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21世紀に入り地球環境を含む公衆衛生の重要性が増した。SARSや今回の新型インフルエンザで発揮したグローバルな感染症危機管理での世界保健機関の機動力と成果は注目に値する。日本での2000年の健康日本21、その3年後に制定された健康増進法は国民の健康志向は高揚した。私は卒後一貫して個人の疾病のみに関わり続けて来たがここ数年は公衆衛生担当として社会水準の健康も考えなければならない立場にいる。お陰で社会医学的領域の知識も学ばせて頂いている。現時点の公衆衛生が直面している問題への私見を述べたい。
感染症危機管理
1998年にアジア各地でH5N1鳥インフルエンザが発生した時、政府は新型インフルエンザ対策委員会を立ち上げて毒性の強い鳥を起源にしたインフルエンザに対応可能な行動計画ガイドラインを策定していた。そして今年の2月に新しい知見や感染症法、国内事情を考慮して行動計画を改定した。ついに4月下旬に豚を起源にした新型インフルエンザA・メキシコが発生した。政府は新しい行動計画に従いまず水際での空港や海港からのウイルス侵入を防ぐための防疫と封じ込め作戦を取った。神戸で国内発生が確認され感染の広がった神戸の現場からは厳しすぎる行動計画は実情に合わずパンク寸前との訴えとウイルス毒性は低い事が明らかになり、やっと柔軟な対応に移行した。公衆衛生政策は厳しくするのは簡単である。しかし個人の行動制限、権利の抑制そして経済活動の停滞は必要最小限にするべきである。国の当初の物々しい対応とマスコミによるインフルエンザの恐怖を煽る報道が社会混乱を起こした。今回は国の認識と現場状況との間にずれが有った。国と地方自治体はコミィ二ケーションを密にし、情報を共有する必要がある。それは兎も角としてインフルエンザの国内侵入と国内発生を遅らせ、患者の同時多発を抑えることで医療サービスの破綻を防げた。その間にも全国レベルの検査体制や医療体制を整備するだけの時間稼ぎが出来た。この一連の対応の検証は新たな鳥インフルエンザ対策のモデルになる。これからの課題は再燃に対する予防ワクチンの接種と医療体制の強化であり各医療機関のこれまで国および医師会が中心になり推し進めてきた院内感染対策機能をフルに発揮して二次感染の防止に努める事にある。平成19年の10~20代の若者の間に流行した麻疹はこれまでの日本の予防接種政策の弱点を突いた。予防接種は費用対効果に優れた公衆衛生の介入手段であり、予防接種で予防できる感染症はワクチンで防ぐ事が国際標準となっており、諸外国では厳しい義務化が行われている。ワクチンギャップと言われているが日本では副作用に対する過剰な抵抗感があり予防接種が徹底されていない。致死率の高い麻疹の怖さを知らない若い母親が増えており接種の重要性の啓蒙と接種にアクセスしやすい環境作りが必要である。新型インフルエンザに対するワクチンの製造は急がなければならないが、再燃に備えて国としても高齢者への肺炎ワクチン、乳幼児に対するHibワクチンの予防接種を積極的に進める必要がある。次に肝炎は国内最大の感染症でありインターフェロンで治療可能であり肝硬変、肝癌への移行を防ぐ事が出来る。国はインターフェロン医療補助制度を初め、ウイルス検査と治療体制に補助制度を設けている。インターフェロン治療への抵抗感もあり国の思惑通りには進んでいない。全ての人がウイルスチェックを受けて陽性ならば医療機関にアクセスすべきであろう。
タバコの健康問題について
1981年に平山論文の受動喫煙と発癌の関係は、その後の世界中の膨大な研究によって確認されている。後年ノルウエー首相になったブルントラン女史が世界保健機関(WHO)の事務総長であった2005年総会で加盟国の全会一致の賛同を得てタバコ規制枠組み条約が制定された。それ以降、諸外国では多くの人が集まる場所での喫煙は周囲の非喫煙者及びそこで働く人々に重大な健康被害をもたらすとして、その様な場所での喫煙を禁止する受動喫煙防止法を導入している。しかし未だにタバコ事業法が残り、税収をタバコに頼っている日本は世界に大きい遅れを取っている。その有様は若者の集まる盛り場やライブハウス、飲食街に少しでも身をおけば伺い知る事が出来る。またホテルやレストランでも禁煙席とは名ばかりで意味の無い分煙で済まされている。特定健診、特定保健指導では動脈硬化症を進行させる高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症のメタボリックシンドロームの危険因子のみに焦点を当て硬化の最大因子の喫煙習慣は禁煙支援など指導の対象となっていない。禁煙補助剤も保険収載されている。喫煙はニコチン依存症と確立された疾患としての対応が必要である。今、世界は人類の生存に大きな厄災をもたらしつつある温室効果ガス削減対策に取組んでいる。同じように日本はタバコの健康問題にも真剣に目を向けないと将来、大きな禍根を残す可能性がある。特に公共の場での禁煙については自主同意でなく法による規制しか無いと考えている。