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基礎知識編
家族がかかりつけ医を受診した時の理由は、周辺症状BPSDの行動症状である徘徊や心理症状のもの取られ妄想などが酷くて如何しようも出来ずに受診した割合は30~40%にものぼっています。一方、中核症状の物忘れのみを理由に受診している割合は3.7%に過ぎません。いかに認知症の人が早期に受診していないか家族の認識の低さを示しています。疫学調査で「認知症」と診断された人の家族が気づいた日常生活上の変化は同じことを何度も言った。財布を盗まれた。だらしなくなった。夜中に急に起きて騒ぎ出した。置忘れ、計算間違い、人の名前が出てこない、怒りっぽくなったなどです。このような変化が半年前にくらべ目立つようであれば認知症を疑って良いでしょう。問題は家族がいなければこのような変化は気づかれ難く、現在65歳以上の4割が単身もしくは高齢世帯で今後ますます増加して家族に情報を求めることが難しい状況である。
認知症の主体は記憶・認知機能の障害で中核症状と呼びます。それに続発・併存して様々な行動・心理症状BPSDがみられ周辺症状と呼びます。中核症状は記憶障害を始め判断力低下、見当識障害、失語、失行、失認などがみられます。周辺症状にはせん妄、抑うつ、興奮、徘徊、睡眠障害、妄想などの症状がみられます。周辺症状は介護の上で問題となります。環境の調整、対応の工夫と対症的な薬物療法で改善します。 近年ICFの導入により生活機能の障害が認知症にも取り入れらている。もともと認知症の定義には生活の支障がでて、支援が必要となる状態といわれている。ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)国際生活機能分類。
認知症と間違えられやすい状態
認知症と間違えられやすい状態には加齢に伴う物忘れ、うつ病、せん妄などがあります。うつ症状やせん妄は認知症の症状として現れることもあり鑑別が必要です。認知症はせん妄の危険因子でもあり、そのリスクはおよそ2倍です。うつ病はアルツハイマー型認知症の危険因子でもあります。診断が困難な場合は専門医へ紹介するのが良いでしょう。薬物による意識変容なども間違えられます。
普通の物忘れ
生理的もの忘れは半年や1年で進行することは有りません。認知症は進行し本人は自覚していないが、家族に1年前と現在の物忘れの状態をくらべて貰えばわかりやすいです。もの忘れの内容は、生理的もの忘れが体験の一部なのに対して認知症では体験のすべてを忘れてしまいます。例えば、結婚式に出席した際に隣に座っていた人の名前を思い出せないのが生理的物忘れで、出席したこと自体を忘れるのが認知症です。時間の失見当識もみられます。
うつ状態
うつ状態とアルツハイマー型認知症との大きな違いは発症時期です。 うつ病では何らかの契機が認められて通常は長くて数ヶ月前からの発症です。うつ状態では症状を強調します。認知症では過小評価しており、とりつくろう様な答えはアルツハイマー型認知症の特徴です。顕著となると作話になります。内容もうつ状態では自責的となり認知症では他罰的となります。この結果がもの盗られ妄想につながります。
せん妄
せん妄との大きな違いは起こり方でせん妄は何月何日と特定できるほど急性に起こります。認知症は緩徐に発症します。また、夜間に増悪することが多く、夜間せん妄ともいわれます。注意力の散漫した意識障害と幻視および運動不穏をせん妄の三徴といいます。高齢者では幻視を伴わないこともあり、通常は運動不穏のために多動となることが多いが、多動状態を伴わない場合もあります。
代表的なアセスメントツール
質問式、観察式 それぞれの代表的なツールを紹介します。 質問式には、認知症のスクリーニングを目的とした簡易テスト的ツールとして、
①改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
②ミニメンタルステート検査(MMSE)が挙げられる 。
観察式は主に患者さんとの問診や家族・介護者からの情報により評価する。
① Clinical Dementia Rating(CDR)、
② Functional Assessment Staging FAST(FAST)、
③ OLD
確定診断前の気づきを高めるツールとして活用できます。
OLD
OLDはオランダのかかりつけ医グループが外来診療での認知症の気づきを高めるために作成したツールです。日にちを忘れるなどの忘れっぽさ、同じ話をする会話の繰り返し、言葉が出てこない、会話が理解出来ないなど文脈理解の障害、時間が分らない、家族に依存、辻褄あわせの作話など12項目から構成されている。4項目以上該当した時に認知症が疑われる。ある程度習熟すれば12項目にはこだわらないでアセスメントできるようになります。
認知症を呈する病気
認知症を呈する疾患は多い。病気を疑い検査を進めるべきです。検査機器などの問題や専門外の疾患なら専門医に紹介します。神経変性疾患、脳血管障害、脳炎などの感染症、脳腫瘍、外傷性高次機能障害、免疫性疾患、正常圧水頭症の髄液循環障害、内分泌障害、中毒・栄養障害などがあります。
主要な認知症
代表的なものにアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型認知症があり、治療可能なものに甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミンB12欠乏症がある。初診時に検査を行い治療可能な認知症を鑑別する必要がある。
中核症状のアセスメント
質問には、あらかじめ家族から日常生活の行動に関する情報を得ておく必要があります。矛盾が生じた場合に患者がそれを認めるかどうか、言い訳をして取り繕うかどうかが診断の重要なポイントとなり家族からの情報で重要なのは1)以前無かった症状?2)症状が出現してきたのはいつごろ? の2点です。以前は無かった症状が出現し、悪くなって来た、出てきた時期がいつと断定出来ない等、情報が得られた時には、変性性認知症の存在が疑われます。失行、失認では家族はおかしなことをする、わざと変なことをすると分っていても症状とは認識していないことがあるのでおかしな行動をするという訴えがある際には、着衣失行、構成失行、半側空間失認、肢節運動失行の存在を疑います。
記憶障害のアセスメント
あらかじめ家族から情報を得ておく。 最近の記憶:どのような交通手段で受診したかをききます。できる限り世間話をするように聞きだすのがコツで昨日何をしましたかと質問するのもよい。昔の記憶 : 生年月日、出身地、結婚や子供の誕生日などを尋ねる。既往歴、職業歴をきく。ここで教育歴をきくのもよい。その年齢なら当然知っているはずの社会的事件についてきく。太平洋戦争、東京オリンピック、サリン事件等。
見当識障害のアセスメント
見当識障害のアセスメントでは時間と場所について尋ねる。通常、時間の見当識が先に障害されることが多い。アルツハイマー病では記憶障害と平行して進行する。レビー小体病では見当識障害が前景に出て記憶障害よりも目立つことがある。 時間の見当識障害では年月日だけでなく季節や、時計を見ないで現在の時刻を言わせることも有用である。月は正確に答えても季節と全く食い違うこともあります。場所の見当識としては今いる場所、ビルなら何階にいるのか、自宅の住所、今住んでいるところ、自宅と今住んでいるところが一致するかどうか質問します。
判断・実行機能障害のアセスメント
家族から日ごろの行動について聞いておく必要があります。女性の場合、料理が適切にできているか、男性の場合、買物ができているかを聞くことが有用です。料理、買物ともに多くの判断と遂行機能を要するからです。このほかに電話をかける、移動・外出をする、薬の管理をする、お金の管理をするなどについてどの程度できているか確認しておきます。 アルツハイマー型認知症と血管性認知症の主な鑑別点 アルツハイマー型認知症と血管性認知症の主な鑑別点は血管性認知症では病歴や画像が認知症と関連しているかどうかの判定がしばしば困難である。 神経症状があること、脳卒中の既往、発症様式が急激なこと、動揺性が重要です。
治療とケア早期発見、早期治療の意義
日本でのアルツハイマー型認知症の中核症状に対する治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬の塩酸ドネペジル(アリセプト)です。初期効果では認知機能の改善が期待されます。長期的にはADLの維持に介護見守りの手間が減り患者本人や介護者のQOLの改善に効果があります。認知症の早期発見・治療開始の大切さを患者・介護者に説明する事と早期に治療を始める事が大切です。
認知症の病気の説明
認知症の告知は患者本人の受け入れ、心理状態を考えて確実に認知症の診断がなされた後に行うべきです。早期で本人の意思・判断能力が保たれている時期であれば任意後見制度を利用し、本人の自己決定を尊重できる。将来このような方向に臨床現場が 進むと予想されます。一般を対象にしたアンケート調査では認知症と診断されたら自分自身に開示して欲しいとの回答が多くを占めました。告知した後のフォローが大切で、うつや生活の変化、心理状態に注意して、場合によってはカウンセリング、心理的ケアが必要になる。配慮しながら診療を続ける必要があります。
告知の考え方
診療は、法律的に準委任契約、医療診療契約でどのような治療を選択するかは患者の自己決定権にゆだねる観点から医師は診療経過と病状について開示し報告する義務があります。治療を続けるうえからも大切なプロセスです。患者が告知に耐えられない精神状態であれば告知を控えます。
患者に接する視点
1.認知症の患者さんは自己評価が困難で一見楽天的に見える。内部には深刻な不安を抱えて自信を失っており感情的に不安定になりやすい。家族にこの事を理解してもらう。2.認知症の患者さんは最も懸命に介護している人につらくあたる。たまに顔をあわせる人には驚くほど愛想よくふるまう。この点は認知症の介護を困難にしている大きな問題点です。
3.感情面は保たれており具体的体験は忘れてもいやな思いは残る。接するときの態度と口調には注意することが必要でどうせ忘れてしまうだろうとの対応は望ましくない。
4.異常行動には説明がついたり理解できることも多い。できるだけ理解しようとする姿勢が必要です。
5.認知症の患者さんは体調の変化をサインとして出して来る。いつもと様子が違う時には身体合併症の可能性を考えます。
外来時の対応
本人がもの忘れを訴えて受診した場合は生活の様子を詳しく聞く。日常生活上問題がなくても、MCIが介護予防の対象になる可能性があるので専門医に紹介します。 家族に付き添われて受診した場合、本人が診療を受けることに同意していない場合、本人の気持ちをゆっくりと聞き診察の必要性を説明します。 受付や診察時の行動の変化で認知症の可能性がある場合、家族から生活の様子を聞き生活上で困っている事はないか本人にそれとなく聞いてみます。
認知症の人への支援
もの忘れがあってもこれまでの生活を続けられるよう身体疾患の治療もふくめ必要時には専門医に紹介や相談しできる限りの治療や支援を行うことを伝えます。認知症の初期にはもの忘れの自覚が強く生活上のトラブルも増えて抑うつ的になっている。もの忘れを自覚する辛さを受け止め残った能力は十分あることを伝える。早期は勿論かなり進んでも会話に対する理解力は残っています。本人のいる前で家族に「症状がひどくなってきたね」など聞いて不安になるような病状説明は避けます。家庭での役割を持たせ可能な範囲での社会参加や通所介護の利用によって現在の能力の維持、情緒の安定、対人交流・社会性の促進などをはかります。
家族への支援
専門医、ケアマネジャー、ケア・スタッフなどと供にかかりつけ医が協力体制をとることは介護家族への大きな精神的な支えになります。社会資源を上手に活用することが介護負担の軽減につながることを伝えます。介護負担や不安を軽減するように介護者の話をじっくりと聞きます。介護者にとって介護仲間の存在とお互いに助け合うことは大きな支えとなります。身体疾患の治療は、治療薬の投与回数を減らし、往診をするなど介護家族の負担を少なくします。
アルツハイマー型認知症の薬物療法
認知症の症状に対する薬物療法に中核症状に対する物と周辺症状に対する薬物療法の2つを区別しておかなければならない。治療開始時には、中核症状に対する薬物療法が可能であることを伝える。周辺症状がない場合でも、経過中必要に応じて薬物治療が可能であることを伝えておく。
中核症状への薬物療法(意義と薬効)アリセプトの効果
アリセプトの投与でアルツハイマー型認知症の症状を数ヶ月から1年くらい改善させて進行を遅らせます。服薬を中断すると急激な悪化が生じる可能性があります。介護者や患者の薬物療法の正しい理解が治療への第一歩です。投与後直ぐに改善がみられなくても、長期的には進行を遅らせる可能性があります。
認知症ケア
周辺症状は薬物の副作用が原因である事もあり効いていない抗不安薬や睡眠薬などは一旦中止してみます。訴えの無い認知症患者の身体不調の診察はかかりつけ医の役割であり感染症、脱水、便秘などによって周辺症状が現れまた悪化します。 攻撃性や興奮は不適切な介護者のケアが原因であることも多く介護者のケアに問題が有ると思われる場合はショートステイなどを利用することも考慮します。以上の対応によっても改善せず本人のQOLが落ちる周辺症状には薬物治療を行ないます。
周辺症状に対する薬物療法
周辺症状の第1選択は適正なケアであるが薬物療法が有効な事も否定できません。妄想すなわち抗精神病薬投与とは限りませんが明らかなうつ状態やせん妄、睡眠障害がある場合には薬物療法を考慮する。
周辺症状に対するケアの試み
感情面を改善させて周辺症状の軽減をはかるためにデイケアやデイサービスなどでは多くの非薬物療法が試みられます。 行動に焦点をあてた療法は、周辺症状が特定の対応やイベント、環境などで現れることが確認された場合には行動面から関わっていく方法です。 感情に焦点を当てた療法に回想法があり刺激に焦点をあてた療法に音楽やペットなどを用いたレクリエーション療法、芸術療法、園芸療法などが有る。
認知症サポート医とかかりつけ医の役割・連携体制
地域包括支援センター本来の機能に加え重要な事は外部の様々な支援体制を有機的に繋ぐ役割です。地域の認知症高齢者の早期発見・早期支援には日常診療での気づきをきっかけにして地域包括支援センターに繋ぐ方向 医療⇒介護 総合相談・予防ケア・マネジメントなどの地域支援ネットワークからかかりつけ医に繋ぐ方向 介護⇒医療 の双方向の連携体制が期待されます。同時に市町村、都道府県、サポート医、専門医療機関を含めた体制作りが不可欠です。かかりつけ医は「早期段階での気づき」「家族に対する理解や支援」とともに地域連携の発信者として最も相応しいのです。
ケアの基本
認知障害が進行しても感情的な機能は保たれます。しかし環境変化に適応するのが難しい認知症高齢者の特徴を踏まえて、日常生活の中で「生活そのものをケアとして組み立てる」事が望まれます。それには
①環境の変化を避け、それまでの暮らしが続けられる配慮をする。
②介護する側の決めた日課に沿った関わりでなく高齢者一人ひとりのペースに合わせたゆったりした支援スタイルにして安心感・安定感の醸成に心がける。
③ 一人ひとりの心身の力を最大限に引き出し(エンパワーメントといいます)充実感のある暮らしを構築します。
生活圏を基本としたサービス体系の構築
1.できるだけ自宅の規模を大きく逸脱しない小規模な居住空間
2.家庭的な雰囲気・設えを工夫
3.少人数の高齢者を少人数のしかも同じ顔ぶれのスタッフが支えるなじみの関係
4.住み慣れた地域で必要な支援を受けながら暮らし続けられる日常生活圏域を基本としたサービス体系の構築です。 サービスとして
① グループホーム、
②小規模多機能型ケアサービス
③大きな施設の機能を積極的に地域に展開し施設そのもののあり方を問い直しユニットケアの普及に向けた施策を行なうことです。
相談窓口
認知症の相談窓口は、医療関係、保健関係、福祉関係、介護経験者等に分けることができる。医療関係ではもの忘れ外来など診断や治療と並行して相談に応じており保健関係では保健センターや精神保健福祉センター等があり保健師等の専門スタッフが相談に応じ関係機関とも連携する体制がある。福祉関係では、市町村に設置される地域包括支援センターや社会福祉協議会、介護経験者等の団体では「認知症の人と家族の会」がありほとんどの都道府県には支部があり相談事業等の活動が行われている。