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国民の誰もが何時でも何処でも平等に保険証1枚で医療が受けられる皆保険制度は昭和36年に始まった。来年で半世紀を迎える。このフリーアクセス制度は世界で最も優れた医療制度であるとのプライドと強い理念をもって堅持されて現在まで何とか続いている。現在、国民総医療費は34兆円であり、日本のGDPの7%、西欧諸国に比べれば格段に少ない。負担主体は公費12兆円(35%)、健康保険料17兆円(50%)、患者負担が5兆円(15%)の割合である。医療技術の革新と国民の医療ニーズの高まり、高齢化の影響での自然増があり総医療費は年々増加している。50歳以下は滅多に病気にはならないが高齢になればなるほど病気になる人が増えてくる。3000万人の人口ボリュームを占める団塊の世代が還暦を迎えている。今のまま毎年医療費増が続けば、この世代が75歳の後期高齢者になる25年後には総医療費は70兆円を超える。負担割合を見ても分るように医療財源は経済と連動せざるを得ない。無駄は是正しなければならないが長期にわたる経済不況で企業の健康保険組合の多くが解散して政府管掌保険の協会健保に移行している。全ての国民が平等に医療を受けられる事が皆保険制度の理念である。この制度は国家統制の下にどんな医療をどの位の価格で提供するかが決められ診療行為に応じて現物支給される配給制度である。医療の質よりも量が基本にある。疾病構造が感染症から慢性疾患に移り医療が高度化し、それに応じて国民のニーズも多様化している。負担と受益はコインの裏表の関係にある。医療ニーズに対する質の要求には量を基本に置いた公的保険以外は自己負担でとなりがちである。しかしそれを許すと貧富の差で医療の質に違いが生じる。小泉政権の経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進会議の主張した市場経済原理に基づく混合診療導入や医療に株式会社が参入などを持ち込むことになり医療の公共性、非営利性が崩れフリーアクセスが立ち行かなくなる。今、皆保険制度をいかに維持するか、中身の議論が必要になっている。

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歴史上明らかにされている新型インフルエンザのパンデミックには大正7年~8年に世界規模の猛威を振るったスペイン風邪、 昭和32年~33年の中国に始まり香港を経て世界に広がったアジア風邪(H2N2)と昭和43年~44年の香港風邪の3つがある。スペイン風邪のウイルスの型は今回のインフルエンザと同じA/H1N1の呼吸器感染性の弱毒型であり決して全身型の強毒型ではなかった。2番目のアジア風邪の場合、死亡率はスペイン風邪の10分の1、6000人に1人で罹患者数も1桁小さかった。理由としてアジア風邪の流行時には医療進歩でインフルエンザの二次感染での細菌性肺炎に対する抗生物質があったからで、ましてや今回は抗ウイルス剤のタミフル、リレンザがある。また年内には一回吸入するだけで効果のある抗ウイルス剤も使えるようになる。濃厚接触しても抗ウイルス剤で予防も出来る。とはいえ誰にも免疫は無い。あまり甘く見ないほうが良い。手洗い、うがい、口腔ケア、マスク、体力保持など自己管理が大切であり、罹ったら早めに治療を受ける。大事なのは罹ったら他の人にうつさない、自分でインフルエンザ感染を終わりにする、自分が決して感染源にならない咳エチケットと受診に際しては決められた手順を守る事である。今回の場合は鳥インフルエンザのような全身感染性の強毒型では無い。二次感染に対する抗菌剤は数え切れないほどあるので基礎疾患を持つ人以外は慌てる事は無い。毎年流行している季節性インフルエンザでも基礎疾患を持つ人は注意しないと同じぐらいの確率で死亡するわけなので、マスコミがただバックグラウンドを考慮しないで死亡者数を強調して報道すべきではない。またスペイン風邪、アジア風邪、香港風邪の3つのパンデミックのいずれもが同じ地域での感染拡大は1ヶ月もすれば治まっている。この経験に学ぶ事が大切である。新型インフルエンザウイルスよりむしろ恐怖を煽る報道がパニックをを引き起こす。4月の二の舞にならないようにすべきである。医療者、行政、マスコミが連携して混乱が起こらないように情報の共有と正しい報道をする事が大切である。

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個人の努力で予防可能な死亡原因の1位が喫煙、2位は肥満である。10年以上タバコを吸っている60歳以上の喫煙者のほぼ全員が咳、痰、息切れなどの症状の出る慢性閉塞性肺疾患(COPD)になっている。またニコチン依存症からのうつ病やうつ状態にある。そして喫煙がCOPDになると知っている人は33%に過ぎない。COPDの急増する50歳代では18%である。喫煙が肺を破壊し息が苦しく咳が出ているのタバコで最も気になるのがタバコ代と答えた人は81%と自分の健康に対しては関心を示さない。むしろ自分は健康だと過信し楽観している。咳、痰、息切れのCOPD症状を軽くするには禁煙しかないのに、今すぐにでも禁煙しようと考えている人は15%に過ぎない。私の禁煙外来を訪れるニコチン依存症の殆どは喫煙の健康被害を良く知っており、過去に何回か禁煙を試みた人が多い。喫煙者のごく一部の人しか事の重大さを分かっていないのである。60歳を超え喫煙し続けると薬が効かず酸素吸入しかない、それも死を待つだけの生活を強いられるCOPDを引き起こす。禁煙の決意は今すぐにでも出来る。人生を変えられるのである。血圧を下げる薬はあるが、COPDを治す薬はない。

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 日本医師会長の挨拶

暑い中、大雨や地震災害など様々な世情ですから、皆さんのご心痛、御多忙を御察し致します。昨今の医療崩壊での医療再生には地域に根ざした有床診療所の医療資源を活用する事が必要不可欠であると考え今回、日医で初めての有床診療所担当理事連絡協議会を開かせていただきました。今年も九州で全国有床診療所協議会が開かれ私も参加させていただきました。種々の問題が生じていることは充分承知しています。日医としては平成14年に有床診療所検討プロジェクト委員会を設置し、平成18年からは常設委員会として有床診療所に関する問題に取組んで参りました。有床診療所は休日、昼夜の救急医療に対応し、外科手術や分娩の半数を取り扱っています。在宅医療が推し進められているなかで在宅医療を担うと共に実際に、在宅では看れない患者さんの入院も引き受ける地域密着型の医療を行っています。このたび日医では現況を把握するために厚労省と一緒に全国の有床診療所の現地視察を行いました。今日はその報告もなされる予定ですが、全ての有床診療所の先生方は多様な住民のニーズに熱意をもって答えて居られます。一方で有床診療所の運営は熱意だけでは続けられず無床化など年々1000ケ所の施設が減少しています。有床診療所の減少は地域の医療提供体制に混乱を来たして、医療崩壊の要因の一つになっている事は明らかです。日本医師会としては有床診療所の機能を存続させその機能を活用する事が地域医療の再生に時間的にも経済的にも有効であると考えています。今日は厚生労働省の医政局総務課、保険局医療課の方にも出席して頂いております。出席の皆様方には有床診療所の適正な評価、その活用に向けた忌憚のない御意見を賜りたい思います。

「有床診療所を巡る動向について」

  今村定臣常任理事

 福岡県、和歌山県、広島県、北海道の複数の有床診療所を厚生労働省と合同での現地視察でのヒアリングと実態調査から得られた有床診療所の問題点、現場の意見や要望について報告します。診療報酬の問題では外来収入で入院部門の赤字を補填しており、人口の少ない地域ではその外来収入も少ない。介護施設より手厚い医療介護サービスをしているにも拘らず報酬評価が低い。患者さんは負担の少ない有床診療所への入院を希望してなかなか退院させられない。暴力や認知症、医療処置など手間のかかる患者は介護施設が断るなどがある。要望としては意欲のある医師が複数で経営が出来たり次世代に自身を持って継承できる診療報酬体系にして欲しい。医療療養病床での急性憎悪に対しての一般病床へ転用が出来る柔軟な運用にして欲しいなどの要望があり、またコストが合えば地域のために続けられるとの意見もありました。看護職員関係では看護職員の不足、特に夜勤者不足は深刻な状態です。若い人の就職が殆どなく高齢化も問題となっています。診療報酬が低いために病院と同じ賃金を提示出来ない事も理由の一つです。一般病床と療養病床の看護配置は個別でなく一活合算にして欲しい。また患者さんの家庭環境や財政的な問題を考慮した病院から在宅医療の中間施設として有床診療所を利用できる体制を作って、有床診療所を増やす等の提案がありました。

 有床診療所に関する検討委員会検討経過について

有床診療所問題検討委員会 大道久委員長

 平成14年に日医は有床診療所検討プロジェクト委員会を立ち上げました。有床診療所の将来構想についての会長からの諮問を受け検討を始めています。48時間規制の運用見直しや入院基本料など診療報酬の問題を取り上げています。平成16年には「有床診療所の今後のあり方について」の諮問で48時間規制の撤廃を厚労省に要請し有床診療所の実態調査を開始しました。平成18年にプロジェクト委員会は常設委員会となり、「地域医療における有床診療所の役割」についての諮問を受け検討に入りました。この年には医療改革関連で医療法が改正され48時間規制が撤廃されました。そして平成20年度医療費改定に向けて緊急要望書を提出しました。平成20年には「有床診療所の発展と安定運営に向けて適正な評価に向けた方策」の諮問に対し有床診療所入院基本料のあり方を日医総研の実態調査のデータをもとに検討を進め現在に至っています。見直しの方向性では入院基本料について底上げか上位基準の加算かで議論になっています。その中で有床診療所を機能類型し種別化する事には疑義が上がっています。医師の複数配置、上位配置加算の要望もあります。現在の重要課題は看護配置基準と入院期間の逓減制の見直しです。委員会では関係者を現地視察させ有床診療所の社会での役割について明確化させその認知に向けた広報活動を行っています。今回の介護報酬改定では有床診療所の一般病床でのショートステイ算定が可能になりましたが、手続きが複雑過ぎるので国、県に簡素化を要請しています。また会員に診療所後期高齢者医療管理料の活用を促進しています。他には48時間規制の撤廃により有床診療所病床の地域医療計画の基準病床に算定され過剰地域での新規開業参入が出来なくなった事も問題にしています。委員会として小石川養生所跡を視察して参りました。気を新たにして歴史的に永い経緯を誇る有床診療所を新時代に向けて立て直し、社会に認知評価を受け活用される事が委員会としての願いです。

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第一三共株式会社は8月10日にA型、B型インフルエンザに効く新しい抗インフルエンザウイルス薬ラ二ナミビルを今年中に製造販売できるよう準備していると発表した。この薬は一回吸入するだけでタミフルを朝夕5日間服用するよりも効果に優れており安全性にも問題のないことを確認できたとしている。耐性変異株の心配される新型インフルエンザ対策に有望な助っ人の登場である。

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エートスとは民族社会に行き渡っている道徳的慣習の事である。倫理とは道徳の規範になる原理の事である。古来、日本は閉鎖系社会を形成し、その生存戦略意識の中で、繋がりの自己および平等主義的倫理を保存してきた。和辻哲郎は古代の律令制度に見るように日本の国家は人民の生活を保障するために生活に必要な程度の生活手段を均等に分配しようとして班田収受のモットーがあった。しかし人には働く者と働かない者がおり不平等が生じる。また量的平等の正義の元では、経済が疲弊したりすると地域の条件による格差が生じる。働く者が報われない事態が生じ持続性がなくなり律令制度は潰れた。限られた資源の中で生存環境収容能力最大の人口を養うためには社会構成員の守るべき心得、倫理が要る。祖先を崇拝し、公に忠、和を尊び、社会的役割を誠実に果すためにつながりを大切にする。これが生存戦略としての倫理であり日本人としての人の道であった。繋がりの自己こそ日本人が大切にしてきた文化的雰囲気である。アメリカは開放系社会で各個人は独立した行為主体であり繋がりの視点に欠けている。それではその場限りで、現存の人間のみにしか適応できない。先祖はもとより後世には繋がらない。このアメリカの思想は日本の社会構造変化や核家族化の中に入りこみやすくなった。そして本来の日本人が営々と守ってきた繋がりの倫理精神は崩れさり、倫理性の欠けた弱肉強食の市場主義がはびこっている。経済の疲弊した今こそ日本人が古来より持ち続けてきた生存戦略的道徳である祖先、後生に繋がる倫理意識を取り戻すべきである。これからの日本の社会保障政策にはこの精神が必要になってくる。国が存続する為には国民は国から何がもらえるかではなく、日本の生存戦略のために国民の一人一人が国家に何を奉仕出来るかを考える時である。

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今回の新型インフルエンザは感染力が強い。8月に入り猛威を振るっている。季節性のインフルエンザも同じだが患者数が増えればそれに合わせて死亡率も上がるのでパニックに陥らない事が大切である。蔓延してしまった今となっては自己防衛しかない。また罹ったら他の人にうつさない事が社会に対する責任でもある。自宅療養を心がける。予防に必要な事は、手洗い、うがいなど一般的感染対策を徹底し出来るだけ人ごみを避ける交通手段、移動時間等の工夫する。健康状態に気を配り発熱したら早めに受診する。予防接種が最も効果があるのだが、新型用のワクチン接種は10月にずれ込む。そこで予防で最も効果が見られるのはウイルスの気道粘膜への侵入を防ぐバリヤーの保護である。このバリヤーは常在口腔内細菌が出すプロテアーゼで破壊される。そこで口腔内雑菌をなるべく少なくする口腔ケアが有効である。食後に丁寧に歯磨すると同時に舌ブラシで舌苔を除く。一連のことを毎食後に必ず行う。このことにはエビデンスがある。歯磨により風邪の発症を40%、インフルエンザを10分の1に減らしとの報告がある。ヨード液より水道水のほうが効果があるらしい。私の施設では充分口腔ケアを行っているのでこれまで利用者がインフルエンザに罹った事がない。口を充分に漱ぐだけでウイルスも含め、食後に増える口の雑菌を洗い流しバリアーを保護するので効果抜群である。

口腔ケアが学校保健、介護医療の世界で良くテーマとして上がる。その基本は歯磨きの習慣をつけることから始まる。習慣化するにはどうしても動機付けが大切である。前者は小さいときから歯磨き、うがいの習慣を付けて虫歯をなくし年取るまで自分の歯で食べようと言う事である。後者は口の中をきれいにして呑込む力をつけて誤嚥を防ぎ肺炎にならないようにしようと介護する側への指導的面が強い。虫歯が出来て歯が抜けないと予防の大切さはわからない。後悔しても後の祭である。いろいろ口腔ケアの重要性を理屈を並べても暖簾に腕押しである。私の知っている歯医者さんが良く使う動機付は夜使った茶碗をそのまま洗わないで翌朝それにご飯をよそって食べますかと語りかける。たいていの人がそれは厭だなと思う。医療の場合、入院患者さんの口を見ればその病院の看護や介護の程度が一目でわかると言うと皆プライドがあるので一生懸命に努力するようになる。食後のうがいが良いと思っている人は多い。しないよりはましだが歯磨きに比べたら非常に劣る。歯磨きも通り一遍では効果がない。歯1本1本を20回づつ意識して磨く事である。歯茎の刺激は脳を刺激する。歯茎すっきり頭すっきり勉強や仕事がはかどる。ボケも改善する。

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高齢者ケアの目標は本人が生きていて良かったと思うような生活の維持と継続であろう。その中での介護は生活援助で看護は健康管理である。高齢者が生活している場所が延命治療の場所になってしまっては意味がない。得てして介護施設でも利用者の健康状態がおかしくなると医療看護が前面に出て本人・家族が望まない病院に入院しているがごとき状況になってしまいがちになる。介護現場での医療看護の役割で最も必要なのは高齢者が陥りやすい病的状態を作らない様に予防する事である。ここに介護と看護とが連携する意味がある。今後は終末期においても、際限ない延命治療より穏やかな死を求める高齢者や家族が増えると予想される。介護者は利用者の意思を汲み取れるような触れ合いが可能であり本音を知る事が出来る。介護施設における介護と看護との連携・協働は医療ニーズへの対応も必要であるが利用者側の多様な価値観や要望に沿った豊かな生活援助に役立つものでなければならない。

~2009.8.7 シルバー新報~ 

      介護と看護10回 鎌田ケイ子さんより

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2009.08.15 12:48 |  その他(一般)  |  でんさん  | 推薦数 : 0

サンパウロ州  全面禁煙条例

南米のウルグアイやチリ、ペルーでは既に公共の場所での喫煙規制を施行している。南米最大都市ブラジルのサンパウロのあるサンパウロ州でレストラン、商業施設など屋内の公共の場所での喫煙を全面禁止する条例が8月7日に施行された。レストランで客に喫煙を許した場合は店のオーナーに日本円で8万500円の罰金、3回目以降は営業停止になる。ブラジルの国としての対応が攻められそうである。

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2009.08.15 08:03 |  生活 / くらし  |  旅行 / 宿  |  その他(一般)  |  でんさん  | 推薦数 : 0

平和の申し子

一本のダン傘。

昔、鹿児島ではオランダから伝わった品物の頭にダンと言う接頭辞を付けて呼んだ。日本の蛇の目傘は油に浸した和紙で出来ている。西洋の傘は布製で強い。オランダから伝えられたこうもり傘を最近までダン傘と呼んだ。傘の他にも穀物を入れる麦わらで編んだ袋をカマスと呼ぶ。外国製ジュートで出来た袋はダンカマスである。戦前、父は母と長男を連れて満州に渡り満州鉄道に技術者で勤めた後は独立、機械工作の事業所を営んでいた。母に言わせれば少しハイカラで当時としては偉丈夫の父は人が二~三人は入れるダン傘を愛用していたと言う。そんな父も兵として老兵の四十歳にも拘らず太平洋戦争末期の昭和二〇年六月に関東軍に現地徴兵された。まずい事に、その二ヶ月後の八月十三日にソ連が和平条約を破棄して参戦して戦車隊が大挙して満州国境を超えて進攻して来た。その戦闘に巻き込まれ未だに最後の様子さえ分らないままである。敗戦国の日本の運命と共に異国満州の日本人達は敗走を余儀なくされたが母のお腹には十月出産予定の私が居た。日本まで無事な筈が無い。そこで母は父を慕い親しくしてくれていた中国人の好意に甘えた。私を出産後の翌年の六月日本に帰る事に成功した。奉天を去るときの母の一つの勇気と判断が家族四人の命を救った。輸送車とて無い状況で母は胸に私を抱いて幼い兄と姉の手を引かなければならなかった。逃避行に必要な荷物の数は一人に一個に限られていた。赤子の私の分はオムツである。後の三個の中で母が選んだ物はなんと命を繋ぐには役立ちそうも無い父が愛用していた大きな一本のダン傘であった。ところが朝鮮に向かう汽車には屋根は無かったし、満員の引き揚げ船上しかり本土の汽車とて同じであった。そして途中の駅舎や野宿する建物も空襲によって破壊されただ壁だけが残っていた。日差しはおろか雨風や夜露さえも凌げなかった。引き揚げ船の中では食べ物も無くなり母の乳も出なくなった。乳飲み子の私は母が小分けにして身に付けて来た米を小さく砕いたお粥で命をつないだと聞いた。そんな状況の中、父の形見の傘が威力を発揮した。母子四人が入る大きな傘の下で体を寄せ合い何とか無事に父の故郷に辿り着けたのである。父の魂が導いてくれたとしか考えられない。道中では多くの幼子達が命を落とし水葬されたそうである。大変な動乱の中で私達子供達が中国残留孤児にもならなかった奇跡を思う時、母の聡明さには感心する。そして運命の不思議さに畏敬さえ感じる。父の帰りたかった故郷で私は父の年齢を四半世紀も超えた。苦労した母は今年百歳を迎えた。

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