夢見る掃除人
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「最後の選択」

夢見る掃除人 / 2007.09.28 07:53 / 推薦数 : 1
「せんせい わたしはいつまで生きられるでしょう。」
「大丈夫です。点滴とアミノ酸で守られていますから。」
 
「いつになったら 私の臓器が出るんですか?」
「もうすぐかもしれません。でも、長くかかるかもしれません。」
 
「そのときまで わたしは生きられますか?」
「生きて下さい」
  
「せんせい わたしは元気な頃は、よく山に登ったんです。」
「どんな山に?」
「冬山です。」
「それは怖いですね、何処にいるか分からなくなるのが山ですからね。」
「そうなんです。雪山を下ってくると、木で出来た道しるべがあったんです。
左へ行くと安全に確実に里に帰ることのできる道、右へ行くと深い谷へ行き迷い込む死に至る道。よく見ると、その道しるべは誰かがいたずらしたらしい形跡があったんです。釘で止められているだけの粗末な矢印です。。。3時を過ぎると、山は夜に入ります。はやく里までたどり着かなければなりません。
 いたずらする人は、もとの矢印を逆にします。右へ進むと里に帰る道、左へ行くと深い谷。。。良心ある人は、いたずらされた道しるべを必ず元通りにして、みんなが安全に帰れようにと願い、道しるべを治します。
でも、ほんとうの意地悪はどうすると思います?せんせい。。。一旦逆にしてその後にひねりなおして元通りにするのです。あたかも元の方角を逆にしたかのようにわざと見せかけて。。。わざわざ一旦道しるべを逆にひねって、良心あるものの真似をして丁寧に元にひねり返すのです。ひねくれた奴が、その反対方向へ行くことを楽しむためです。。。
雪で冷たくなった脚が、少しずつ膝まで登ってきています。。。。数時間も歩くと、確実に歩けなくなります。とどまっても死にます。。。せんせいはどっちへ進みますか。矢印のままですか?。。。それともその反対ですか。」
二つに別れた道で、彼は、ほんとうの恐怖を見たはずです。
 
彼は、数日後、私のいない夜に、突然の呼吸困難に陥った。当直医が挿管をし、心臓マッサージをしたが間に合わなかった。慢性の低アルブミン血症と肝不全、敗血症であった。突然の死であった。道しるべの解答を言い残さずに。。。
 さて、私は、彼が雪山で選んだほんとうの道を知りません。どちらを信じて、彼はそのとき生き延びたのだろう。彼は死ぬ前に、次のようなことを私に真剣に問いかけていたのだ。。。
「人間を信じてよかったといいながら死ぬか、信じられないといいながら死んでいくか」。。。それは、彼が死ぬ間際に、わたしに投げかけた「最後の問いかけ」だったのだ。。。
 
わたしは、彼の永遠に開くことのない目元に「満たされた笑み」をかすかに見たような気がした。。。
  
「信じる道を、迷わず行け!」

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