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60歳代女性。乳腺腫瘤の細胞診上Class Vのため,乳腺腫瘍摘出後の検体。浸潤性乳管癌で,scirrhous (硬癌) の形態を示しました。
標本はHER2染色です (一般に“ハーツー”と呼びます)。核の形状の変化した癌細胞の表面に茶色く染まっているのがHER2蛋白です。
組織学的には,HER2染色の評価は4段階 (0,1+,2+,3+) に分類しており,この症例の場合はスコア3+で染色性強度としました。
統計にもよりますが,乳癌の20から30%にHER2遺伝子増幅があるといわれています。そして予後との関連が報告されています。
HER2蛋白はヒト上皮増殖因子受容体2 (Human Epidermal Growth Factor Receptor Type2)という名前で,HER2遺伝子の産物であり,細胞膜に存在するチロシンキナーゼ型受容体です (細胞質側にチロシンキナーゼ活性があり,シグナル伝達している)。
しかしそのリガンド (受容体にくっついてくるもの) はまだ分かっていません。受容体に何もくっつかなくても,シグナル伝達が行われているのかも知れません。また細胞表面にHER2蛋白があるという状態と,癌細胞の増殖能や活性化の関係はまだ分かっていません。
現在,乳癌治療に用いられているヒト化抗体であるTrastuzumab (ハーセプチン) は,HER2蛋白に対するモノクローナル抗体で,HER2蛋白と結合したのち,一緒に細胞表面から消失します。これによりHER2蛋白発現量を低下させます。
その作用機序には,抗体依存性腫瘍細胞障害作用 (ハーセプチンがHER2蛋白にくっついたことによる障害作用) や直接的腫瘍細胞増殖抑制作用などがあるといわれています。
HER2蛋白の細胞表面での発現量とハーセプチンの薬効が相関するため,HER2染色による組織学的評価は非常に有効なのです。
また最近ToGA試験という,胃癌に対するハーセプチンの治療成績が報告され,このままいけば胃癌に対しても適応拡大となりそうです。
胃癌症例では20%程度がHER2陽性ともいわれます。確かに乳癌と同じ腺癌でもありますし,その他の癌でも陽性の比率の報告がありますから,今後適応疾患が増えていく可能性があり興味深いです。
臨床的指標,病理学的指標および分子生物学的な機序が比較的整理されている薬剤は,まだ非常に少ないです。しかし分子治療はまだ始まったばかりで,今後さらに発展していくと思われます。
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