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誰もが幼き日、身につまされた芥川龍之介の短編小説くもの糸。1本の細い糸に為(な)り滴(したた)るやせ細った髭茫々の人の群れ。そんな神代のロマンに挑戦する御仁が現れた。黄金蜘蛛約100匹から3カ月掛けて糸を集め太さ4ミリ長さ10センチの1本のロープに編み上げた。それをハンモックの端にして体重65キロの自身みずからぶら下がった。数分間を持ちこたえ何とか切れなかった。計算上は600キロまで大丈夫としていた。ところが125キロの弟子が下がったところプッツリ切れた。地獄の底で生きている人はスリムだった。現代のくもの糸は勧善懲悪より体重の重さに弱点があった。なにやら当世風になってしまった。この御仁は高分子化学の教授で医療材料にならないか研究中だという。遊び心が福を呼ぶと良いが。医局の机にリングをつないだ鉛筆立てがある。一番上のリングには糸が何本も結んであり纏のようになっている。2人の外科医が診療の手伝いにやってくる。その誰かが合間に糸結びの練習用にしているらしい。それを見るたびに昔を思い出す。私は今でこそ手術はしないがもともとは心臓外科医。外科の修業はまずは糸結びからだった。止血、胃腸の縫合など糸結びが悪いと、術後出血、縫合不全など合併症が出てくる。、特に心臓手術では魔術師的早業で糸結びをしなければ心臓を止めている時間が長引き術後に影響が残る。人工弁一つを縫い着けるのに500回から600回ほどの糸結びを必要とする。若い頃の一時期良く糸結びの練習をしていた。結び方にも色々あり場面、場面で使い分ける。糸の種類も沢山あり昔は絹糸とたんぱく質の吸収される羊の腸から作った糸が使われた。最近は化学合成糸が多い。糸には吸収されるものと非吸収糸がある。また撚り糸とそうでないテグス状のものがある。心臓血管の手術には殆ど非吸収糸が使われる。それは手術後すぐに機能しなければならない器官であり常に弾力のある力が懸かるのでしつかりと固定されていなければならない。一昔前に刑事コロンボと言うシリーズもののテレビドラマがあった。その中に「溶ける糸」と題する一章があった。確かあらすじは大学病院での心臓血管外科での話で助教授がその師である教授を亡き者とする為に、溶ける糸が使われた。それをコロンボが見破るサスペンスドラマで、ヒントは手術のときに使われる糸が鍵。教授の心臓弁が悪くなりそれを人工弁に取り替える手術が必要となった。術者は弟子の助教授、出世には教授が邪魔になる状況にあつた。チャンス到来。手術中に工作する方法を考えた。人工弁の縫着には溶けない合成糸を使わなければならない。しかし隠し持っていた溶ける糸を使ったのだ。溶ける糸を使うと手術後しばらくは持ちこたえる、しかしだんだん溶けていき数日後には人工弁は外れてしまい教授は死んでしまう。手術は完璧に行われた。外目には弟子には責任は無いわけである。完全犯罪を狙ったがそれをコロンボが見破る。もつとも手術は助手を務める医師、看護師、臨床工学士の協働作業なので多くの目がある。よっぽど周到に計画しなければ不可能なはなしではある。