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Doctors Blog

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手術は成功しました。

イッシー31 / 2008.12.18 20:43 / 推薦数 : 7

よくドラマなどであるシーン。

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「手術中」とかかれたランプが消えた。

家族が心配そうな顔をしながら立ち上がり、扉が開くのを待っている。

手術室の扉が開き、外科医がグローブを外しながら颯爽とあらわれた。

血で汚れている術衣が手術のすさまじさを物語っている。

 

「たかしは、たかしは助かったんですか?」

母が悲痛な表情で外科医に詰め寄った。

 

外科医は帽子とマスクを外し、母親にほほえみかけた。

「手術は成功しました。たかし君はもう大丈夫です。」

 

父と母は見つめ合い、目に涙を浮かべながら外科医に

「ありがとうございました。うっうっ・・・・」

というと、廊下に座り込んだ。

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実際、僕もこういう場面を想像して外科医になろうと思ったのでした。漫画やドラマなどでよくこういうシーンがあったのでイメージとしてすり込まれていたんだなと思います。

おそらく演出家や漫画家にとってもこういうシーンがすり込まれているんでしょう。

 

金八先生は教師の方々にとってあり得ない先生だし、大門刑事は警察官の方々にとってはあり得ない刑事であるのと同じように、外科医にとってはそういうシーンに違和感を感じざるを得ないのです。

 

術衣に血がついているだとか、グローブを外しながら出てくるとか、そういう演出には目をつぶるとしても外科医(のはしくれ)として違和感を感じてしまうのは

「手術は成功しました。もう大丈夫です。」という状況なのです。

 

外科医は手術をしている医師であるというふうに一般的には思われているのですが、外科医は一日中、毎日手術をしているわけではありません(中にはそういう人もいますが)。

外科医は手術をすればいいだけではなく、「術後管理」という大事な仕事があるのです。

 

たかし君(交通事故による腹腔内出血、血気胸、小腸穿孔、出血性ショック)は次のような経過で手術になったものとします(あくまでもフィクションです。)

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たかし君は18歳の高校生。自転車乗車中に交通事故に遭い、救急車で運ばれた。

来院時は腹腔内出血と血気胸による出血性ショックであり、緊急手術の適応となった。

輸液、昇圧剤でなんとか血圧が上がってきたので手術の準備をしていると、父と母が到着したので、非常に厳しい状態であり、手術をしないと助からないことを取り急ぎ説明し、同意書をもらって手術室に直行した。

 

血気胸に対して胸腔ドレナージを行い、腹腔内出血は腸間膜からの出血であり、小腸切除で止血することができた。出血量は2500ccだった。

 

(そして冒頭のシーンにつながる)

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問題はこの後になってくるのです。

これだけ大きな手術をした人は体の機能として血液の状態、肝臓の機能、呼吸の機能、腎臓の機能、様々な機能が異常な状態になります。

その機能を「術後管理」をして、なんとか通常の状態にもちあげていくことが非常に難しいことなのです。

「術後管理」を適当にすると、心不全や腎不全、肝不全、呼吸不全、感染症をおこしてしまい手術自体は完璧でも亡くなってしまうことがあります。

もちろんきちんと「術後管理」していてもそのようなことが起こることなんていくらでもあります。

また、どれだけ手術中に「完璧だ」と思っても、思ってもいなかった合併症がおこることがあるのです。

縫合不全や感染、腸閉塞、再出血、予防策をしていても肺塞栓や心不全、肺炎など。

そのことを考えると手術が終わった後にはとてもとても「手術は成功しました。たかし君はもう大丈夫です。」なんていえません。

 

外科医の頭の中では術後の管理をどうしようかという戦略を立てているのです。

輸血をどのくらい、輸液をどのくらい、呼吸器をはずすのはどうしようか、呼吸機能は大丈夫だろうか、抗生物質はどうしようか、食事はいつ頃からにするか、それよりも吻合は大丈夫だろうか・・・などなど。

さらにたかし君の症例でいうなれば他の損傷は大丈夫だろうか、初診時のCTや理学所見では異常はなかったが脳や、脊椎は本当に大丈夫だろうか。

そのため「手術は成功しました。もう大丈夫です」といえるのは何日か経過して、普通にご飯が食べられて、歩けるようになったときにはじめて言える台詞なのです。 

 

つまり手術自体も大事ですが、術後の管理ももっと大事であるということが言いたいのです。

「○龍」というドラマや「ゴッドハンド○」という漫画でも「おおっ、すごいメスさばきだ、この困難なオペをこんなスピードで」という台詞が出てきて、終わるともう次の日には患者さんはにこにこ顔でありがとうございましたって・・・

多くの外科医は

「そんな困難な手術ならその術後も大変なんだよっ」と心の中でつっこみをいれているのでした。

(なぜ心の中でかというと、そういうことを口に出してしまうと、隣で感動している妻に怒られてしまうからです。)

 

昨今なにかと医療ミスということが話題になります

手術の後に何かが起こると医療ミスではないか、医療事故ではないかと言われてしまう世の中です。

このようなシーンからもしめされるように、一つの医療行為は一つの医療行為として完結していると思われがちだと思います。

一つの医療行為は様々な要因が複雑に絡まり合って構成されています。

その歯車がうまく回ったときに一つの医療行為がうまくいったということができます。

歯車がうまく回らない原因は様々です。患者さんの体質や状態などもあるでしょう。医療側の要因もあるでしょう。また、大きい歯車に「運」という歯車もあるでしょう。

それらの歯車がうまく回っているかを監視し、歯車がうまく回らなくなったときは、それらを調整したり歯車を修理し、場合によっては取り替えてみる。

そんなことをしているのが、医師の役割だと思います。

 

うまく歯車が回らなくなった原因は本当に医師のミスなのでしょうか。医師がちゃんと診ていなかったために歯車はうまく回っていないことに気づかなかったのでしょうか。

 

医療ミス、医療事故といわれている事案をしっかり検証する必要があると思います。

 

僕だったらたかし君の両親に対してはこんな感じでいうでしょう。

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「なんとか、手術は終わって目に見えている出血はなさそうです。しかし、いっぱい血液が出てしまい大きな手術になったので、体が異常な状態になっています。なんとか持ち直すように全力で治療を行います。これからが本当の戦いになってきます。まだまだ予断は許しません・・・。」

 

「まだ、わからないんですかぁ?」と両親。

「そ、そうですね、なんともいえないですけど。大丈夫だとは思ってはいるんですけどね・・・」と、ここから要領を得ない説明になってくる。

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自信をもって「手術は成功しました。もう大丈夫です」なんて言ってみたい言葉ではありますけどね。 

そうもいかないんですよ。

天界におわすスーパードクターならまだしも、

下界の外科医ですから。

 

皆さんわかってくださいね。

では。

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