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外科系の人間が開業するとき、一番心残りになるのがメスだろう。
開業すると、今までやっていたような手術は出来ず、
それまで心血を注いで(?)磨き上げてきた技術を捨てることにもなるわけだから。
私も例外ではなく、開業を決意した後でも「本当にいいのだろうか」という逡巡があった。
もちろん今でもメスを捨てたわけではなく、細かい手術はやっているし、
ものによっては、開業してからの方がよりデリケートな手術をしている。
中には、他の病院で大手術になるようにいわれ一旦断念したものの
諦めきれずにここに来て、外来での、通院しながらの手術で治したケースもある。
ただ、どうしてもこの環境で出来る手術には限度がある。
この出来ないという手術は、
全身麻酔や入院が可能ならば、技術的には出来る手術と、
端から技術的に無理、という手術の二つがある。
前者のようなケースが来ると、環境さえあれば可能なのに出来ないという歯がゆさがある。
開業当初は、その歯がゆさ故にフラストレーションが溜まったが、
最近は「・・どうせ大きな手術は疲れるし、まあ、いいか・・」
という心境に達しているので、フラストレーションもない。
しかし、むしろ以前やったことがない手術がの方が気になる。
この時期になると、形成外科学会のプログラムが送ってくる。
どの演目を聞きに行こうか、タイトルを見ていると
新しい考えやテクニックの手術の発表を目にする。
そんなとき、あのまま勤務を続けていたら、大学にいたら、
今このレベルの手術をやれているだろうか、という思いがよぎる。
そのレベルに達するまで精進しなかった事への後悔だろうか、
単に、新しもの好きなだけだろうか。
別に新しい手術や難しいテクニックほどすごいわけではない。
特定の内容に関しては、大学以上の治療をやっている自負もある。
だが、遠くから眺めることしかできない尾根は、
今登っている山より、魅力に満ちあふれて見える。
ただ、手が届かないからこその憧れなのかもしれない。
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