平成19年度第1回在宅医研修会
「在宅医療を推進する諸形態」
日時:平成19年8月26日(日)9:30~16:30
会場:日本医師会館 大構堂
会長挨拶
現在、国は療養病床再編成を進めています。そして医療、介護施設をはじめ様々なサービス提供のあり方が検討されています。医師はいかなる場所や住まいを問わず適切な医療を提供し国民の健康と安全を守って行かなければなりません。日本医師会は地域ケア提供を地域を一つの病棟と考え、その中で中心となる在宅医療に携わる医師を支援する責務があります。関係多職種協働作業のもとに総合対策を構築する事は極めて重要です。在宅医療に関わる医師をはじめ多くの会員にその知識の高揚と研鑽に勤めてもらう一環として研修会を企画しました。
第1講義―1
国立長寿医療センター総長 大島伸一
「在宅医療推進会議の取り組みについて」
国立長寿医療センターの理念を高齢者の心と体の自立を促進し健康長寿社会を構築するとし職員全部がこの認識で活動している。いま行われている医療制度改革は高齢者が増えて急性期は勿論、慢性期を含め終末期の高齢者医療の費用が膨らみ財政上の問題が生じて来た事を背景に、これまでの隔離された病院完結型医療から生活の中での地域完結型医療すなわち連続した多職種連携のシステム型医療への大きな転換である。国の使命は国民の命と財産を守る安全保障である。国の設立したセンターの使命は国が抱えている課題を解決する事にある。国民が必要としている医療提供、そして新しい医学、医療技術の開発とその標準化された医療の提供であると考えている。現在行なわれている高齢者の医療を含む現実の医療は本来あるべき医療と大きく乖離していると考えざるを得ない。在宅医療推進会議に関わって居る全国の多くの人達は、このまま放置すれば今後ますます乖離は大きくなり大変な事になるとの認識で一致している。これから大きく変化する医療の中で在宅医療が象徴的で核になる部分になると考えている。現在の医療の姿をここまで放置して来た責任は国にある。そして今、制度を先行させ現場の受け皿は非常に未熟である。先行した形で在宅支援診療所の制度が出来たが、実際に機能しているのは1~2割程度に過ぎない。そこでこれを放置するわけに行かない、国のセンターとして長寿センターは何をすべきかを考えた時、在宅医療の推進に関与していかなければならないと覚悟を決めた。その構想の基本的考え方は病院完結型医療から地域ネットワーク型医療の構築であって目標は地域の量的・質的受け皿づくりから病院外で看取りまで出来る体制作りである。約半年間で全体構想および行動計画を作り、実現・実行可能な明確な答えを出す事を目標に在宅医療推進会議を立ち上げた。これにかかわるのは在宅医療実務経験者を中軸とする関係学会、日本医師会、日本看護協会などの18団体である。目的はこれら各種関係者団体の意見を結集し、在宅医療のコンセンサス創りから地域特性・運営形態に応じた在宅モデル策定、医師および地域関係者の教育・指導体制の策定と実施を行いながら、制度に反映させるための政策提言を行なう。現在この会議の下に4つの作業部会を設け実際に在宅医療の経験があり実際それを行なっている先生達を中心に積極的にそのノウハウを持ち寄ってもらいプラン実現に取組んでいる。次に講演して頂く黒岩先生はその取りまとめ役である。
第1講義―2 医療法人社団萌気会理事長 黒岩卓夫
「在宅医療を拡充するために」
私がこれまで新潟の田舎でやって来た医療は、地域での予防、医療にリハビリと広い意味の福祉を一体として行なう中に在宅医療も一部に入っていた。そして現在言われている様な意味での在宅医療との認識は無かった。医療環境の流れにのり訪問診療などを続けている中で在宅と病院それに在宅死の問題、特に病院退院後多くの患者さんが療養とそれに続く終末期を家族とともに過ごしたいと願っても地域の事情、家族環境など現状はどうしようもなかった。しかしこれを見逃すわけには行かない。患者さんの生活の質を考えてあげる事、それは医療全体としてみれば小さいことかもしれない。生活の中で医療をどうするかが重要で非常に大きな意味の有る事だと考え出来る範囲の対応はして来た。しかし現状には大きな壁がある。そこで在宅医療を地域で確立するためにはしっかりした信頼のある受け皿作りにあると考え長寿医療センターの推進会議に参画した。在宅医療を拡充するためには①受け皿の充実と医師の使命感②病院医師の意識改革と協力③患者・家族(国民)の理解と共鳴であり、地域に拡充する条件は1.地域医師会での開業医師と病院医師との交流を強め信頼関係を築く2.介護保険制度を理解して積極的に協力する。特にケアマネにアドバイスし共に考える。3.医師は命を扱う仕事であり患者・家族の生死のドラマに参加し喜びや悲しみを共有する。そして在宅医療が国民から理解され確実に進展するにはA.在宅医療の役割と目標を明らかにするグランドデザインを提示しB.在宅医療を担う医師をはじめ人材の育成である。在宅総合診療科新設と老人訪問看護が発足した平成4年を地域での主治医制が認められた在宅医療元年と考えている。平成6年には訪問看護制度が老人以外にも拡充された。そして平成12年の介護保険制度施行、平成18年の在宅療養支援診療所が新設され制度は着実に進んでいる。それにいかに応えるかが今後の私達の課題である。
第2講義 慶応義塾大学医学部
医療政策・管理学教室教授 池上直己
「高齢者における予防とリハビリテーションの一体化」
これからは在宅で看取りをと突然言われても困る話である。在宅医療は地域医療の中のプライマリ・ケアの一環として、また予防と医療、特に高齢者にはリハビリも含めて一貫して行なわれるべきである。厚労省は必ずしも正しくない方法で施策を打ち出して来ている。そこで日本医師会はいかに対応すべきかを予防とリハビリの一体化と言う観点から考えてみたい。今、医療・介護に2つの施策がある。1つ目が来年から始まる特定健診・保健指導で従来の一般健診を変更したものである。これは将来の脳卒中や心臓病発病を減らすためのメタボリック症候群をターゲットにした生活習慣病予防である。2つ目は、従来の地域支援事業を体系化して2006年から始まった特定高齢者の規程と介護保険の要支援1,2の新予防給付でいずれも生活機能に対応した予防施策である。この2つの予防施策は共に運動、栄養に着眼したものにもかかわらず保健、医療、介護の所轄部署により別々に行われる。しかし運用には重なる部分もあり混乱が生じている。生活習慣病予防は感染症の発症予防と違い将来のリスクを低くする事にあり動機付けが難しいが国民のQOL向上、健康寿命延伸に価値があるので在宅医として取り込む課題である。健診を受ける位の人は健康な人が多い。諸外国では一寸した病気で医療機関を受診した時に健診をするのが標準になっている。すでに高血圧、高脂血症、糖尿病で治療を受けている場合すでに保健指導は受け、40歳以上の5割、前期高齢者6割はこれらの病気で通院中である。その場合は特定健診から除外されるべきであろう。介護予防には予防系事業に地域包括支援センター所轄事業として介護保険の要支援認定者に対する予防給付と基本チェックリストからスクリーニングされる特定高齢者に対する予防事業がある。一方市町村直轄のハイリスクではない一般高齢者に対する介護予防事業の2つの流れがある。その中で包括支援センターの所轄業務である特定高齢者の選定と要支援者の介護認定とは夫々別のプロセスで行なわれている。そのために、要支援の4人に一人、要介護の6人に1人が特定高齢者に選ばれない逆転現象が生じたとする調査がある。今後の基本課題として特定高齢者のスクリーニングと要支援者の認定プロセスを統合一本化し整合性を持たせるべく2012年の介護保険改正で対応する必要がある。いずれにしても特定健診・介護予防においては年齢による分断、保健、医療、介護の制度による分断を改め、在宅医が連続的一体的に責任を持って行なうべきであると考える。
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