前後の繋がりは全く思い出せない。しかし遠い日のワンシーンが今でもふとした時に頭に浮かぶ。不思議である。田舎の中学校から県都の公立高校に合格した。近くの駅から憧れの制帽を誇らしげに被り汽車通学を始めた。暗いうちに家を出て学校のある終着駅までは二時間あまり懸かった。入学式が終わり数日も経っていない頃だったのだろうか、大勢の乗客に揉まれながら汽車を降りて駅舎を出る頃に雨が降り出した。暗いうちに家を出て空模様に気付かずに傘を持つのを忘れていた。駅から学校までは10分ぐらい有った。仕方が無いので濡れながら歩き出した。その時、横からそっと傘が差しかけられた。一緒に汽車から降りた私と同じ高校の制服のセーラー服を着た女学生だった。すらっとして背が高かった。先輩に違いなかった。それまで用事以外は女性と話した事もない私はちょっと途惑った。何も言えずにそのまま黙って従つた。学校までの道のりを何も考えずにただただ緊張しながら歩いた。周りの通行人の目も気になったが雨だから仕方のないことだと言い聞かせながら歩いているうちに学校の広い石造りの玄関に着いた。私は顔を火照らせ彼女が傘をたたむのもまどろっこしく、軽く会釈して小走りに玄関に飛び込んだ。そして後も振り返らずに教室に急いだ。彼女の顔は良く見なかった。他人の目も気にせずに後輩の男子生徒と相合傘をしてくれるほど優しいのだからきれいな人だったろうと想像している。そのあともそれらしい人を探す自分が居たが顔を確認していないのだから探し当てるはずもなかった。



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