認知症の人は日に何度も食餌を取ろうとする。これは食事をした事実を覚えられない前向性健忘の所為である。また家族の顔もわからないなどすでに覚えている事を忘れてしまう逆向性健忘もある。記憶には見聞きした事をメモ程度に覚える短期記憶とそれに関連した脳領域に保存された長期記憶がある。前向性健忘は海馬でメモ程度に保持されている短期記憶が長期記憶として大脳に刷り込まれる機能が障害された状態であり、逆向性健忘は器質的病変により脳細胞が壊れ、そこに保存されている記憶が失われる。記憶の種類には意味記憶、エピソード記憶、感情の記憶、手続き記憶がある。各記憶は夫々に登録、保存される脳の領域が違う。自転車に乗る、釘を打つ、小便するなど体の覚えている手続き記憶は小脳、学習して覚える意味記憶、一連の出来事を覚えるエピソード記憶などは大脳皮質、快、不快の感情の記憶は扁桃体と言う具合である。失われている記憶の種類を見極め残された機能を活用する事も認知症対応の選択肢である。頭が覚えていなければ体が覚えている。誘導することで機能を補える。童謡に歌を忘れたカナリヤの歌詞がある。カナリヤの啼く能力を司る脳は1年1年作り変えられるので前の年に獲得した手続き記憶は削除され次の年に旨く啼く為には最初から練習をやり直さなければ成らない。人の場合の様に、1回自転車のりを覚えれば一生乗れるのとは違いカナリヤは啼くのを忘れて仕舞うが再度チャレンジ出来る。決して認知症ではない。
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去年の6月のブログに書いたコガネ蜘蛛の糸を19万本束ねぶら下がり蜘蛛の糸の強靭さを証明した奈良県立医大の大崎教授はあれからもますます夢の新素材実用化を目指して研究を進めている。獲物に飛びついたり逃げる時に出す命綱の牽引糸に注目。判った事は糸の強度でこれには伸び縮みの出来るぎりぎり一杯の弾性限界強度と伸び切って切れる時の破断強度がある。バネとしての弾性強度は蜘蛛自身の体重の2倍である。形態を電子顕微鏡で調べたところ2本の糸から構成されていた。また蜘蛛は紫外線を利用していた。糸に紫外線を当てると強度が増大する。徐々に低下し2日で元に戻った。女郎蜘蛛は1日に半分ずつ2日間かけて巣を張り替えるが張替周期と強度の周期と合っている事が分かった。蜘蛛の糸の応用としては手術用の縫合糸やストッキング、防弾チョッキが考えられている。今、化学工業や化粧品メーカー、大学の研究室が遺伝子工学を駆使して蜘蛛の糸の大量生産を試みている。夢の新素材として実用化されるのが楽しみと言う。教訓として蜘蛛の糸の命綱の牽引糸には危機管理のメカニズムが隠されていると感心している。(日経新聞 9・30付け)
誰もが幼き日、身につまされた芥川龍之介の短編小説くもの糸。1本の細い糸に為(な)り滴(したた)るやせ細った髭茫々の人の群れ。そんな神代のロマンに挑戦する御仁が現れた。黄金蜘蛛約100匹から3カ月掛けて糸を集め太さ4ミリ長さ10センチの1本のロープに編み上げた。それをハンモックの端にして体重65キロの自身みずからぶら下がった。数分間を持ちこたえ何とか切れなかった。計算上は600キロまで大丈夫としていた。ところが125キロの弟子が下がったところプッツリ切れた。地獄の底で生きている人はスリムだった。現代のくもの糸は勧善懲悪より体重の重さに弱点があった。なにやら当世風になってしまった。この御仁は高分子化学の教授で医療材料にならないか研究中だという。遊び心が福を呼ぶと良いが。 医局の机にリングをつないだ鉛筆立てがある。一番上のリングには糸が何本も結んであり纏のようになっている。2人の外科医が診療の手伝いにやってくる。その誰かが合間に糸結びの練習用にしているらしい。それを見るたびに昔を思い出す。私は今でこそ手術はしないがもともとは心臓外科医。外科の修業はまずは糸結びからだった。止血、胃腸の縫合など糸結びが悪いと、術後出血、縫合不全など合併症が出てくる。、特に心臓手術では魔術師的早業で糸結びをしなければ心臓を止めている時間が長引き術後に影響が残る。人工弁一つを縫い着けるのに500回から600回ほどの糸結びを必要とする。若い頃の一時期良く糸結びの練習をしていた。結び方にも色々あり場面、場面で使い分ける。糸の種類も沢山あり昔は絹糸とたんぱく質の吸収される羊の腸から作った糸が使われた。最近は化学合成糸が多い。糸には吸収されるものと非吸収糸がある。また撚り糸とそうでないテグス状のものがある。心臓血管の手術には殆ど非吸収糸が使われる。それは手術後すぐに機能しなければならない器官であり常に弾力のある力が懸かるのでしつかりと固定されていなければならない。一昔前に刑事コロンボと言うシリーズもののテレビドラマがあった。その中に「溶ける糸」と題する一章があった。確かあらすじは大学病院での心臓血管外科での話で助教授がその師である教授を亡き者とする為に、溶ける糸が使われた。それをコロンボが見破るサスペンスドラマで、ヒントは手術のときに使われる糸が鍵。教授の心臓弁が悪くなりそれを人工弁に取り替える手術が必要となった。術者は弟子の助教授、出世には教授が邪魔になる状況にあつた。チャンス到来。手術中に工作する方法を考えた。人工弁の縫着には溶けない合成糸を使わなければならない。しかし隠し持っていた溶ける糸を使ったのだ。溶ける糸を使うと手術後しばらくは持ちこたえる、しかしだんだん溶けていき数日後には人工弁は外れてしまい教授は死んでしまう。手術は完璧に行われた。外目には弟子には責任は無いわけである。完全犯罪を狙ったがそれをコロンボが見破る。もつとも手術は助手を務める医師、看護師、臨床工学士の協働作業なので多くの目がある。よっぽど周到に計画しなければ不可能なはなしではある。
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アラキドン酸は細胞膜を構成する成分で脳に多く含まれる。食べ物では肉、魚、卵に多く含まれこれらを多く食べる事で高齢者の記憶力を改善し乳幼児の精神発育に効果があるとされる。東北大研究チームはラットの記憶を司る海馬の神経細胞の数の変化を指標にして実際のアラキドン酸の効果を証明した。生まれたてのラットに4週間に渡りアラキドン酸を加えた餌群と通常の餌群にわけ飼育した後、夫々の群の脳を取り出し調べた。アラキドン酸を加えた群の海馬の脳細胞の数が普通の餌群より1.3倍多く増えていた。また別の実験で、魚に多く含まれ頭に働きに良いといわれるドコサヘキサエン酸を加えた群も脳細胞が1.1倍に増えていた。と言う事で今年は秋の味覚の秋刀魚の当たり年らしい。沢山食べて頭を良くしよう。
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口腔ケアが学校保健、介護医療の世界で良くテーマとして上がる。その基本は歯磨きの習慣をつけることから始まる。習慣化するにはどうしても動機付けが大切である。前者は小さいときから歯磨き、うがいの習慣を付けて虫歯をなくし年取るまで自分の歯で食べようと言う事である。後者は口の中をきれいにして呑込む力をつけて誤嚥を防ぎ肺炎にならないようにしようと介護する側への指導的面が強い。虫歯が出来て歯が抜けないと予防の大切さはわからない。後悔しても後の祭である。いろいろ口腔ケアの重要性を理屈を並べても暖簾に腕押しである。私の知っている歯医者さんが良く使う動機付は夜使った茶碗をそのまま洗わないで翌朝それにご飯をよそって食べますかと語りかける。たいていの人がそれは厭だなと思う。医療の場合、入院患者さんの口を見ればその病院の看護や介護の程度が一目でわかると言うと皆プライドがあるので一生懸命に努力するようになる。食後のうがいが良いと思っている人は多い。しないよりはましだが歯磨きに比べたら非常に劣る。歯磨きも通り一遍では効果がない。歯1本1本を20回づつ意識して磨く事である。歯茎の刺激は脳を刺激する。歯茎すっきり頭すっきり勉強や仕事がはかどる。ボケも改善する。
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ピック病は行動、言語を司る脳領域が萎縮、言語障害や人格変化などで不適切な社会行動が出てくる認知症でアルツハイマー型認知症とは異なり初期段階で記憶が損なわれる事はない。遺伝性は稀でランダムに現れる。Neurology(2007;69:140-147)でDr.BruniはDNA解析による研究から遺伝子変異により活性が失われ脳細胞の生存を助ける蛋白質増殖因子progranulinの生成が減少するためではないかとの結論付けている。
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記憶は心そのものである。記憶の塊がアイデンティティーである。コンピューターをマイ・ブレインとも言う。記憶の仕組みの説明にコンピューターの場合を考えると簡単である。まず脳の記憶は目や耳など感覚器から入った情報は一旦、記憶中枢の海馬に送られ短期記憶として数秒間保持される。そして重要な情報は脳の各所の関係領域に配られて長期記憶として保存される。必要時に蓄えられている情報が取り出されて前頭葉に集められ処理、想起される。コンピューターにキーボードや、画像、音源からの情報がインプットされる。そのままでは次の動作を行なうと消えてしまう。そこで媒体に保存しなければならない。情報に応じたファイルに格納される。呼び出すときにはエクスプローラーが作動しファイルから必要な情報を取り出す。情報のインプット(登録)、保存、想起の過程が記憶である。コンピューターの媒体に容量不足や破損があればデーター保存が出来ない。認知症は登録された情報を保存する過程が傷害される。つまり情報の登録・保持機能の海馬および保存媒体である脳細胞自体に器質的変化が存在する。一方、老化現象であるど忘れは保存されている情報を思い出せない。しかし、何か一寸したヒントがあれば想起できる。コンピューターのエクスプローラーが壊れた場合、関連事項の検索で取り出すことも可能なのと同じである。情報刺激の繰り返しや何度も思い出す事でその情報はより強く脳に刷り込まれる。
人の脳は大脳、小脳、脳幹などから出来ている。外側の大脳皮質は人間の思考、言語、五感など高度な能力のを受け持つ。小脳は運動能力に関係する。原始的部分の脳幹は生命維持に必要な働きをする。大脳辺縁系は脳幹を覆い海馬と感情の記憶を作る扁桃体があり、海馬は記憶作りの始めを受け持ち、扁桃体は感情の記憶を受け持つ。小脳、大脳基底核は手続き記憶を受け持つ。同じ事を繰り返し覚えたり、思い出したりすると海馬を介さない結びつきが大脳に出来て長期記憶として大脳の各所に保管される。感情の記憶は海馬とは別のところで作られる。その証拠として「初対面」(実際は知人だが忘れてしまった)の人に懐かしさや親しみを感じ、逆に感情の記憶が傷害されると家族でも他人に思えるなど心の絆がおかしくなる。

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第3講義 医療法人白髭内科医院院長・長崎市医師会理事 白髭 豊
「長崎在宅Dr.ネットの取り組について」
在宅医療の定義は、病院の入院、診療所の外来に次ぐ生活の場での第3の医療提供といえる。そのポイントは患者さんの希望する家庭生活の一部分を支える後方支援医療である。厚労省の調査では一日に往診を受けた患者数は'60年代には15万人であったが'90年代には5万人に減少しこの間に在宅医療普及のための制度が打出された。それにも拘らず減少は続き'05年には2.5万人となっている。往診と同様に「在宅医療」も減少傾向にある。そのような状況の中で在宅死が'60年以降から減少し続け'77年には病院死が在宅死を超えた。'04年の在宅死の割合は全死亡の12.4%に過ぎない。この状況は高齢者の90%は自宅で死を迎えたいと希望している実態から大きくかけ離れている。在宅死の実現不可能な理由として往診してくれる医師が居ない、病状急変時に不安、介護する家族の負担が大きい等がある。医療側の問題点としてソロプラクティスの開業医には重症の患者を数多く在宅で診るのは心身ともに大きな負担であり、現状のままでは訪問診療を実施する診療所は少ないと考えられる。今後は医療政策としての療養病床削減、介護保険の普及、在宅死の希望の増加、がん対策基本法での在宅緩和ケアの推進などが続きこれらの受け皿として在宅医療は重要な位置を占めて来る。'03年長崎市近郊で医師の相互協力により長崎Drネットが発足した。自宅療養を希望する病院入院患者の主治医が見つからない場合に事務局が窓口となり在宅主治医・副主治医を紹介する。具体的にはメーリングリストを通じてメンバーに手上げして貰い在宅主治医・副主治医を決定する。そして退院前に病院側、在宅側スタッフで合同カンファレンスを行いスムーズに在宅に移行している。'07.6月現在で人口45万人の長崎市全域と近郊から108名の医師が参加している。Dr.ネットの特徴は一人の在宅患者に複数の担当医師があたり緊急時のバックアップ体制がとられ24時間の安心が確保出来る。病院医師も参加しているので異なる専門分野のカバーが出来る。なによりも在宅医療で重症を抱える際に避けがたい肉体的・精神的重圧の軽減になるなどの利点がある。病院から事務局を介しての主治医の決定は平均2日未満と迅速で、在宅療養での在宅死は37%でその在宅日数は平均58.7日であった。Dr.ネットでの在宅療養支援診療所の届け出数は65%と高い。自発的に始まりフットワークの良さが持ち味だが'06年9月には長崎市医師会の部会として活動している。そして県内にも波及し大村、諫早の各医師会主導で同様の活動が開始されている。秋田県でも試行されていると聞いている。在宅医療の普及、推進には顔の見える診療所同士や多職種との連携が重要で研修会、セミナー、症例検討会を定期的に行なっている。特に生活習慣病と食事との関係は大切でDr.ネットでは複数の診療所で管理栄養士をシェアする管理栄養士派遣システムを作った。新予防給付、特定健診に於いて重要な役割を果すと期待している。
(シルバー新報より転載)現在80%の人々が病院で死を迎えていますが、国の政策は病院を治療の場に特化しようとしており、病院では死ねない時代がそこまでやってきています。とはいえ、子どものいない人やシングルには在宅でのターミナルケアも現実的ではありません。人生の終末をどこで迎えるのか。病院でもなく、自宅でもない場所――介護施設や高齢者住宅などが第3の選択肢としてニーズが高まっています。自分だったらどういう場所で、どのように看取られたいかという視点から「ターミナルケア」を再考します。
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平成19年度第1回在宅医研修会
「在宅医療を推進する諸形態」
日時:平成19年8月26日(日)9:30~16:30
会場:日本医師会館 大構堂
会長挨拶
現在、国は療養病床再編成を進めています。そして医療、介護施設をはじめ様々なサービス提供のあり方が検討されています。医師はいかなる場所や住まいを問わず適切な医療を提供し国民の健康と安全を守って行かなければなりません。日本医師会は地域ケア提供を地域を一つの病棟と考え、その中で中心となる在宅医療に携わる医師を支援する責務があります。関係多職種協働作業のもとに総合対策を構築する事は極めて重要です。在宅医療に関わる医師をはじめ多くの会員にその知識の高揚と研鑽に勤めてもらう一環として研修会を企画しました。
第1講義―1
国立長寿医療センター総長 大島伸一
「在宅医療推進会議の取り組みについて」
国立長寿医療センターの理念を高齢者の心と体の自立を促進し健康長寿社会を構築するとし職員全部がこの認識で活動している。いま行われている医療制度改革は高齢者が増えて急性期は勿論、慢性期を含め終末期の高齢者医療の費用が膨らみ財政上の問題が生じて来た事を背景に、これまでの隔離された病院完結型医療から生活の中での地域完結型医療すなわち連続した多職種連携のシステム型医療への大きな転換である。国の使命は国民の命と財産を守る安全保障である。国の設立したセンターの使命は国が抱えている課題を解決する事にある。国民が必要としている医療提供、そして新しい医学、医療技術の開発とその標準化された医療の提供であると考えている。現在行なわれている高齢者の医療を含む現実の医療は本来あるべき医療と大きく乖離していると考えざるを得ない。在宅医療推進会議に関わって居る全国の多くの人達は、このまま放置すれば今後ますます乖離は大きくなり大変な事になるとの認識で一致している。これから大きく変化する医療の中で在宅医療が象徴的で核になる部分になると考えている。現在の医療の姿をここまで放置して来た責任は国にある。そして今、制度を先行させ現場の受け皿は非常に未熟である。先行した形で在宅支援診療所の制度が出来たが、実際に機能しているのは1~2割程度に過ぎない。そこでこれを放置するわけに行かない、国のセンターとして長寿センターは何をすべきかを考えた時、在宅医療の推進に関与していかなければならないと覚悟を決めた。その構想の基本的考え方は病院完結型医療から地域ネットワーク型医療の構築であって目標は地域の量的・質的受け皿づくりから病院外で看取りまで出来る体制作りである。約半年間で全体構想および行動計画を作り、実現・実行可能な明確な答えを出す事を目標に在宅医療推進会議を立ち上げた。これにかかわるのは在宅医療実務経験者を中軸とする関係学会、日本医師会、日本看護協会などの18団体である。目的はこれら各種関係者団体の意見を結集し、在宅医療のコンセンサス創りから地域特性・運営形態に応じた在宅モデル策定、医師および地域関係者の教育・指導体制の策定と実施を行いながら、制度に反映させるための政策提言を行なう。現在この会議の下に4つの作業部会を設け実際に在宅医療の経験があり実際それを行なっている先生達を中心に積極的にそのノウハウを持ち寄ってもらいプラン実現に取組んでいる。次に講演して頂く黒岩先生はその取りまとめ役である。
第1講義―2 医療法人社団萌気会理事長 黒岩卓夫
「在宅医療を拡充するために」
私がこれまで新潟の田舎でやって来た医療は、地域での予防、医療にリハビリと広い意味の福祉を一体として行なう中に在宅医療も一部に入っていた。そして現在言われている様な意味での在宅医療との認識は無かった。医療環境の流れにのり訪問診療などを続けている中で在宅と病院それに在宅死の問題、特に病院退院後多くの患者さんが療養とそれに続く終末期を家族とともに過ごしたいと願っても地域の事情、家族環境など現状はどうしようもなかった。しかしこれを見逃すわけには行かない。患者さんの生活の質を考えてあげる事、それは医療全体としてみれば小さいことかもしれない。生活の中で医療をどうするかが重要で非常に大きな意味の有る事だと考え出来る範囲の対応はして来た。しかし現状には大きな壁がある。そこで在宅医療を地域で確立するためにはしっかりした信頼のある受け皿作りにあると考え長寿医療センターの推進会議に参画した。在宅医療を拡充するためには①受け皿の充実と医師の使命感②病院医師の意識改革と協力③患者・家族(国民)の理解と共鳴であり、地域に拡充する条件は1.地域医師会での開業医師と病院医師との交流を強め信頼関係を築く2.介護保険制度を理解して積極的に協力する。特にケアマネにアドバイスし共に考える。3.医師は命を扱う仕事であり患者・家族の生死のドラマに参加し喜びや悲しみを共有する。そして在宅医療が国民から理解され確実に進展するにはA.在宅医療の役割と目標を明らかにするグランドデザインを提示しB.在宅医療を担う医師をはじめ人材の育成である。在宅総合診療科新設と老人訪問看護が発足した平成4年を地域での主治医制が認められた在宅医療元年と考えている。平成6年には訪問看護制度が老人以外にも拡充された。そして平成12年の介護保険制度施行、平成18年の在宅療養支援診療所が新設され制度は着実に進んでいる。それにいかに応えるかが今後の私達の課題である。
第2講義 慶応義塾大学医学部
医療政策・管理学教室教授 池上直己
「高齢者における予防とリハビリテーションの一体化」
これからは在宅で看取りをと突然言われても困る話である。在宅医療は地域医療の中のプライマリ・ケアの一環として、また予防と医療、特に高齢者にはリハビリも含めて一貫して行なわれるべきである。厚労省は必ずしも正しくない方法で施策を打ち出して来ている。そこで日本医師会はいかに対応すべきかを予防とリハビリの一体化と言う観点から考えてみたい。今、医療・介護に2つの施策がある。1つ目が来年から始まる特定健診・保健指導で従来の一般健診を変更したものである。これは将来の脳卒中や心臓病発病を減らすためのメタボリック症候群をターゲットにした生活習慣病予防である。2つ目は、従来の地域支援事業を体系化して2006年から始まった特定高齢者の規程と介護保険の要支援1,2の新予防給付でいずれも生活機能に対応した予防施策である。この2つの予防施策は共に運動、栄養に着眼したものにもかかわらず保健、医療、介護の所轄部署により別々に行われる。しかし運用には重なる部分もあり混乱が生じている。生活習慣病予防は感染症の発症予防と違い将来のリスクを低くする事にあり動機付けが難しいが国民のQOL向上、健康寿命延伸に価値があるので在宅医として取り込む課題である。健診を受ける位の人は健康な人が多い。諸外国では一寸した病気で医療機関を受診した時に健診をするのが標準になっている。すでに高血圧、高脂血症、糖尿病で治療を受けている場合すでに保健指導は受け、40歳以上の5割、前期高齢者6割はこれらの病気で通院中である。その場合は特定健診から除外されるべきであろう。介護予防には予防系事業に地域包括支援センター所轄事業として介護保険の要支援認定者に対する予防給付と基本チェックリストからスクリーニングされる特定高齢者に対する予防事業がある。一方市町村直轄のハイリスクではない一般高齢者に対する介護予防事業の2つの流れがある。その中で包括支援センターの所轄業務である特定高齢者の選定と要支援者の介護認定とは夫々別のプロセスで行なわれている。そのために、要支援の4人に一人、要介護の6人に1人が特定高齢者に選ばれない逆転現象が生じたとする調査がある。今後の基本課題として特定高齢者のスクリーニングと要支援者の認定プロセスを統合一本化し整合性を持たせるべく2012年の介護保険改正で対応する必要がある。いずれにしても特定健診・介護予防においては年齢による分断、保健、医療、介護の制度による分断を改め、在宅医が連続的一体的に責任を持って行なうべきであると考える。
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①イリノイ大学のスコット・ブレイディ教授はアルツハイマー病、パーキンソン病の発生原因として、細胞内物流基盤のキネシン、ダイニンなど運び屋であるモーターたんぱく質の異常がアミロイドβやタウ蛋白の蓄積に関係すると言う研究成果を発表している。モーター蛋白は細胞内微小管の中を細胞に必要な物を運ぶ。形を変えるのにはATPエネルギーを使い移動はブラウン運動を利用する。上り、下り一方通行で行動しダイニンはキネシンに対し逆方向のみ進める。この機能異常が物質の過不足に関係するという。
②熊本大学薬学部水島教授は炎症の発生時放出されるプロスタグランディンE2がアルツハイマー病原因物質のアミロイドβの生成を促進させる事を突き止めた。この物質が神経細胞表面のレセプターに結合するとアミロイドβの生成が促進される。このレセプターの働きを止める薬を使うとアミロイドβの生成が抑制される事を確認している。アルツハイマー病は脳炎の際に放出されるプロスタグランディンE2が原因と成っている可能性が示唆される。
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日本医師会は2000年の介護保険制度スタート以来、介護と医療は表裏一体であり高齢者医療制度創設時には充分このことを配慮して設定しなければならないと主張している。いよいよ75歳以上が対象の後期高齢者医療制度が来年(2008年)4月から始まる。2006年1年間の75歳以上一人当たり年間医療費は81万9千円で65歳以下の5倍にもなっている。日本の年間医療費33兆円の実に3割を高齢者医療に費やしている。一方で高齢者が殆どを占める年間死亡者数は現在108万人であるが2038年には170万人に達する。現在人生の最後の場所は在宅12%、病院が88%である。高齢者の入院医療費を見直さなければ健康保険財政が持たなくなり制度自体がパンクする。無駄な入院医療を在宅医療へシフトさせる。それが療養病床の削減であり、市町村が都道府県単位の広域連合で運営する別建ての高齢者医療保険制度の創設である。薬の重複、多医療機関重複受診、社会的入院など無駄と思われる部分の多い現行老人保健法で行なわれてきた高齢者医療を見直す。そのためには病気がちな高齢者の在宅での医療、介護、生活支援の一体的マネージメントが必要となる。厚労省は①受診状況の一元把握②日常生活能力評価、支援③専門医への紹介・連携を総合的にやれる在宅主治医の役割を診療報酬で評価する考えである。在宅主治医として病気治療だけでなく地域医療をオールラウンドで受け入れられる医師、総合医を想定している。これから日本人は死に方を真剣に考えなければ成らなくなる。
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