去年6月27日のブログに「頑固な天使」主人公の婦人の不思議な行動が認知症のピック病のなせる業だったと書きました。今朝、朝日新聞のトップページ最上段に「なぜ万引き・・・ピック病だった」のセンセーショナルな活字に目を奪われ、胸躍らせ読みました。社会的地位のある人がスーパーで万引きしたと言う不名誉な事件、これまで原因は出来心からと書かかれる事が殆どで、その度に何故、どうしてと不思議な思いに駆られました。その疑問が、今日解けました。私の患者さんの場合もスーパーで食べ物を万引きし警察の世話になると言う常識では反社会的行為が続きどうしようも出来ず私のところに相談に来ました。家族はそれまで恥ずかしさで誰にも言い出せず2人で隠れるように生活していました。今日の新聞記事で目から鱗で認知症のピック病の1つの症状の万引きで社会的地位を失った人達の名誉を取り戻す事が出来たのです。そして何よりも大切な事は、これからは認知症とくに若年認知症について知識を持ち、その様な症状の人の認知症に早く気付いて助けてあげられる社会になることです。そして私の記事もその手助けになればと思います。



最近私のグループホームに入居した方がいる。比較的まだ若い。家では夫と2人暮らしだった。彼女の様子がおかしいと夫が気づいたのは12,3年前、冷蔵庫からビールを出してくるように頼んだところ目の前にある冷蔵庫が分からない。冷蔵庫はどれか教え次にビールを取ってと頼んでも今度はビールがどれかも分からない。いつもお前も一緒に飲むビールだよと怒っても分からない。その時以来、家事がまったく出来なくなった。心配して夫は彼女を精神科に連れて行き痴呆の薬も貰った。少しも状況は変わらなかった。夫は仕事もさることながら家事もこなし彼女を自分の子供を扱うように介護しながらがんばってきた。彼女はまだしっかりしていた頃から町内のグランドゴルフのグループ入っていた。行動がおかしくなってからもその習慣が抜けず、毎週2回は早朝のまだ夫が寝ているうちに家を出て2時間位を費やし2箇所の競技場をさっさと回って帰って来た。行き帰りの道順はいつも同じで、何処にいるか見当をつけて探すと大体其処にいた。記憶力、認知能力に障害があるとはいえ何処にそんな能力が残っているのか不思議でならない。時計を見て自分の行動をコントロールできるのである。とにかく自分の決めたコースを狂う事なく時間通りにかえる能力には驚く。何処にも助けを求めず人知れず悩み、耐えてきたご主人が意を決して私の所に相談に来たのには理由があった。スーパーに買物に行くと並べてある商品の食物を金も払わず、手当たり次第に手に取って食べ出し、店に謝り、警察に相談する事が何度も続き、社会に迷惑がかかり出したからである。会って話す御主人の顔は険しく、すつかりまいってしまい人間不信に陥っている様子。彼女は視線も会わせず意思疎通まったくのゼロ。幾日も入浴もしてなくてお尻が気になるのか座ろうとしない。ただご主人の言う事だけはよく聞いて行動できている。家での2人の暮らしぶりはドウなんだろう。想像も出来ない。とにかく我々も少しでもご主人が楽になるようにすることが大切と考えデイケアで昼間預かる事にした。グランドゴルフ場回りは相変わらず続け、スーパーでの行為も続いて目が離せず少しのスキに抜け出す事もしばしばではあったがスタッフの努力でデイケアに順応してきた。怒りはしないが自分の決めた事は頑固に一途にやり通す。それを止めようとすると物凄い力で抗う。あらゆる事にご主人の指示だからと話すと何とか従いスタッフに心を開くようになって来た。そして自分から話しかけるように変わった。何年にもわたり記憶が失われ誰にも相手にされない戸惑いと不安の中で頼れるのはご主人しかいなかったのである。申し込んでいたグループホームに入れるようになった。ご主人と離れて暮らす事になった。入居初日から問題が起こった。夕食を済ませ入居者夫々休むため部屋にひきあげた。スタッフは玄関を施錠し見回りを済ませ彼女の部屋を覗いた所、そこに居ない。他の入居者の部屋を探しても見つからなかったが隣の部屋の窓が開けっ放しになっていた。窓の下を見ると人の足跡が付いている。そこから出て行ったらしい。スタッフ全員に出てきてもらい手分けして探したがホームの近辺には見当たらない。しばらくして家に帰って来たとのご主人から連絡があった。次の日、ご主人はどうしても預かって欲しいと懇願しながら彼女を連れて来た。それからは帰宅願望があるたびにスタッフが短時間だけ自宅に連れて行っている。ご主人には慣れるまで一日1回はホームに来るなり、電話でもいいから彼女と話す様にお願いした。今は大きな問題も起こしていない。
「頑固な天使」の正体はピック病!
ちょうど今年6月27日のブログに書いた「頑固な天使」の不思議な行動の正体が最初のうちは判らずに対応に戸惑いました。いろいろ様子を観察し、本で調べた所、認知症の一つの型のピック病と言う事が判りました。専門書によると、この病気は認知症の中ではアルツハイマー病や脳血管性認知症に比べて非常に稀であり原因はアルツハイマー病やレービー小体型認知症と同じく脳の変性疾患です。50~60歳代に発症、物忘れに先行して職場や家庭内での生活が乱れる人格変化、行動異常が出ます。なれなれしい物言い、はぐらかし、小馬鹿にした態度をとり、相手は腹が立つ様です。これも病気のなせる業と割り切ればなんとか楽には成れるようです。また質問とは別の同じ言葉、同じ内容を繰り返す滞続言語がありピック病に典型的な症状です。生活パターンが鉄道の時刻表並みに決まっており、散歩などその時刻になると雨であろうが外に出て行き、何時もの決まったコースで迷うことなく帰って来ます。時間や場所の認識はあるのです。他の認知症での徘徊とはちょっと違います。この決まった時間通りの日課的行動は、心の内からの強い衝動で起こるので誰一人、止める事は出来ません。介護者はとことん付き合うことが患者さんの心を静めます。CT,MRIで検査すると前頭葉が萎縮しナイフの刃のように尖っています。早期から尿失禁、便失禁もあり便通コントロールやトイレ誘導が必要です。また目の前の食べ物を次から次に手当たり次第に口に溜め込みますので窒息の恐れもあります。食事にも気をつけなければなりません。音楽や踊りを楽しむことが出来て、昔覚えた曲をカラオケで歌えますし新しい歌も覚える様です。塗り絵も出来るとあります。「頑固な天使」のご婦人が本の記載と余りにもそっくりなのに驚きました。グループホームに入所した当初、入居者を含めスタッフ全員がパニックに陥りましたが、最近では、スタッフの対応の仕方も随分上手になって来ました。今ではグループホームにも彼女が入居する前の静かなゆったりした時間が戻りつつあります。
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