| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
| 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
| 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
| 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
| 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」の中で、安価であり、シンプルであることが破壊的なイノベーションの特徴として挙げられています。
医療の世界でその定義にぴったりあてはまるのがガワンデの「チェックリスト」というイノベーションです。
ガワンデは外科医であり、ジャーナリストです。ハーバードメディカルスクールで教鞭をとりながら、The New Yorkerという雑誌に寄稿しています。
現場の医師の視点から書かれるガワンデの記事は各界に影響を与えており、オバマ大統領の医療政策形勢にも大きく影響していると言われています。
彼のチェックリストに関する仕事は「The Checklist Manifesto(邦題 『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』)」に詳しく書かれているので、そちらを参照して欲しいのですが、ここでは私が面白い!と思ったポイントを紹介します。
ポイント1.ものすごく複雑な問いに対しての、ものすごく単純な解
病院で働くと分かると思うのですが、医療はとてつもなく複雑です。
とくにICUに運ばれるような重症患者さんでは、モニタを装着してバイタルサインを確認して、気道を確保し、静脈ルートをとって、身体所見をとって、血液検査をして、画像検査をして、、、、
などというような何百というプロセスを正確に、しかも医者、看護師、技師などが連携して行っていかなければなりません。
しかも自動車工場などとは違い、一人一人の患者さんによって、治療に対しての反応も違うので、無数の可能性を考えながら即時対応しなければならないのです。
そういった環境でミスをしないで患者さんを治療するというのは、ものすごく大変であるというのは容易に想像できることだと思います。
この複雑な医療に対して安全を確保するために、ガワンデが提唱しているのがチェックリストです。
たとえば手術を始める前に、「術感染を防ぐために事前に抗生剤を投与したか」「患者さんの名前、手術部位を全員で確認したか」「患者さんに関してアレルギーなどの特別な事項はないかどうかを確認したか」などをリスト化しておき、それを全員で確認します。
本当にそれをするだけの単純なことなのですが、恐るべき効果が出ています。
The New England Journal of Medicineに出した2009年の論文で、19項目のチェックリストを手術時に使用した結果、手術死亡率が1.5%から0.8%へ、手術合併症の率が11%から7%に減少したと報告されています。
高額な医療機器を購入するのでもなく、新たに人を雇って人材を豊富にするのでもなく、たった19項目のチェックリストを導入するだけでこれだけの劇的な改善です。
なんという投資対効果の高さなのでしょうか。
ポイント2.ものすごく単純な解だけど結構奥が深い
たかがチェックリストなのですが、実はものすごく奥が深いのです。チェック項目を読み上げるひとはこの人が良い(外科医?麻酔科医?看護師?など)、項目数はこの程度の数が良い、項目はシンプルでぱっと見で分かるようにしなければならないなど、色々なベストプラクティスがあるようです。
チェックリストときいて、マニュアルのような役割を想像するかもしれませんが、それは誤りです。
本および論文の記載を見る限り、チェックリストはマニュアルではなく、備忘録、さらにいうとコミュニケーションツールのような役割を果たしているようです。
備忘録機能は明らかなので、コミュニケーションツールという意味をご説明します。
手術はチーム医療です。
直接患者さんを治療するのは外科医ですが、その前に立って手技をサポートする助手であったり、患者さんの全身状況を管理する麻酔科医、メスなどを渡す機械だしの看護婦さん、外回りの看護婦さんの連携によって手術は成り立っています。
しかしこの連携が不十分なことが実は非常に多いのです。
ジョンズホプキンス大学の面白い研究結果があります。「手術のチームワークについてどのように評価するか?」という問いに対して、外科医の64%が高いチームワークがあると評価しているのに対して、麻酔科医は39%、看護師は28%しか高いチームワークがあるとは回答していません。
すなわち外科医はチームで手術で行っていると考えているのに、周りから見ると外科医のワンマンにうつっているようです。
一方、このチェックリストを使うことで、たとえば看護師がチェックリストの確認のリードをして、そこで主導的な役割を果たすことが出来ます。
もしくはチェックリストの初めの項目が「手術室にいる人が互いに自己紹介をする」となっており(「外科医のガワンデです!」みたいな感じかと。。)、それだけでも一気にチームとしての距離を縮めることが出来ます。
チェックリストがプラットフォームになってコミュニケーションを円滑にしているのです。たかがチェックリストと侮るなかれですね。
ポイント3.この解は、医療とは別の業界から持ってきている
実はこのガワンデの本での医療に関する記述は1/3くらいです。
残りの2/3は航空業界と建築業界について書かれています。
このチェックリストのアイデアそのものは、それらの業界から持ってきて、医療に適応したものなのです。
航空機の操作もものすごく複雑です。トラブルが発生したときに複数の計器をモニタリングしながら、正確な操作をしていかなければなりません。
またメインパイロットと副パイロットの連携もものすごく大事です。
ミスが起こったら大惨事になってしまうので、非常に複雑な環境にありながらミスを絶対に起こしてはならないという意味で医療との共通性が大きな分野です。
航空業界でミスを防ぐ役割を果たしているのがチェックリストだったのです。
離陸、着陸などといった通常のオペレーションのほかにも、トラブル発生時の際のチェックリストも常備されており、チェックリストを活用してトレーニングが行われています。
このガワンデの書籍およびチェックリストが非常にインパクトフルだと思うのが、彼が積極的に他の業界の現場に足を運んで、そのエキスパートに意見を聞き、それを医療に適応できないかというのを真摯に問い続けたことにあります。
「医療は特別」という意見は聞きあきました。医療が特別だというならば、どの業界にも特殊性があります。
その垣根を超えて学べるものは学んでいくことにこそ、イノベーションの源泉があります。チェックリストはあくまで一例であり、他の業界から学ぶことはもっと沢山ある気がします。固定リンク | コメント (1) | トラックバック (0)
医者は「コスト削減」と聞くととても嫌がるようです。
きっと医療事務の方に「この治療器具は高いから買っちゃいけません」とか「診療のこことここのムダを減らしてください」とかきりきりと締め付けられた経験があるからでしょうか。
古今東西その傾向があるようで、アメリカのお医者さんも同じような反応を示していました。
彼曰く「コストはスーツVS白衣の争点の元」だそうです。
ただ「コスト」というのは、ビジネスにおいてはもちろんのこと、医療においてもものすごく重要な概念だと思います。
コストをどのように推定するのかというのは実はものすごく奥深く面白い世界で、またいつかの機会にご紹介したいと思うのですが、今回はコストに関する大きな誤解を解きたいと思って筆をとりました。
「コストを下げることで、医療の質が下がる」というのは大きな誤解である。
コスト削減と聞いたときの、医者の反論は「コストを下げることで、医療の質が下がる。我々の使命は患者さんに最良の医療を提供することであり、金儲けすることではない。したがって我々医療者はコストなど気にするべきではないのである」というのが典型的です(これは極端な例かもしれませんが)
この医者の反論の中には、「コスト削減」と「医療の質」はトレードオフの関係にあるという暗黙の前提が存在するようです。
でもこれって本当に正しいのでしょうか。
データはその前提を否定します。
質の高い医療はコストも低いのです。直感的にも正しいと思いませんか。
質の高い手術を行えば、術後の感染リスクも低くなりますし、早期退院も可能になります。
つまり「コスト削減」と「医療の質」は互いに対立するトレードオフではなく、同期して同じ方向に動く指標なのです。
したがって最大のコスト削減は最良の医療を提供することなのです。
医療にかかるコストというと、薬剤であったり施設であったりを想像するかもしれませんが、医療コストの最大の要素は人件費です。
治療における色々なムダを省き(病院の効率の悪さは異常です。医師の先生がたでしたら、色々なムダがあることは容易に想像できるのではないでしょうか)、医者が医者の看護師が看護師の仕事を出来るようにすることが「コスト削減」の本質なのです。
この「ムダ」を省く活動のことをリーン活動と呼び、トヨタなどの製造業ではよく知られている活動なのですが、医療従事者の間では毛嫌いされているようです。
ただそれはリーン活動・コスト削減を勘違いしている、もしくはリーン活動のやり方が間違っているかのどちらかであり、本来的なリーン活動は、医者という貴重なリソースを投じたときに、最大限の成果をあげる(=治療の質を改善させる)活動のことです。
それらのやり方もまた別のエントリで書きたいと思います。
「コスト削減」と聞いて拒否反応を示すのではなく、医療の質の改善というルートでもってぜひ医療者の先生方にはコストを削減していって欲しいと願っております。固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
医療の「質」を高めるためには、結局「量」が大事であり、日本の中小総合病院は専門特化型の病院にシフトすべきだという話をしました。
また前回のエントリではロンドンにおいて、脳梗塞治療を一極集中した結果治療の「質」が劇的に改善したという例を示しました。
今回の例は一つの病院がある疾患に専門特化した結果、素晴らしい医療を提供できているという例をお示ししたいと思います。
インドの医療というとどのようなイメージをお持ちでしょうか。
インフラも整っておらず、病院どころか浄水設備も整っていないという、医療後進国のイメージが強いかと思います。
ところが最近インドやバングラデシュといった医療後進国からイノベーションが起こっているのです。
インドのシリコンバレーと呼ばれる都市バンガロールにナラヤナフルダヤラヤ病院(Narayana Hrudayalaya Heart Hospital。ちょっと名前が長いのでこれからはナラヤナ病院で。)があります。
ナラヤナ病院は2001年に創設された比較的新しい病院なのですが、心臓外科の世界のみならず、今はビジネスの世界にもその名前が轟いています。
病院の創設者であるDr. Shettyは2011年Economist誌の選ぶイノベーション大賞も受賞しています。

このナラヤナ病院がどう凄いのか、、、
彼らが心臓外科手術に集中して「量」を確保することにより、高い「質」・低い「コスト」を達成していることが、数字を挙げていけばよく分かると思います。
まず「量」を見てみると、マサチューセッツ総合病院の心臓血管バイパス手術の件数は年間536件(2008年)、また全米でおそらくトップであるクリーブランドクリニックは1,367件なのですが、ナラヤナ病院はその2倍以上である3,174件です。
「コスト」の差も歴然としています。
アメリカでバイパス手術を受けようと思ったら、$20,000-$100,000かかります。日本はアメリカよりも安いでしょうがそれでも$10,000くらいはかかるのではないでしょうか(勉強不足でよく知りません)。
それに対してナラヤナ病院のバイパス手術はたった$2,000です。
コストを抑える分だけ、「質」が低くなっているかというとそうではありません。バイパス手術後30日の死亡率の全米平均が1.9%に対して、ナラヤナ病院は1.4%です。
リスク調整したら数字は変わってくるのではないかという反論がありそうなので申し上げますと、リスク調整をすればその差はよりはっきりします。インドの患者さんのほうが、通常の医療インフラが整っていないので、全身状態は悪く、米国の患者と比較するとリスクは全般的に高いからです。
ナラヤナ病院を作ったDr. Shettyは彼らの病院モデルをはっきりと「規模の経済」だと言いきっています。
ビジネスの世界ではウォールマート、古くはフォードいまはトヨタなどで規模の経済を働かせて、その業界を席巻しているプレイヤーが目立ちます。
ナラヤナ病院は医療の世界でそのモデルを実現した数少ないプレイヤーです。
「コスト」に関しては、患者数が多いため、医療機器・製薬企業などに対して強い交渉力を働かせ値引きさせたこと(「質」に関しては決してDr.Shettyは妥協しません。良いものを安い価格で買うということを徹底させています)、一つ一つの医療機器の使用回数を増やすことで固定費を下げたことにより、コストを低く抑えています。
「質」に関しても、一人一人の外科医やチームが他の病院よりも圧倒的に多くの手術数をこなしたり、各チームがある特定の心臓疾患にフォーカスすることで、他の病院よりも高い治療成績を上げられているのです。
Dr.Shettyは元々マザー・テレサの主治医で、マザー・テレサに感銘をうけ、インド人に安い価格で質の高い医療を提供することを目指してナラヤナ病院を作り上げました。
野望はさらに大きく、現在はカリブ海にあるケイマン諸島に新たな病院を作って、米国の貧困層に医療を提供することを目標にしているそうです。この病院モデルはインド発祥のものですが、インドでなければならないという必然性はどこにもありません。
日本の病院も多くの病院が専門に特化して、優れた医療を低コストで提供する、そういった医療体制にシフトさせていってくれないかと強く願っております。
固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
医療の「質」を高めるには結局「量」が大事なのではないか、したがって中小総合病院などナンセンスという話を前回のエントリでしました。
そのような例がないのかなと探してみたところ、ロンドンでそのような取り組みがあったので紹介します。
脳梗塞で発症24時間以内の虚血性脳梗塞は血栓溶解療法の適応になります(すみません。臨床を離れて久しいので、間違っていたらご指摘下さい)
ただその適応のいかんを決めるのに、出血性の脳梗塞だったら大変なことになるので、CTの撮影と脳梗塞の診療に慣れた神経内科医の判断が必要になります。
ロンドンの脳梗塞治療は残念ながら、いわゆる中小総合病院のオンパレードのような状態で治療されていたようです。
すなわちどの施設もそこそこの数の神経内科医および施設を有して、そこそこの数の脳梗塞患者を診る状態です。
その結果どのようなことになっていたかというと、CT撮影のタイミングが遅れたり、撮影したとしても血栓溶解療法の可否が判断できなかったり、などの理由で治療のクオリティに大きなばらつきがみられました。
そこでロンドンが何をしたかというと統廃合です。
この場合は病院の統廃合ではなく、脳梗塞治療の統廃合です。
スタッフの数、設備の充足度、過去の治療成績などを勘案して、ロンドン市内で8つの脳梗塞治療センター(Hyper Acute Stroke Unit HASU)が作られました。
HASUはその施設の神経内科医だけでは人手が回らないので、地域の神経内科医がローテーションでHASU診療にも携わることが義務化されました。
脳梗塞の急性期治療をその8ヵ所のHASUに集中させるために、資金も人員もそこに回したのです。多くの医者がその決定に反対したそうですが、一つの医療機関で「量」を診た方が治療の「質」が改善するとの信念のもとこの改革が行われました。
結果は非常に劇的なものでした。脳梗塞発症後30日の急性期の死亡率が15%から7.6%に減少(2008年→2011年)。
脳梗塞患者のうち血栓溶解療法を受けることができた患者の割合が3.5%から14%まで上昇しました。
それだけではなく、脳梗塞患者の入院期間、治療にかかる総コスト、患者および患者家族満足度などのすべての指標で大幅な改善が認められました。
繰り返しますが「量」は「質」に大きな影響を及ぼします。
似たような規模の似たような病院が乱立していたり、中小総合病院というのは、「量」および「質」を棄損します。
ぜひ地方自治体単位でも救急医療圏範囲でも、このロンドンでやったようなドラスティックな改革をやってみてくれないものですかね。。
固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
(続き)
ではなぜ病院においてはマネジメントが重要なのでしょうか。私は大きく4つの理由があると思っています。
理由1:そもそも病院のリソースは基本的に人-どれだけ優秀な人を集められるかが肝
組織によって肝となるリソースは異なります。たとえば自動車会社であれば優れた製造設備が肝になるでしょうし、製薬会社であれば強力な製品ラインアップ・パテントなどが肝のリソースになるでしょうか。
病院の場合はどうでしょう。病院施設そのものでしょうか?MRI,CTなどの高額医療機器でしょうか?
各病院を差別化するもっとも重要なリソースは人でしょう。
素晴らしい病院と言ったときには、素晴らしい医療スタッフを抱えている病院をさす場合がほとんどでしょう。
素晴らしい病院を作ろうと思ったら、優れた医師、看護師、医療スタッフを集めることが重要になります。
そのためには、どうやって優れた人材をリクルーティングするべきなのか(Recruiting)、どのように中にいる人材をトレーニングしてより優れた人材へと成長させるのか(Development)、どうやって優秀な人材が離職してしまわぬように引き止められるか(Retention)を検討する必要があります。
詳細はまた別の機会に譲りますが、Recruiting一つをとってもものすごく奥の深い世界です。
単に報酬を上げれば良いと思ったら大間違いです。
実際に現在日本に存在する素晴らしい病院をみても、単に報酬に惹きつけられて人が集まっているわけではないことがよく分かるはずです。
理由2:病院は非営利組織-営利組織と比較して足並みをそろえるのが難しい
病院は、一般企業と比較すると非常に複雑な組織です。
経営学の神様と呼ばれるピータードラッカーも「世の中で最も複雑な組織は大病院である」と指摘しています。
その一因として、病院が「非営利組織」であることが挙げられます。
一般企業の経営は比較的に単純な思考回路で行うことが出来ます。
極論してしまうと、基本的に企業は利益を追求することをゴールにしています。
株式会社であれば株主価値を最大化することを求められますが、そのためには利益を上げる必要があります。
利益を上げることで、株価を上げたり、配当金を出したりと、株主に還元することが出来るのです。
病院の場合はそのように単純ではありません。企業とは異なり、利益をあげることが病院の第一義ではありません。
個々の患者さんに最適な治療を提供する、地域の医療に貢献するといった、病院本来のゴールもあれば、大学病院であれば、医学生に対して優れた臨床教育を行う、世界に通用する研究を行うなどの複数のゴールが出てきます。
一般企業であれば、利益を上げることを目的にして社員一丸となって戦うのは容易ですが、病院の場合はそうはいかないわけです。
個々の医師、看護師によって何が組織の目的なのかというのが少しずつ変わってきてしまい、組織としてのまとまりを保つことが非常に難しくなります。
したがって病院のような非営利組織の場合は、特に組織のビジョンやミッションというものをきっちりと作り上げて浸透させることが重要となります。
それぞれの組織が何を目的にしているのかというのを共通化することで、医師や看護師が一つの方向にむかって戦うことが出来るのです。
残り二つの理由は次回で(続く)
固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
海外へ留学する学生の減少が昨今問題視されています。
これはアメリカのビジネススクール(MBA)でも同様で、日本人留学生の数が1980年代、90年代と比較して激減しています。
ペンシルヴァニア大学、シカゴ大学など日本人留学生が多い大学では、以前は一学年で30名以上の日本人が留学することも多々あったのですが、最近では10人に届かないことの方が多くなっています。
ただ「若者の内向き化」について論じるつもりは毛頭無く(筆者は若者はまったく内向き化していない。むしろ以前よりグローバルになっていると思っています)、その原因に気になる点があるのでこの話を引き合いに出しました。
日本人MBA留学生が減少した大きな原因の一つに社費派遣生の減少があります。
以前は日本の大手企業の多くは、社内で出世が期待される若者を積極的にMBAに派遣してきました。そのような人材の多くが日本企業のグローバル化を推進してきたのです。
しかし最近では多くの日本企業が社費派遣を取りやめる、もしくは1-2名などの極めて限定した人数のみの派遣にとどめるように変化してきました。
これはもちろん景気の悪化による部分もあります。しかしより大きな原因は、会社からMBA派遣した社員の多くが、MBA取得後自分達の会社に戻らず他の会社に移籍してしまったり、帰ってきたとしてもすぐに退職してしまったことにあります。
若手社員の多くはMBAで世界中の優秀な人たちと交わり、高度な教育を受けることにより大変な刺激を受けます。
ところが意気揚々と帰国し、自分の会社に戻ってみたら、待っているのは今までと同じような業務。
自分がせっかくMBAで学んできたことを生かせない。だったら若いうちからMBAで学んできたことをすぐに生かせる外資系の企業に転職しよう、そう思って離職・転職してしまうのです。
それに対抗して日系の会社が取った策が、「帰国後一定期間(多くは5-7年)働かない限り、留学中の学費・生活費を返却させる」「そもそも社員にMBA留学を認めない、もしくは認めたとしても1-2名のみ」などです。
これではダメだと思いませんか。
MBA留学した社員が辞めてしまう原因は、帰ってきた会社が働く環境として魅力的ではない、自分のMBAで得た経験が生かせないところにあります。
そうであるならば、会社は留学生にしばりをつけたり、人数を減らしたりするのではなく、MBAから帰ってきた社員が彼らの能力を生かせる職場に配置したり、それだけの権限を委譲すべきです。
それが、そもそも会社が社員をMBAに派遣する本来の目的であったはずです。
それを義務年限を設けてしばりつけたり、辞めていく社員を非難したりというのは本末転倒ではないでしょうか。
なぜこんな話をしたかというと、医学生のキャリア選択にも同じことを感じたからです。
数年前、東京大学医学部の学生が外資系コンサルティング会社の説明会に30名近く参加したというニュースが流れました。
様々な意見があったかと思いますが、私の周りの医師から多く聞かれたコメントは「血税を使って医学部で学んでいるのにけしからん。医学部生なのだから、一生懸命勉強して医師になるべきだ」というものでした。
この意見も本末転倒だと思いませんか。医学部の学生30名がそういった説明会に集まるには、何らかの理由があるはずです。
それは、東大の医学生が医療現場で働くことに対して魅力を感じにくくなっているということのなのではないでしょうか。
私もそういった説明会に行く医学生の気持ちがよく分かります(実は医学生の間にそういった説明会にはよく参加していました。もちろん医学生が30名もいるなんてことはまだなかった時代ですが)
病院実習が始まって、大学病院の先生方の働き方を見て、彼らと話すうちに、医師としてのキャリアを歩むことに疑問を持ってしまったのです。
これが本当に自分が生涯やりたいことなのかと。
私が大学病院の医師で、医学部学生が会社の説明会に多く参加したと聞いたら、まずは危機感を覚えるでしょう。
医学部生にとって魅力的な職場でなくなってしまっているんだと。そして、説明会に参加した医学生を非難するのではなく、彼らがなぜ現在の職場に魅力を感じなくなっているのかを徹底的に調査しそれを改善しようとするでしょう。
医師のキャリアパスを考える医学生の会など、最近の医学生は自分のキャリアを学生のうちからきちんと考える活動を行っています(そういった活動の中心になっている学生と話したことは何度もありますが、驚くほど大人で、きちんとした考えを持っています)
10年前には考えられなかった活動でしょう。
彼らの活動は、医療機関にとって危機でもあり、チャンスでもあります。
彼らが病院という職場に何を求めているのかを把握し、職場を変革していくことによって、多くの優秀な人材を集めることが出来るのですから。固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1)