことはありませんが、それは私が内科だからかもしれませんし、あるいは漫画に対する差別かも。それともブラックジャックが無免許で莫大な報酬を取るからいくら万能でも「立派な医者」として世間では認知されていないのかな) で、そう言われたとき、私は機嫌がよいときには「はい、頑張ります」と言いましたが、機嫌が悪いときには「フィクションを持ち出されてもねえ」と言ってました。テレビゲームを嫌う人がよく言うでしょ、「現実と虚構の区別をきちんとつけられない人間が増えたのは問題だ」と。そうです。現実は現実、虚構は虚構、ちゃんと区別しなきゃ。そういえば大学病院の問題点を指摘するときに言及されるのは必ず『白い巨塔』ですね。日本の医療について論じるのに虚構がお好きな人が多いのは、ちょっと問題じゃない?
話を茶化すのはこのへんまでにして、少し真面目になってみましょう。現実にせよフィクションにせよ「名医が存在する」という状況は、一体何を意味しているでしょうか。
正解その1「その人が名医である」
正解その2「周り中がヤブ」
その1に説明は不必要でしょう。でもその2も当然ですね。うっそうと茂った森林の中だと相当の大木でも目立ちませんが、一面の草原状態だったらひょろひょろの木でもしっかり目立つことができます。
『フルハウス 生命の全容 ──四割打者の絶滅と進化の逆説』(S・J・グールド)では、「大リーグにかつて存在していた四割バッターが最近はなぜ出現しなくなったか」という“謎”がきわめて科学的に(著者は高名な進化論学者です)扱われています。その主因は、ルールや用具の変化と、全体のレベルアップ。全体のレベルが低いときには一部の“天才”が突出して目立ちますが、近代的なトレーニングや用具の進化などで全体のレベルが上がると大リーグ内での格差が減少し、攻撃・守備の一方があまりに有利にならないようにルールが調整されることで最高打率は良くて3割5分くらいに落ち着いてしまったのです。
「名医」についても似たことが言えます。回りがあまりにヤブ医者ばかりだと、普通の医者でも「名医」です。名医だったらブラックジャックです(しつこい?)。だけど、全体のレベルが上がったら、かつての「名医」は目立たなくなるのです。
もちろん私は「名医」を否定しません。医療にはまだまだ「名人技」が存在します。そういった名人技を駆使する医者は「なんとかそのレベルになりたい」という我々の目標になります。頂上が高ければ裾野は広がりそれによって山はその大きさを増していくのです。そして名人技を駆使できる人間の数が増えたら、かつての「名人」はその中に埋没してしまいます。(「名人技」に、私は手術の手技などの他にコミュニケーション技術なども含めて考えています)
逆のことも言えます。もし日常的に医療事故が乱発されている悲惨な状況だったら、よほどのことでない限り事故のことは世間で話題にもなりません。ほとんど事故がない状況だったら、事故は目立ちます。
……ということは、名医が目立つのは医療の全体レベルが低いことを示し、悪医や医療過誤が目立つことは医療の平均レベルが高い、ということになるのでしょうか。
さて、皆さんは今「名医」が欲しいですか? 今の医療レベルはそんなに低いですか? それとも特定少数の名医ではなくて全体の底上げを望みますか?
もし平均レベルの向上を目指すのなら、必要なのは個人の「名医」の頑張りではなくて全体の底上げのための医療システム作りです。繰り返します、大切なのは“システム”です。
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