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治療とケア編
早期発見、早期治療の意義
日本でのアルツハイマー型認知症の中核症状に対する治療薬はコリンエステラーゼ阻害薬の塩酸ドネペジル(アリセプト)である。初期効果では認知機能の改善が期待される。長期的にはADLの維持に介護見守りの手間が減り患者本人や介護者のQOLの改善に効果がある。認知症の早期発見・治療開始の大切さを患者・介護者に説明する事と早期に治療を始める事が大切である。
認知症の病気の説明
認知症の告知は患者本人の受け入れ、心理状態を考えて確実に認知症の診断がなされた後に行うべきである。早期で本人の意思・判断能力が保たれている時期であれば任意後見制度を利用し、本人の自己決定を尊重できる。将来このような方向に臨床現場が進むと予想される。一般を対象にしたアンケート調査では認知症と診断されたら自分自身に開示して欲しいとの回答が多くを占めた。告知した後のフォローが大切で、うつや生活の変化、心理状態に注意して、場合によってはカウンセリング、心理的ケアが必要になる。配慮しながら診療を続ける必要がある。
告知の考え方
診療は、法律的に準委任契約、医療診療契約でどのような治療を選択するかは患者の自己決定権にゆだねる観点から医師は診療経過と病状について開示し報告する義務がある。治療を続けるうえからも大切なプロセスである。患者が告知に耐えられない精神状態であれば告知を控える。
患者に接する視点
1.認知症の患者さんは自己評価が困難で一見楽天的に見える。内部には深刻な不安を抱えて自信を失っており感情的に不安定になりやすい。家族にこの事を理解してもらう。
2.認知症の患者さんは最も懸命に介護している人につらくあたる。たまに顔をあわせる人には驚くほど愛想よくふるまう。この点は認知症の介護を困難にしている大きな問題点である。
3.感情面は保たれており具体的体験は忘れてもいやな思いは残る。接するときの態度と口調には注意することが必要でどうせ忘れてしまうだろうとの対応は望ましくない。
4.異常行動には説明がついたり理解できることも多い。できるだけ理解しようとする姿勢が必要である。
5.認知症の患者さんは体調の変化をサインとして出して来る。いつもと様子が違う時には身体合併症の可能性を考える。
外来時の対応
本人がもの忘れを訴えて受診した場合は生活の様子を詳しく聞く。日常生活上問題がなくても、MCIが介護予防の対象になる可能性があるので専門医に紹介する。
家族に付き添われて受診した場合、本人が診療を受けることに同意していない場合、本人の気持ちをゆっくりと聞き診察の必要性を説明する。
受付や診察時の行動の変化で認知症の可能性がある場合、家族から生活の様子を聞き生活上で困っている事はないか本人にそれとなく聞いてみる。
認知症の人への支援
もの忘れがあってもこれまでの生活を続けられるよう身体疾患の治療もふくめ必要時には専門医に紹介や相談しできる限りの治療や支援を行うことを伝える。認知症の初期にはもの忘れの自覚が強く生活上のトラブルも増えて抑うつ的になっている。もの忘れを自覚する辛さを受け止め残った能力は十分あることを伝える。早期は勿論かなり進んでも会話に対する理解力は残っている。本人のいる前で家族に「症状がひどくなってきたね」など聞いて不安になるような病状説明は避ける。
家庭での役割を持たせ可能な範囲での社会参加や通所介護の利用によって現在の能力の維持、情緒の安定、対人交流・社会性の促進などをはかる。
家族への支援
専門医、ケアマネジャー、ケア・スタッフなどと供にかかりつけ医が協力体制をとることは介護家族への大きな精神的な支えになる。社会資源を上手に活用することが介護負担の軽減につながることを伝える。介護負担や不安を軽減するように介護者の話をじっくりと聞く。
介護者にとって介護仲間の存在とお互いに助け合うことは大きな支えとなる。身体疾患の治療は、治療薬の投与回数を減らす、往診をするなど介護家族の負担が少なくする。
アセスメントツール
質問式、観察式 それぞれ代表的なツールを上げる。
質問式の認知症スクリーニングを目的とした簡易ツールに①改訂長谷川式簡知能評価スケール(HDS-R)、②ミニメンタルステート検査(MMSE)が挙げられる。
観察式は患者さんの問診や家族・介護者の情報によって評価する①Clinical Dementia Rating(CDR)、②Functional Assessment StagingFAST(FAST)、③初期認知症徴候観察リスト(OLD)の3つが代表的なもので確定診断前の気づきのツールとして活用できる。
OLD
OLDはオランダのかかりつけ医グループが外来診療での認知症の気づきを高めるために作成したツール。日にちを忘れるなどの忘れっぽさ、同じ話をする会話の繰り返し、言葉が出てこない、会話が理解出来ないなど文脈理解の障害、時間が分らない、家族に依存、辻褄あわせの作話など12項目から構成されている。4項目以上該当した時に認知症が疑われる。ある程度習熟すれば12項目にはこだわらないでアセスメントできるようになる。
診断 認知症を呈する病気
認知症を呈する疾患は多い。病気を疑い検査を進めるべきである。検査機器などの問題や専門外の疾患なら専門医に紹介する。神経変性性疾患、脳血管障害、脳炎などの感染症、脳腫瘍、外傷性高次機能障害、中枢免疫性疾患、正常圧水頭症の髄液循環障害、内分泌障害、中毒・栄養障害などがある。
代表的認知症
代表的なものにアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型認知症があり、治療可能なものに甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症がある。初診時に検査を行い治療可能な認知症を鑑別する必要がある。
中核症状のアセスメント
質問には、あらかじめ家族から日常生活の行動に関する情報を得ておく必要がある。矛盾が生じた場合に患者がそれを認めるかどうか、言い訳をして取り繕うかどうかが診断での重要なポイントとなる。家族からの情報で重要なのは
1)以前無かった症状?2)症状が出現してきたのはいつごろ? の2点である。
以前は無かった症状が出現し、悪くなって来た、出てきた時期がいつとは断定出来ない等、情報が得られた時には、病的変性性認知症の存在が疑われる。失行、失認では家族はおかしなことをする、わざと変なことをすると分っていても症状とは認識していないことがある。おかしな行動をするという訴えがある際には、着衣失行、構成失行、半側空間失認、肢節運動失行の存在を疑う。
記憶障害のアセスメント-あらかじめ家族から情報を得ておく
最近の記憶: 食事の内容や外来ならどのような交通手段で受診したかをきく。できる限り世間話をするように聞きだすのがコツである。昨日何をしましたかと質問するのもよい。
昔の記憶 : 生年月日、出身地、結婚や子供の誕生日などを尋ねる。既往歴、職業歴をきく。ここで教育歴をきくのもよい。その年齢なら当然知っているはずの社会的事件についてきく。太平洋戦争、東京オリンピック、サリン事件等
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見当識障害のアセス
見当識障害のアセスメントでは時間と場所について尋ねる。通常、時間の見当識が先に障害されることが多い。アルツハイマー病では記憶障害と平行して進行する。レビー小体病では見当識障害が前景に出て記憶障害よりも目立つことがある。
時間の見当識障害では年月日だけでなく季節や、時計を見ないで現在の時刻を言わせることも有用である。月は正確に答えても季節と全く食い違うこともある。
場所の見当識としては、今いる場所、ビルなら何階にいるのか、自宅の住所、今住んでいるところ、自宅と今住んでいるところが一致するかどうか質問する。
判断・実行機能障害のアセスメント
家族から日ごろの行動について聞いておく必要がある。女性の場合、料理が適切にできているか、男性の場合、買物ができているかを聞くことが有用である。料理、買物ともに多くの判断と遂行機能を要するからである。このほかに電話をかける、移動・外出をする、薬の管理をする、お金の管理をするなどについてどの程度できているか確認しておく。
原因疾患の同定の手順 (一般身体所見)
アルツハイマー型認知症と血管性認知症の主な鑑別点
アルツハイマー型認知症と血管性認知症の主な鑑別点。血管性認知症では病歴や画像が認知症と関連しているかどうかの判定がしばしば困難である。 神経症状があること、脳卒中の既往、発症様式が急激なこと、動揺性が重要。
基礎知識編
何故認知症を無視できないか
道路交通法の改正で主治医の診断書を提出、免許の取消および停止の申請が可能となった。かかりつけ医が「自動車運転は危険を伴うので控えた方がいい」と考える場合、本人や家族への的確なアドバイスをすれば免許更新において申請書裏面の申告欄にその旨の意思表示をすることができる。
かかりつけ医が、運転の際の危険性等について十分な説明を怠った場合に、人身事故等が起これば、かかりつけ医は“説明報告義務”違反の民事責任を問われる可能性もある。
家族がかかりつけ医を受診させた理由
家族がかかりつけ医を受診した時の理由である。もの忘れのみを理由として受診している割合は3.7%であった。行動障害や精神症状を理由として受診している割合は30~40%にのぼっている。家族の認知症に対する認識を示す結果である。認知症が早期に受診していないことがわかる。
家族の気付いた変化
何時も同じ事を言う
財布を盗まれたと言う
だらしなくなった
何時も降りる駅なのに乗り過ごす
夜中に急におきだし騒いだ
些細な事で怒りっぽくなった
計算の間違いが多くなった
物の名前が出てこなくなった
疫学調査で「認知症」と診断された対象者の家族が気づいた日常生活上の変化が頻度順に示してある。このような変化が少なくとも半年前と比較して目立つようであれば認知症を疑うタイミングといえる。
ここで問題は家族がいなければこのような変化は気づかれにくい。65歳以上の4割が単身、高齢者世帯で今後ますます増加し家族に情報源を求めることが難しい状況もあり本人との問診を通して認知症を疑う技術が求められる。
中核症状、周辺症状
認知症の主体は認知機能の障害で中核症状とよばれる。それに続発、併存して様々な精神症状行動上の障害がみられ周辺症状と呼ばれる。中核症状は記憶障害を始め判断力低下、見当識障害、失語、失行、失認などがみられ周辺症状としては、せん妄、抑うつ、興奮、徘徊、睡眠障害、妄想などの症状がみられる。周辺症状は介護の上でも問題となる。対症的な薬物療法、環境の調整、応対上の工夫などで改善する。
近年ICFの導入により生活機能の障害を認知症にも取り入れらている。もともと認知症の定義には生活の支障がでて、支援が必要となる状態といわれている。
間違われやすい状態
認知症と間違えられやすいのに加齢に伴う物忘れ、うつ病、せん妄などがある。うつ症状やせん妄は認知症の症状として現れることもあり鑑別が必要である。認知症はせん妄の危険因子であり、そのリスクはおよそ2倍になる。うつ病はアルツハイマー型認知症の危険因子でもある。診断が困難な場合には専門医へ紹介することが望ましい。薬物による意識変容なども間違えられることがある。
物忘れ
生理的もの忘れは半年~1年では進行することはない。認知症は進行性の変化がみられる。本人は自覚していないが、家族に1年前のもの忘れの状態と現在を比べてもらえばわかりやすい。もの忘れの内容に関しては、前者が体験の一部であるのに対して後者は体験すべてを忘れてしまうという違いがある。
例えば、結婚式に出席した際に隣に座っていた人の名前を思い出せないのが前者であり、出席したこと自体を忘れてしまうのが後者で見当識障害とくに時間の失見当がみられる。
うつ病
うつ状態とアルツハイマー型認知症との最も大きな違いは発症時期である。
うつ病では何らかの契機が認められる。通常は長くても数ヶ月前からの発症が多い。うつ状態では本人は症状を強調するが、認知症では過小評価することが多い。とりつくろう様な答えはアルツハイマー型認知症の特徴で顕著となると作話となる。内容もうつ状態では自責的となり認知症では他罰的となる。この結果、もの盗られ妄想の出現につながる。
せん妄
せん妄との最も大きな違いは発症様式である。前者は急性であり、認知症では緩徐に発症する。何月何日と特定できるような発症は前者の特徴である。また、夜間に増悪することが多く、夜間せん妄ともいわれる。注意力の散漫という形での意識障害と幻視および運動不穏はせん妄の三徴であるが、高齢者では幻視を伴わないことや通常は運動不穏で多動になることが多いが、多動状態を伴わない場合もある。