日医会館大講堂で平成21年6月13日 国会および地方議員、行政、マスメディア、たばこと健康問題NGO協議会員、医師など343人が出席して「ドイツの受動喫煙防止法に学ぶ」をテーマに「2009年世界禁煙デー記念講演会」が開催された。これだけ多くの分野の人々が集まって開かれるタバコに関する講演会は初めての事である。
唐澤祥人会長が主催者を代表して挨拶した。5月31日を世界保健機関(WHO)が世界禁煙デーと定め喫煙による健康被害の防止を目指して毎年、各国で様々な活動を展開している。わが国でも2000年の「健康日本21」の策定に続き2002年に「健康増進法」が制定され、同法第25条では、多数の人が利用する施設管理者に対し受動喫煙を防止するために必要な措置を実行するよう規定されている。また2005年2月には、WHO『たばこ規制枠組み条約(FTCT)』が発効され、現在、加盟国の164ヶ国で批准され、日本でも締結国としてのたばこ規制の取り組みが進められている。日医では2003年に『禁煙推進に関する日本医師会宣言(禁煙日医宣言)』を第108回定例代議員会で採択し、2008年に医療機関および医師会館内における全面禁煙の徹底、禁煙治療・禁煙支援体制の整備、喫煙防止教育の推進を柱とする『禁煙に関する声明文』を発表した。本日はドイツの取り組みから我々は何を学ぶべきか今後の検討に資するべく真摯に拝聴したい」と結んだ。
講演Ⅰは、たばこ産業の盛んなドイツで受動喫煙防止を提案し議会内の賛同を集め、2007年「連邦受動喫煙防止法」の制定に漕ぎ着けたドイツ連邦議会議員の一人、 ローター・ビンディング氏が防止法の起草から制定までの経緯を報告した。
講演Ⅰ 「受動喫煙から身を守る」
ドイツ連邦議会議員 ローター・ビンディング
ドイツの道路のあちこちにはタバコの吸殻が散らばっている。まずは日本の道に吸殻は1つも落ちておらず綺麗なことに驚いた。良い土産話が出来たと前置きした。初めに、なぜドイツ国民は当然の事の様にタバコを吸う習慣が有るのか考えて見た。それはたばこ産業が1914年以来100年に渡って国民、政治家と子供達にまでタバコをオリンピック種目のスキーや陸上競技のスポーツ、綺麗な服の裕福感、友人間の帰属意識の心地よさのプラスイメージと結びつけて宣伝し、タバコを無害とみなす心理操作を行って来たからである。それは全くのフィクションである。昔の事になるがマルボーロのタバコの広告で青空の下、広大な平野で2人のカウボーイが馬にまたがり心地良さそうにタバコを燻らしている写真があった。この中の1人はがんになり48歳で亡くなったし、後の1人も50歳で亡くなっている。今やこれは過去の情景となった。現在では、喫煙者はタバコによって生じる狭心症などの循環器疾患、肺がん、足の閉塞性疾患を心配しながらも依存のためにタバコに手を伸ばさざるを得なくなり職場内では吸えず寒い外に出て喫煙者同志肩を寄せ合いタバコを吸う姿が見られる。タバコ産業や多くの政治家は健康被害の事実を充分に知っていながら、これに目を向けようとはしない。同じ党派のドイツ連邦議員の仲間と共にドイツがん研究所に招かれて後で講演するランゲル女史のタバコの健康被害についてのレクチャーを受けた際、「ドイツでは年間13万人の喫煙による死亡と受動喫煙の後遺症で3300人以上が亡くなる」という事実を知った。これが氏の受動喫煙防止運動に取り組む切掛けになった。そして早速、受動喫煙の防止を議会に提案してアンケートを集めた所、最初から半数以上の賛同者を得た。しかし理解はしてくれたがこれまで禁煙問題は数回以上も提案されたが一回も成功していないと懐疑的な議員が多かった。残り半数の議員も他に財政など大切な問題があるではないかと取り合わなかった。しかし日増しに党派を超えて賛同者は広がって行き作業チームを作り受動喫煙防止法の議員立法に向けて動き出した。とは言う物の議会内にはたばこ産業や観光業,飲食店業界などとの関係議員もおり多くの抵抗があった。特に同じ室内での分煙を提案するショッキングな抵抗も受けたが無視した。ランデル女史の正確な根拠のある科学的データを駆使しながら議論に議論を重ねて地道に作業を進めて行った。ドイツ国民の4分の3以上は非喫煙者保護法を求めている調査結果も後押しして「連邦受動喫煙防止法」が2007年に成立、同年9月には施行され公共交通機関、駅、官庁、タクシーなどが禁煙となった。法案策定の過程で飲食店にも禁煙を広げようとしたが喫煙は個人の自由で、それを奪うのは憲法違反で虐待だ。非喫煙者が出て行けば良い。またそれをするならアルコールも規制すべきだとの抵抗にあい実現しなかった。アルコールを飲んでも周りには迷惑を掛けない。タバコ喫煙は例えば大声を出して周りに迷惑を掛けるのと同じ事なのであるのに受動喫煙防止に関する「飲食店に関する法律」は抜け穴の困難な連邦法ではなく、組みし易い16ある州の各々の州法で管轄することになってしまった。ところが2008年7月「面積により喫煙を認める州法」を連邦憲法裁判所が「部屋の面積で禁煙を決めるのは違法である」との飲食店主の訴えを認めたために各州では2009年12月末までに飲食店すべてを禁煙とするかどうかの判断を迫られている。国民の7割が受動喫煙防止を求めているにも拘わらず、国会議員の3分の2の賛同が得られないのは不思議である。陰にタバコ産業の力が働いているのは確かである。これまでタバコは税収として重用であるとして国民のタバコによる健康被害をわかりながらも国はこれを無視し続けてきた。140億ユーロの税収を得るのに400億ユーロのコストを使っているのである。全面禁煙を勝ち取るためには、一遍に頂上を望むのではなく一歩、一歩前に進みながら国民の意識を変えていくことが大切である。また法律を作る時には、飲食店での喫煙を州法扱いにした様な、少しの例外を認めるべきではないと結んだ。
次に受動喫煙の及ぼす健康被害について科学的に正確なデータを提示して国民、政治家、マスメディアとのコミュニケーションを図り、ビンディング議員を側面から支援し続けたドイツがん研究所たばこ対策部長マルチナ・ぺチュケ・ランゲル氏が講演した。
講演Ⅱ
「ドイツにおける非喫煙者の法的保護2005~2009年」
ドイツがん研究所たばこ対策部長 マルチナ・ペチュケ・ランゲル
法制定に大きく効果の有った事としてドイツがん研究所は発がんのメカニズムに受動喫煙が関与する危険性のメッセージを科学的に明確な証拠を添えて積極的にジャーナリストや政治家に送りアピールした。それには癌研究の専門家でなくとも分かる簡単な1,2枚のファクトシートを使った。これが功を奏して、有力な新聞に記事が掲載されるようになり、マスコミが禁煙擁護に乗り出した。最も大きかったのは多くの医療機関からの幅広い支持を得たことである。そして法律家の協力を得て具体的な法案を作り、制度の中で様々な決定を行う人々と個人的なつながりを確立して行った。全てが成功したわけではない。唯一人ローター・ビンディング議員だけがメッセージを正しく受け止めてくれて、政治の分野に私達の意見を反映してくれた。そして議員立法として2007年の連邦法制定に至った。その経過中の大きな障害がたばこ業界の非喫煙者保護を妨害する嘘の情報で、これには実際の研究資料やエビデンスのある情報を集め対抗した。国内での喫煙区域で働かざるをえない非喫煙者数は100万人以上に昇り、その中には7000人の妊娠した人が働いている。受動喫煙により死亡する人はキャンペーンまで行い騒がれているアスベスト肺、サーズ、エイズなどで死亡する人の数より何倍も多い。ドイツ全土の飲食店百カ所における有害物質の測定調査ではガスマスクを必要とするほど汚染された職場もあり、そのデータも示した。有害物質は発癌に微量であっても危険であることはすでに証明されている。たかが換気装置でなくなるものではない。タバコ産業にかかわる雇用人数は少なく、タバコ生産機械もたいしたことは無い。他への雇用も転換可能である。受動喫煙を防止する為には自主的合意ではなく法による禁煙規制しか無い。連邦法の制定が行われて以降の調査ではレストランやカフェでは副流煙の影響が軽減したこと、禁煙となった飲食店が国民に支持されていること。2002年~2008年にかけての喫煙予防とたばこ総消費量削減は相関のあったことを報告した。
つづいてのシンポジウムでは、「日本の取り組みについて」と題して、議員の小宮山洋子衆議院議員が国会内の禁煙の取り組みの動向、公共的施設における「受動喫煙防止条例」を成立させた神奈川県会議員の2人がそれぞれの立場からの活動報告を行った。 日医から内田健夫常任理事が「日本医師会の取り組み」と題して2008年9月の『禁煙に関する声明文』を紹介し、日医会員の喫煙意識調査で男性医師の喫煙率が有意に低下していること、禁煙啓発のポスターや冊子を作成し署名運動を行っていることを報告した。

固定リンク
職場の禁煙―さらば「煙が目にしみる」ー朝日新聞社説
働く人の健康を守るために、職場は原則として禁煙にする。
他の人のたばこの煙を吸う、いわゆる受動喫煙による健康被害をどうすれば防げるかを検討している厚生労働省の有識者検討会が、こんな考え方を報告書の案の中心に据えた。
4月にもまとめる報告書を受けて、労働政策審議会が労働安全衛生法にどう盛り込むか、議論するという。
今度こそ、受動喫煙による健康被害を確実に防ぐための法整備を実現させてほしい。受動喫煙の防止をうたう健康増進法はあるものの、努力義務にとどまっている。
「たばこの煙にさらされることからの保護」を求めるたばこ規制枠組み条約(FCTC)が発効して今月末で5年。そのガイドラインは、受動喫煙を防ぐための法整備も求めている。
鳩山政権が誕生して、たばこ値上げなどの政策がやっと動き出した。民間のシンクタンク、日本医療政策機構の世論調査によると、現政権の医療政策の中で、たばこ増税は、事業仕分け、医師数の増加に続いて高い評価を得た。たばこ対策のいっそうの推進が、国民の期待に応える道だ。
報告書案はまず、受動喫煙による健康への影響は、科学的な証拠によって明白であることが世界的に認められているとした。
そのうえで、それを防ぐには、一般の事務所や工場は全面禁煙とするか、煙のもれない喫煙室以外では禁煙にすることを提案している。
飲食店などはどうか。従業員の健康を守るには、一般の事務所と同様の原則が必要だ。しかし、成人男性の喫煙率が依然として3割以上あり、客の喫煙を一律に禁止するのは難しいと飲食店などには抵抗が強い。それを考慮して、換気の徹底などによって、可能な限り従業員の受動喫煙を防止することを求めるにとどめている。
だが、成人人口の8割近くはたばこを吸わず、喫煙者の7、8割は禁煙を望んでいることにも目を向けたい。
海外に目を転じれば、たばこと酒は切り離せないと思われていた国々でも政治の指導力で着実に禁煙が進む。
英国はブレア政権が1997年に禁煙への取り組みを宣言、10年後の2007年に衛生法が施行されてパブなども禁煙となった。
台湾でも昨年、たばこ煙害防止法が施行され、公共の場からあっというまに煙が消えた。今や、ホテルも禁煙ルームだけだ。
世界でこれだけ禁煙が進めば、煙たい日本は、禁煙が進む外国からの観光客に文字通り煙たがられる。
何より、受動喫煙を確実に防いですべての国民の命を守らなければならない。職場の全面禁煙を目標に掲げて一歩を踏み出すときだ。
次の記事は鹿児島県医師会報 平成21年9月号に掲載された私の論文です。やっと私の主張が認められた気がしています。
タバコの健康問題について
1981年平山論文は受動喫煙と発癌の関連性を警告した。その後の世界各国の膨大な研究は、この事を科学的に証明している。2005年に世界保健機関(WHO)総会はタバコ規制枠組み条約を加盟国の全会一致の賛同で制定した。成立に大きく貢献した当時の事務総長ブルントラン女史は、後にノルウエーの首相にもなった人である。現在、多くの国は人々の集まる場所での喫煙が周囲のタバコを吸わない人やそこで働く人に重大な健康被害をもたらすとして、その様な場所での喫煙を禁止する受動喫煙防止法を制定してタバコ規制に大きな効果を挙げている。未だにタバコ事業法が残っている日本は税収をタバコに頼っている関係もあり諸外国に大きく遅れを取っている。その有様は若者の集まる盛り場やライブハウス、飲食街に少しでも身をおけば伺い知る事が出来る。またホテルやレストランでも禁煙席とは名ばかりで意味の無い分煙や換気装置で済まされている。まだまだ受動喫煙の害に対する意識の低さを痛感できる。全面禁煙にすると客の減少で経営面の事を危惧する場合も多い。むしろ欧米での調査によれば逆の報告が多い。日本の特定健診、特定保健指導の中では動脈硬化を促進し血管を傷つける高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症などはメタボリック症候群として重要視されている。喫煙は趣味や嗜好ではなくニコチン依存症及びタバコ関連疾患である動脈硬化性血管閉塞症、肺がん、慢性閉塞性肺疾患の両者を合わせ持つ疾患と捉えるべきで、喫煙習慣があるにも拘わらず健診診断報告では健康状態とされる。いま全世界が人類生存に大きな影響を与える温室効果ガスの削減対策に取組んでいる。日本は、積極的に国民のタバコの健康問題にも目を向けるべきである。喫煙場所が狭くなればなるほど喫煙人口は減少しているのは明らかで、公共の場での禁煙は決して自主同意でなく法による規制しか無い
。
固定リンク