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「転覆と処刑」

夢見る掃除人 / 2007.08.17 11:45 / 推薦数 : 5
昔々、ヨーロッパの大航海時代の話。時の王は、当時の造船技術の粋を尽して、最も大きくて頑丈な船を造るように命じた。巨費をいとわず、多くの資材と人員が投じられた。数年の歳月をかけて、ようやく完成したその巨大な船は、あたかも海に浮かぶ島のように見えたという。船の中は何層にも区分けされ、あたかも巨大なビルのようであった。
貿易によって国は栄え、人々は裕福になり、幸福になるはずである。王は人々に約束した。その船の建造は、まさしく国の命運をかけた一大事業であった。
その船には、当時の財宝、大砲や銃、食糧、衣服、そして家畜、燃料、さまざまな資材とありとあらゆる商品が、荷主の名簿に従って順番に、次から次と運び込まれた。船荷が完全に積み込まれるのに数カ月を要したという。
さて、その巨大な船は、港を出てしばらくして沖合で転覆することとなる。多くの犠牲者と財が海の底に沈んだ。歴史的な悲劇であった。怒った王は、船の設計を請け負った者たちを捕えて処刑した。設計にミスがあったからというのがその理由だった。
長い時代を経て、なぜ船が転覆したかが検証された。そしてある事実が判明した。船に運び込まれる荷の割り当てに不満をもっていた荷主たちは、その割り当てよりも多い量をごまかしていたのだった。全体の積載量は、設計時に予定されていた重量をはるかに超えていたのだった。大砲は10本が15本に銃は3万丁が5万丁、牛20頭馬15頭が25頭と20頭という具合に。
天候はよく、海も凪いでいた。沖合のゆったりとした大きな波に揺られて、荷崩れが起きたのだった。船はバランスを崩し、港で見守る人々が見える距離で、大きく傾きそのまま倒れたのだった。。。。
「もっと船を大きくするべきだった」
「荷を余分に積んだのだから当たり前だ」
と、誰かが言えば、
「それを見抜けなかった監督者がしっかりすべきだった」
「船荷の計量係りに荷主が賄賂を渡したからだ」
と、誰かが言う。
「荷主が欲張ったからだ」
と、誰かが言えば、
「船の中の担当者が荷の積み方を手抜きしたからだ」
「そもそも巨大な船を造る必要があったのか。」
と、誰かが言う。
 誰もが正しいが、誰もが何か足りない。
病院が赤字を抱えて倒産する時も、こうした「誰もが正しくて、誰もが何か足りない」議論になる。大きな荷が、ヘリカルCTMRIPETなどの設備投資、精密医療機器、ICU,、心臓カテーテル機器、無菌手術室などのローン返済だったり、人件費だったり、長年の累積負債だったりする。建て替え費用、移転費用の借入金、医師たちの集団自決、公的資金投入の打ち切り、民間銀行融資見送りという当然予知される事態に対応できない。
ほんのわずかでも、バランスの限界を超えれば船は倒れるように、一つのミスや噂や訴訟が大きな揺らぎとなって収拾がつかなっても病院は倒れる。
昨今の医療問題の核心は、やはり「診療報酬の抑制」と「医師・看護師の一極集中・地域内格差」に他ならない。それを遠隔操作する者は机の上で、数値の枠に一筆書きこむという簡単な行為にすぎないかもしれないが、日本の医療経済のバランスの限界をわずかに超えたことに気付いた時には、多くの船の姿がなくなっていることだろう。。。。。王は、船の設計者(医師)を、やはり処刑するかもしれない。
  

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