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医者は「コスト削減」と聞くととても嫌がるようです。
きっと医療事務の方に「この治療器具は高いから買っちゃいけません」とか「診療のこことここのムダを減らしてください」とかきりきりと締め付けられた経験があるからでしょうか。
古今東西その傾向があるようで、アメリカのお医者さんも同じような反応を示していました。
彼曰く「コストはスーツVS白衣の争点の元」だそうです。
ただ「コスト」というのは、ビジネスにおいてはもちろんのこと、医療においてもものすごく重要な概念だと思います。
コストをどのように推定するのかというのは実はものすごく奥深く面白い世界で、またいつかの機会にご紹介したいと思うのですが、今回はコストに関する大きな誤解を解きたいと思って筆をとりました。
「コストを下げることで、医療の質が下がる」というのは大きな誤解である。
コスト削減と聞いたときの、医者の反論は「コストを下げることで、医療の質が下がる。我々の使命は患者さんに最良の医療を提供することであり、金儲けすることではない。したがって我々医療者はコストなど気にするべきではないのである」というのが典型的です(これは極端な例かもしれませんが)
この医者の反論の中には、「コスト削減」と「医療の質」はトレードオフの関係にあるという暗黙の前提が存在するようです。
でもこれって本当に正しいのでしょうか。
データはその前提を否定します。
質の高い医療はコストも低いのです。直感的にも正しいと思いませんか。
質の高い手術を行えば、術後の感染リスクも低くなりますし、早期退院も可能になります。
つまり「コスト削減」と「医療の質」は互いに対立するトレードオフではなく、同期して同じ方向に動く指標なのです。
したがって最大のコスト削減は最良の医療を提供することなのです。
医療にかかるコストというと、薬剤であったり施設であったりを想像するかもしれませんが、医療コストの最大の要素は人件費です。
治療における色々なムダを省き(病院の効率の悪さは異常です。医師の先生がたでしたら、色々なムダがあることは容易に想像できるのではないでしょうか)、医者が医者の看護師が看護師の仕事を出来るようにすることが「コスト削減」の本質なのです。
この「ムダ」を省く活動のことをリーン活動と呼び、トヨタなどの製造業ではよく知られている活動なのですが、医療従事者の間では毛嫌いされているようです。
ただそれはリーン活動・コスト削減を勘違いしている、もしくはリーン活動のやり方が間違っているかのどちらかであり、本来的なリーン活動は、医者という貴重なリソースを投じたときに、最大限の成果をあげる(=治療の質を改善させる)活動のことです。
それらのやり方もまた別のエントリで書きたいと思います。
「コスト削減」と聞いて拒否反応を示すのではなく、医療の質の改善というルートでもってぜひ医療者の先生方にはコストを削減していって欲しいと願っております。固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
コンサルティングの世界ではよく「ゼロベースで考える」という言葉が使われます。
例えば、企業の成長戦略などを考えるときに「今までこのような仕組みでやってきたから」「ここの取引先との関係性の維持が重要だから」などという既成の枠組みをすべて取り払って、その企業にとって真に理想的な戦略とは何かをまっさらな状態(ゼロベース)で考えるというものです。
制限をかけずに、どのような状態が理想なのかを思考することで、クライアント企業が思いもつかなかったような発想が思いつくのです。
もちろん現実には色々な制限があるので、その理想をそのまま実現できるわけではありませんが、まずは理想状態をえがきその実現を目指す打ち手を考えることで、一歩でも理想の状態に近づくことが出来るのです。
昨年末、診療報酬の改定で0.004%アップのニュースを見たときに、ふとその「ゼロベース思考」を思い出しました。
明らかにその診療報酬改定額は、財務省、厚生労働省、医師会、医療従事者など様々なステークホルダーと調整した結果の産物です。
「前回の診療報酬改定ではこうだったから」「他の省庁との交渉結果はこうだったから」「ここの顔を立てないといけないから」などなど、既存の仕組みや関係性にがんじがらめになりながら苦し紛れに出された数字でしょう。
もちろんそれは現実解として致し方ない部分はあると思います。
そうでなければ物事が決定しなかったでしょうから。
しかし今の日本の医療には「ゼロベースで考える」というエクササイズが欠けているのではないでしょうか。
すべてを取り払って、我々日本人にとって理想の医療なのかをゼロベースで思考し、議論をする。
そこをスタート地点に考えない限り、妥協の産物のような一歩も前にすすまない医療政策論議が繰り返されると思います。固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
医療の「質」を高めるためには、結局「量」が大事であり、日本の中小総合病院は専門特化型の病院にシフトすべきだという話をしました。
また前回のエントリではロンドンにおいて、脳梗塞治療を一極集中した結果治療の「質」が劇的に改善したという例を示しました。
今回の例は一つの病院がある疾患に専門特化した結果、素晴らしい医療を提供できているという例をお示ししたいと思います。
インドの医療というとどのようなイメージをお持ちでしょうか。
インフラも整っておらず、病院どころか浄水設備も整っていないという、医療後進国のイメージが強いかと思います。
ところが最近インドやバングラデシュといった医療後進国からイノベーションが起こっているのです。
インドのシリコンバレーと呼ばれる都市バンガロールにナラヤナフルダヤラヤ病院(Narayana Hrudayalaya Heart Hospital。ちょっと名前が長いのでこれからはナラヤナ病院で。)があります。
ナラヤナ病院は2001年に創設された比較的新しい病院なのですが、心臓外科の世界のみならず、今はビジネスの世界にもその名前が轟いています。
病院の創設者であるDr. Shettyは2011年Economist誌の選ぶイノベーション大賞も受賞しています。

このナラヤナ病院がどう凄いのか、、、
彼らが心臓外科手術に集中して「量」を確保することにより、高い「質」・低い「コスト」を達成していることが、数字を挙げていけばよく分かると思います。
まず「量」を見てみると、マサチューセッツ総合病院の心臓血管バイパス手術の件数は年間536件(2008年)、また全米でおそらくトップであるクリーブランドクリニックは1,367件なのですが、ナラヤナ病院はその2倍以上である3,174件です。
「コスト」の差も歴然としています。
アメリカでバイパス手術を受けようと思ったら、$20,000-$100,000かかります。日本はアメリカよりも安いでしょうがそれでも$10,000くらいはかかるのではないでしょうか(勉強不足でよく知りません)。
それに対してナラヤナ病院のバイパス手術はたった$2,000です。
コストを抑える分だけ、「質」が低くなっているかというとそうではありません。バイパス手術後30日の死亡率の全米平均が1.9%に対して、ナラヤナ病院は1.4%です。
リスク調整したら数字は変わってくるのではないかという反論がありそうなので申し上げますと、リスク調整をすればその差はよりはっきりします。インドの患者さんのほうが、通常の医療インフラが整っていないので、全身状態は悪く、米国の患者と比較するとリスクは全般的に高いからです。
ナラヤナ病院を作ったDr. Shettyは彼らの病院モデルをはっきりと「規模の経済」だと言いきっています。
ビジネスの世界ではウォールマート、古くはフォードいまはトヨタなどで規模の経済を働かせて、その業界を席巻しているプレイヤーが目立ちます。
ナラヤナ病院は医療の世界でそのモデルを実現した数少ないプレイヤーです。
「コスト」に関しては、患者数が多いため、医療機器・製薬企業などに対して強い交渉力を働かせ値引きさせたこと(「質」に関しては決してDr.Shettyは妥協しません。良いものを安い価格で買うということを徹底させています)、一つ一つの医療機器の使用回数を増やすことで固定費を下げたことにより、コストを低く抑えています。
「質」に関しても、一人一人の外科医やチームが他の病院よりも圧倒的に多くの手術数をこなしたり、各チームがある特定の心臓疾患にフォーカスすることで、他の病院よりも高い治療成績を上げられているのです。
Dr.Shettyは元々マザー・テレサの主治医で、マザー・テレサに感銘をうけ、インド人に安い価格で質の高い医療を提供することを目指してナラヤナ病院を作り上げました。
野望はさらに大きく、現在はカリブ海にあるケイマン諸島に新たな病院を作って、米国の貧困層に医療を提供することを目標にしているそうです。この病院モデルはインド発祥のものですが、インドでなければならないという必然性はどこにもありません。
日本の病院も多くの病院が専門に特化して、優れた医療を低コストで提供する、そういった医療体制にシフトさせていってくれないかと強く願っております。
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医療の「質」を高めるには結局「量」が大事なのではないか、したがって中小総合病院などナンセンスという話を前回のエントリでしました。
そのような例がないのかなと探してみたところ、ロンドンでそのような取り組みがあったので紹介します。
脳梗塞で発症24時間以内の虚血性脳梗塞は血栓溶解療法の適応になります(すみません。臨床を離れて久しいので、間違っていたらご指摘下さい)
ただその適応のいかんを決めるのに、出血性の脳梗塞だったら大変なことになるので、CTの撮影と脳梗塞の診療に慣れた神経内科医の判断が必要になります。
ロンドンの脳梗塞治療は残念ながら、いわゆる中小総合病院のオンパレードのような状態で治療されていたようです。
すなわちどの施設もそこそこの数の神経内科医および施設を有して、そこそこの数の脳梗塞患者を診る状態です。
その結果どのようなことになっていたかというと、CT撮影のタイミングが遅れたり、撮影したとしても血栓溶解療法の可否が判断できなかったり、などの理由で治療のクオリティに大きなばらつきがみられました。
そこでロンドンが何をしたかというと統廃合です。
この場合は病院の統廃合ではなく、脳梗塞治療の統廃合です。
スタッフの数、設備の充足度、過去の治療成績などを勘案して、ロンドン市内で8つの脳梗塞治療センター(Hyper Acute Stroke Unit HASU)が作られました。
HASUはその施設の神経内科医だけでは人手が回らないので、地域の神経内科医がローテーションでHASU診療にも携わることが義務化されました。
脳梗塞の急性期治療をその8ヵ所のHASUに集中させるために、資金も人員もそこに回したのです。多くの医者がその決定に反対したそうですが、一つの医療機関で「量」を診た方が治療の「質」が改善するとの信念のもとこの改革が行われました。
結果は非常に劇的なものでした。脳梗塞発症後30日の急性期の死亡率が15%から7.6%に減少(2008年→2011年)。
脳梗塞患者のうち血栓溶解療法を受けることができた患者の割合が3.5%から14%まで上昇しました。
それだけではなく、脳梗塞患者の入院期間、治療にかかる総コスト、患者および患者家族満足度などのすべての指標で大幅な改善が認められました。
繰り返しますが「量」は「質」に大きな影響を及ぼします。
似たような規模の似たような病院が乱立していたり、中小総合病院というのは、「量」および「質」を棄損します。
ぜひ地方自治体単位でも救急医療圏範囲でも、このロンドンでやったようなドラスティックな改革をやってみてくれないものですかね。。
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これをいうと拒否反応を示す方がいるかもしれないのですが、「質」の高い医療のためには「量」が大事ですよね。
バイパス手術を週に1度しか行わない心臓外科チームよりは、バイパス手術を1日に3件行う心臓外科チームに診てもらいたいと思いませんか?
ある疾患をどれだけ診るかという「量」は「質」を規定するすごく大きな要因です。
量が多ければ多いほど、、
・多くの経験を積むことができる
・多くの臨床データを集めることができて、治療の質改善につなげられる
・豊富な人員を割く事ができる
・潤沢な設備投資を行うことができる
・その疾患の中でも「得意分野」を持つことができる
など様々な理由から治療の「質」を改善することができるのです。
これは過去の臨床研究データからも実証されています。
それを考えると今の日本の中小の総合病院のポジションってどうなんでしょうね。。
というのも200床くらいの中型病院であるにも関わらず、基本的にすべての診療科をカバーするような病院がたくさんありますよね。
そこで提供される医療の「質」は、大型病院もしくは専門特化した病院の「質」と比べるとどうなのでしょうか。
日本では医療の「質」を病院間で比較したようなデータを寡聞にしてみたことがないのですが、おそらくそれらの総合中小病院の「質」は大病院、専門型病院のそれに劣るのではないでしょうか。
ビジネスの世界でも、基本的には選択と集中の世界です。
自分の得意な分野を選択して、それ以外を排除し、得意分野に全身全霊をこめて投資をすることによって、競合優位性を持つのです。
基本的に中小企業でコングロマリット(たくさんの種類のビジネスを展開する企業)はありえません、得意な分野に特化するのです。
医療を見るとビジネスの世界でいう「中小コングロマリット企業」がたくさんあるように見えます。
それらを維持するのは、患者さんに対する医療の質を高めるという意味で、大いに疑問が残ります。
そういった病院で勤務されている先生方には失礼にあたるかもしれませんが、そういった病院は統廃合して、脳血管なら脳血管、リハビリならリハビリ、消化器なら消化器というような専門病院群に再編成していくことが、患者さんのためになるのではないでしょうか。
もちろん、患者さんのアクセスが悪くなるという議論は理解しています。
しかし、日常の医療を享受するアクセスはプライマリケア開業医の役割ではないでしょうか。
今は単にそういう総合病院があるから、患者さんは受診しているだけではないでしょうか。
中小型総合病院を残すメリットはあまり感じません。固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
かなり長くなってしまったので、これで最後にします。前回のエントリで紹介した論文で、どのような要素が優れたマネジメントに関わっているのか、それが病院経営においてどのような意味を持つのかを紹介します。
結果2:質の高いマネジメントと相関が強い要素-厳しい競争環境、臨床経験を持っているリーダー、サイズ、独立性
因果関係は明らかではありませんが、質の高いマネジメントと相関が深いいくつかの要素が明らかになりました。
もちろん各国の医療体制が異なるので、日本に必ずしも当てはまるものではありませんが、参考にはなると思います。
一. 厳しい競争環境
競争環境が激しければ激しいほど(近隣の病院同士で患者さんを争っているような状態です)、病院のマネジメントの質は高いということが明らかになりました。
これは競争に打ち勝って患者さんを多く獲得するために、病院のマネジメントに力をいれるということや、そもそも質の低い病院は淘汰されていくので、質の高い病院のみが生き残るということから起こっているのでしょう。
日本の病院経営において、競争という感覚はあまりないかもしれません。
しかし健全な競争は質の改善をもたらします。
医療機関同士が競争をしていくためには、治療データの開示などによって、患者さんが主体的に優れた病院を選択するというシフトが必要になるでしょう。
二.臨床経験を持っているリーダー
日本の場合は病院理事長は医師免許を持っている人でなければなりませんが、他国ではそうとは限りません。
バックグラウンドのまったく異なる臨床経験ゼロの人が、医療マネジメント職につく場合も多くあります。
この研究の結果では、臨床経験を持った人がリーダーとして医療マネジメントを行っている病院の方がマネジメントの質が優れているという結果が出ています。
これは実はビジネスの世界でも同じようなデータが存在し(ソースは失念してしまいましたが、、)社外からCEOをヘッドハントするよりも、社内人材を昇格させてCEOとしたほうが会社業績が良くなると。
理由は病院の場合もビジネスの場合も同じで、現場経験を持っている方が、現場のニーズを正しく理解して、適切な打ち手を打つことが出来る。
またマネージされる側にとっても、自分達と同じ経験をしている人の言う事のほうが納得して聞くことが出来るのです。
私も医者が現場を引っ張って、マネジメントを行っていくのが最善の解だと思っております。
ただしそのためには、リーダー候補となる医師にマネジメントトレーニングを行うことが重要というか必要不可欠です。マネジメントは先天的に出来るものではなく、How Toを学びそれを実践することでようやく習得できるものだからです。
三. サイズ
これはニワトリ卵の話であまりコメントしようがありません。。サイズが大きな病院だから優れたマネジメントが必要になったのか、優れたマネジメントをしているから病院のサイズを大きくすることが出来たのか
四. 独立性
これは現場のマネジメント層がどれだけ独立して物事を判断できるかです。
独立性が高ければ高いほど、質の高いマネジメントが認められました。
これは日本の公立病院に示唆的な意味合いを持つのではないでしょうか。
公立病院の病院長、事務長などはきわめて独立性の低いリーダー・マネージャーと呼ばざるをえません。
彼らは人事権も給与評価を決める権利もありません。基本的には公立病院の経営母体である地方自治体が決定します。
人事権、給与評価などは、マネージャーにとってはクリティカルなマネジメントツールです。それらを取り上げられてしまってはそもそも有効な打ち手を取ることができないですし、質の高いマネジメントをしてやろうというインセンティブも削がれてしまいます。
現行の体制では難しいのかもしれませんが、公立病院の現場への権限委譲というのも重要なテーマになると思います。
医学教育からも医師教育からも、マネジメントの重要性は完全に無視されてきました。
しかしながら、本研究から明らかになったとおり、病院にとっても患者さんにとっても優れたマネジメントというのは非常に重要です。
本ブログでも少しずつにはなってしまいますが、医療従事者にとっても重要なマネジメントスキルを紹介していこうかと思っております。
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(続き)
前回のエントリで、「病院は特にマネジメントが必要な組織」であると述べました。
マネジメントが必要ではないかという仮説に対して、それをサポートする一つの論文を本日は紹介いたします。
“Management in Healthcare: Why good practice really matters” というMcKinsey, Stanford, Harvard, London School of Economicsが共同で行った研究です(リンク先から全文ダウンロードできます→ http://worldmanagementsurvey.org/wp-content/images/2010/10/Management_in_Healthcare_Report_2010.pdf)
リサーチの方法
残念ながら日本は入っていないのですが、アメリカ、イギリス、スウェーデン、カナダ、イタリア、フランス、ドイツの7ヶ国、1,100病院を対象にリサーチが行われました。
「標準的な治療プロトコルが存在するか」「医療従事者に対して、適切な人事評価が行われているか」などマネジメントの観点から重要な20項目に関して、インタビューベースで5段階評価を行います。
すべての項目に関して、どのような質問をするのか、各点数は具体的にどのようなレベルなのかというのが詳述されているので、インタビュアーによって結果が大きく変わるということはなく、ある程度の客観性は担保されます。
またインタビュアーは各病院がどのようなパフォーマンス(臨床成績の優れた病院なのか、収益性の高い病院なのかなど)は分からないようになっていますし、インタビューを受ける病院側も自分達がどのような項目で評価されているのかが分からない「ダブルブラインド」研究になっています。
医学研究と比較すると「何とラフな設計なんだ」と思われるかもしれませんが、社会科学の研究の中ではこれでもかなり精度高く設計された研究だと思います(社会科学の研究を調べていると、トンデモ研究に突き当たることが実は非常に多いです)
結果1-マネジメントは病院にとってやはり重要
ビジネスの世界では、マネジメントの良し悪しが会社業績の良し悪しに大きく影響することはよく知られています。
マネジメントに優れた会社は会社業績も良いのです(GEなどは優れたマネジメントにより好業績を出している企業の代表格といえるでしょう)病院の場合もマネジメントが重要であることが、本研究から明らかになりました。
マネジメントに優れている病院は、臨床アウトカム・患者満足度・病院の収益性いずれの側面でも優れているという結果です。
イギリスのデータでは、マネジメントのクオリティを表す点数が1点上がると(5点満点)
-リスク調整後の急性心筋梗塞のMortality rate(30日後)が6.5%減少
-一ベッドあたりの収益が33%上昇
-患者満足度が平均以上である確率が20%上昇
という結果が出ており、イギリス以外の国でも同様の結果が出ています。
次のエントリでは、どのような要素が質の高いマネジメントに寄与しているのか、日本の病院に対しての意味合いはという部分を考察したいと思います。
(続く)
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(続き) 前回なぜ病院にマネジメントが必要なのか、2つの理由を説明しましたが続きです。
理由3:プロフェッショナル集団-医師はもっとも扱いづらい人たちです
ある人材マネジメントの専門家と話していたときに、どのような職種の人たちが一番マネージするのが難しいのかと尋ねたことがあります。
その際の答えは「医者と弁護士。いわゆる先生と呼ばれる人たちはもっとも扱いづらい」とのことでした。まあ、なんとなく想像がつきますよね(笑)
あまり人の意見とか指図に従いたくない人たちですから。
こういう人の指示に従いたくないプロフェッショナルのマネジメントというのは、非常に奥が深い匠の領域です。
端的にいうと「やることを指示しない」のがマネジメントの肝になります。
以前MD Andersonの前トップであるDr. Mendelsohn(臨床に研究に病院経営に、非常に偉大な医師です)とお話させていただいたときに、彼から発せられた台詞で「絶対に医者には○○をすべきと指示してはいけない。医者のモチベーションと病院の目指す方向性が合致させる工夫をすることが病院をリードする鍵」というのが印象に残っています。
病院のリーダーはトップダウンに指示をするのではなく、病院のビジョンやミッションを作り、それをCultureとして浸透させるのです。
医者たちの個別の判断はボトムアップでなされているのですが、病院内に強烈なCultureが存在することにより、知らず知らずのうちに病院のビジョンやミッションに合致した判断をするようになるという仕組みです。
亀田病院の亀田院長も似たような発言をしていました、「病院をリードするのは簡単です。基本的には現場に任せておけばよいのだから。現場が働きやすくする環境を作るのが我々の仕事です」と。
理由4:サイロ化しやすい組織構造-医師vs看護師、消化器内科vs 外科の争い
病院はその構造の特性上、非常にサイロ化しやすい組織です。チーム医療といいながら、医師と看護師の連携、診療科間の連携が取れている病院は極めて限定的でしょう。
私が医者をやっていたころ紹介状に「平素大変お世話になっております… 御高診のほど宜しくお願い申し上げます」などと書くその文化にまず辟易としていました。
診療科をまたがって患者さんを診るのに、なぜこんなにしゃちほこばった文章を書く必要があるのか。
文書化して共通認識を持つことの重要性は分かりますが、こんな妙な挨拶はいらないだろうと思って略して出したところ、上司にこっぴどく怒られました。「礼儀」だそうです。
一方、少なくとも私が働いていた会社(外資系ですが)は、世界中の誰だろうと電話一本で気軽に協力してくれる環境にありました。
また、医者と看護師のいがみ合いも、よく見られました。互いに互いのいないとことろで陰口をたたきあう、そんな現場を多く見ました。実に不幸なことです。
本来は協力して戦わなければければいけない、医師や看護師がサイロ化(自分のなわばりでバラバラになってしまうこと)してしまっているのです。
職能集団が徒党を組んでしまうのは古今東西起こってきた事象ですが、それを打破して協働する組織を作り上げる人材マネジメント能力が、優れた病院を作り上げるためには問われるのです。
協働体制を作るのにはもちろんビジョンやミッションなども大事ですが、実は飲み会や旅行などといった組織外のアクティビティも極めて重要なツールです。
風通しの良い組織は、建物の外でも付き合いたくなる人間関係を構築できているものですから。
以上つらつらと病院で人材マネジメントが重要なメインの理由を述べてきました(あくまでメインの理由で数えだしたら切りがないほど挙げられます)米国では病院長になるような人たちに対して、MBAやリーダーシップ教育などをはじめています。
日本の病院もマネジメントの重要性を直視して、マネジメントが出来る人材というのを育成していくべきではないでしょうか。 (おそらくまだ続く)固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
(続き)
ではなぜ病院においてはマネジメントが重要なのでしょうか。私は大きく4つの理由があると思っています。
理由1:そもそも病院のリソースは基本的に人-どれだけ優秀な人を集められるかが肝
組織によって肝となるリソースは異なります。たとえば自動車会社であれば優れた製造設備が肝になるでしょうし、製薬会社であれば強力な製品ラインアップ・パテントなどが肝のリソースになるでしょうか。
病院の場合はどうでしょう。病院施設そのものでしょうか?MRI,CTなどの高額医療機器でしょうか?
各病院を差別化するもっとも重要なリソースは人でしょう。
素晴らしい病院と言ったときには、素晴らしい医療スタッフを抱えている病院をさす場合がほとんどでしょう。
素晴らしい病院を作ろうと思ったら、優れた医師、看護師、医療スタッフを集めることが重要になります。
そのためには、どうやって優れた人材をリクルーティングするべきなのか(Recruiting)、どのように中にいる人材をトレーニングしてより優れた人材へと成長させるのか(Development)、どうやって優秀な人材が離職してしまわぬように引き止められるか(Retention)を検討する必要があります。
詳細はまた別の機会に譲りますが、Recruiting一つをとってもものすごく奥の深い世界です。
単に報酬を上げれば良いと思ったら大間違いです。
実際に現在日本に存在する素晴らしい病院をみても、単に報酬に惹きつけられて人が集まっているわけではないことがよく分かるはずです。
理由2:病院は非営利組織-営利組織と比較して足並みをそろえるのが難しい
病院は、一般企業と比較すると非常に複雑な組織です。
経営学の神様と呼ばれるピータードラッカーも「世の中で最も複雑な組織は大病院である」と指摘しています。
その一因として、病院が「非営利組織」であることが挙げられます。
一般企業の経営は比較的に単純な思考回路で行うことが出来ます。
極論してしまうと、基本的に企業は利益を追求することをゴールにしています。
株式会社であれば株主価値を最大化することを求められますが、そのためには利益を上げる必要があります。
利益を上げることで、株価を上げたり、配当金を出したりと、株主に還元することが出来るのです。
病院の場合はそのように単純ではありません。企業とは異なり、利益をあげることが病院の第一義ではありません。
個々の患者さんに最適な治療を提供する、地域の医療に貢献するといった、病院本来のゴールもあれば、大学病院であれば、医学生に対して優れた臨床教育を行う、世界に通用する研究を行うなどの複数のゴールが出てきます。
一般企業であれば、利益を上げることを目的にして社員一丸となって戦うのは容易ですが、病院の場合はそうはいかないわけです。
個々の医師、看護師によって何が組織の目的なのかというのが少しずつ変わってきてしまい、組織としてのまとまりを保つことが非常に難しくなります。
したがって病院のような非営利組織の場合は、特に組織のビジョンやミッションというものをきっちりと作り上げて浸透させることが重要となります。
それぞれの組織が何を目的にしているのかというのを共通化することで、医師や看護師が一つの方向にむかって戦うことが出来るのです。
残り二つの理由は次回で(続く)
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ビジネスの世界ではマネジメントのトレーニングが徹底して行われています。
MBAでは、ファイナンスやマーケティングといった比較的ハードなスキルに主眼を置いた授業も行われますが、リーダーシップ、人材マネジメントなどソフトスキルを鍛えることを目的とした授業が多く存在します。
ビジネスの世界ではどのように組織を運営していくかという「マネジメント」能力が非常に重要だからです。
一方、病院の世界を見るとどうでしょうか。
病院長や理事長でマネジメントのトレーニングを受けた方々とはいらっしゃるのでしょうか。
もちろんそういった教育を受けたことがなくても、素晴らしいリーダーシップを発揮していらっしゃる先生方が多く存在することは承知しております。
ただそうではない先生方も多く存在しているのも、また確かでしょう。「素晴らしい医師=素晴らしい病院長」ではないのですから。
ビジネスの世界でマネジメントが何たるかを学ぶにつれ、実はビジネスの世界よりも病院の方がマネジメントをより必要としているのではないかと考えるようになりました。
主な理由は、、書き出したら長くなりそうなので次回の投稿にします。すみません。
(マネジメントと一口にいっても色々あるのですが、今回は人材マネジメントを中心に取り上げます。オペレーションマネジメント、ファイナンシャルマネジメントなどはまた別の機会に)
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