老年期幻覚妄想状態のおばあちゃん。10年以上も前から高血圧と腰痛で私の外来でフォローしていた80歳の方。1人暮らしで細々と農業をいとなんでいた。2年ぐらい前から外来に来なくなっていた。ところが去年の元旦に久し振りに胸の動悸が治まらないと言って来院した。血圧も高いが何よりも夜眠れないと訴えている。受け答えもしっかりしており自分で軽トラックを運転して来ていた。睡眠薬と降圧剤を処方して帰した。寂しかったのであろう正月の3日間続けて来院した。そしてその後も夜になると当直の看護婦さんに眠れないがどうすればよいかと何度も電話が架るようになった。看護婦さんたちは根気良く丁寧に薬の飲み方を説明し昼間また受診するようさとし何とか凌いでいた。入院も勧めたが動物の世話もあるし泥棒が入るので家を空けられないと頑なであった。そのうち社協から電話があった。この方は隣近所との交流も無く家の窓という窓に釘を打ち閉め切っている。しかし買い物など外出はしているらしい。親類も近くに居て2人の甥も心配して時々世話をしてくれてはいた。しかし最近は姿を見せなくなっている。警察にも患者さん本人から家の物を甥に盗られて何もかもなくなるので調べて欲しいと通報があったらしく、行ってみたがおかしい所は無かった。本人の受け答えはしっかりしており、車の運転も犬と猫の世話が出来ている。しかし何度も電話があるので対応に困り市役所の福祉に連絡があったと言う。事情を調べた福祉係りから社協に相談があった。現在、緊急避難的にヘルパーさんを派遣して対応している。私が外来で診ていると聞き今後の事を相談したいのでよろしくとの事であった。そこでまず往診して本人と家の状況を見に行った上で対応を決める事にした。なるほど行って見ると窓を打ちつけ玄関には鍵をかけ内から大きな棒で突っ張りまでしてある。玄関ベルぐらいでは出て来そうもない。やっと私の声だと判り安心したのかドアが開いた。そしてわざわざ来て貰って面目ないと言われる。居間で今の暮らしぶりを色々尋ねてみた。つい最近まで手伝いをして呉れていた甥が自分の着物を盗って行くし農機具もなくなって農作業が出来ないとしきりに訴え、昨夜などは窓をこじ開け自分の体を触り着物を剥いで盗っていったと真顔で言う。無駄と思いながらも、そんなに毎日、物が盗られるならもう着る服も無い筈だと言っても訂正不可能である。入院を勧めるが家を空けると物が盗られ空っぽになつて退院して帰って来ても住む所が無いと頑なである。抗幻覚剤を処方し管理は社協のヘルパーさんにして貰い暫く様子を見ることにした。しかし状態は変わらずこれ以上同じ事をしていても在宅では対応は出来そうもない。精神科病院に相談したところ、直ちに入院治療しないといけないという事になった。入院させるに当たっては身元引受人の承諾が必要になる。しかし一人暮らしでもあり、親類の方々は離反した形である。市長に成ってもらいやっとの事で強制入院となった。その後どうなったかは聞いていない。もうすぐ1年が過ぎる。今もその近くのお宅の往診に患者さんの家の前を通り様子を伺うが庭は荒れ放題で、いつも乗っていた軽トラも動かされずに錆び付いている。まだ良くなって居ないらしい。最初は良く解からなかったが老年期幻覚妄想状態という機能性精神障害であった。ややもすれば高齢者の精神障害は一諸くたに認知症で片付けやすい。
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レビー小体型認知症を併発。円背でお亀さんみたいに顔を挙げて肘を横に広げてやっと押し車に縋りデイケアに来ている82歳のおばあちゃん。息子さんと2人暮らしである。両手指の変形拘縮で食事は工夫したスプーンでやっと摂れている。記憶力も保たれ、理解力もよく認知度はⅠ程度である。私はADLは要介護2と判断しているのだが認定審査のたびに要支援の結果が出るのが不思議でならない。デイケア以外は月に1回外来の診察を受けに遣ってくる。先月の診察ではこれまで通りで変わりはなかったと思っていた。昨日、遠くにいる娘さんに同居している息子さんの2人がかりでやっとの事で連れてきた。ここ1週間ぐらい前から脚が弱くなり支えが無いと歩けず座りも不安定で倒れる。また目も痛く涙がでると仕切りに訴え、虫が見えたり、誰もいないのに良く会う看護婦さんがそこに居ると話すので心配だし、どうしようもないので連れてきたと言う。長谷川式認知症スケールでは23点でありそんなに認知度は低くない。受け答えもしっかりしている。しかしそっとして置くとすぐうつむいて目を閉じてしまう。話しかけると涙が出るので目を拭いてくれといいながら普通の話を始めるという具合である。ご飯はしっかりと食べて血圧の薬も飲んでいると言うので体の調子は心配要らないようだ。家族の話と様子からレビー小体型認知症であろうと判断して、アリセプト3mgを投与し、ADLもずいぶん低下しているので在宅では大変そうなので入院させた。一人になると幻覚が出やすいそうなので4人部屋にして部屋を明るくするよう看護師に支持した。昨夜は殆ど幻覚も無くゆっくり休んだ旨の看護師からの申し送りを受けた。アリセプトが効いたらしい。
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せん妄を起したおじいちゃん。
風邪症状があり某医を受診、薬を処方された。その2~3日後、高熱が出て衰弱し起き上がれず呼吸もおかしいと私のクリニックに救急車で搬入された。悪寒のため震えており口唇、手足の爪にチアノーゼがある。奥さんお話ではヘビー・スモーカーでいまニコチンパッチの禁煙治療を始めた矢先の事だと言う。慢性閉塞性肺疾患もあるらしい。肺炎を疑い肺のCT検査を行った。肺気腫と両下肺野の気管支陰影の増強はあるが肺炎は起していない。食事を満足にとっていないので脱水はあるにしてもお年寄りで39.5度は高熱すぎる。何からの熱か判らないが兎も角、入院させ酸素吸入に点滴を始めた。よく見ると下半身に紅色斑点状の皮疹が瀰漫性に広がっている。そして陰嚢には大きな水疱が出来ている。血液検査では白血球数は6500で貧血も無い。血小板が5万と少なくなっている。生化学検査、アナリーゼは検査センターからの結果待ちとして、ひとまず上気道感染を念頭に抗生剤を2日間使ったが39度の熱は続き解熱しない。そのため患者さんはぐったりして意識朦朧状態で一応おとなしい。前医の出した風邪薬の薬疹も考えられたので解熱剤は一切使わない事にした。検査室からの報告ではCRP15、GOT150、GPT60、LDH850で異型リンパ球の出現と核の左方移動が著明である。抗生剤も効かないし血液所見から皮疹は中毒疹と診断し少量のステロイドを使ってみた。劇的に解熱、やっと元気が出てきた様子で食事も全量摂取するようになった。次の日も発熱は見られなかった。感染症も考えて個室に収容していた。家族も熱が下がったので安心して付かなくなった。昼間は何ともなかったが夜になってベッドから降り、毛布を背負い廊下を行ったりきたり訳も無く徘徊を始めた。せん妄を起したのである。なんとか転倒する事も無く一夜は過ぎた。昼間は何とかしつかりしている様子だったので時々の見回りだけにし、慢性閉塞性肺疾患で酸素飽和度が90%以下なので酸素吸入は続けていた。ところが突然ナースステーションの酸素ボンベ残量モニターのアラームが鳴り出した。看護婦が病室に行ってみると患者さんがベッド横で酸素配管の根っこを引き抜きものすごい音を立てて酸素が噴出していた。患者さんは何が起こったのかわからず噴出するアナの中を必死に覗き込もうとしていたのである。酸素ガス屋に来てもらい修理を済ませたが、お爺ちゃんのせん妄対策を考えなければならない。熱も下がっており全身状態には心配は無い。セレネースとグラマリールの少量を投与し、とにかく家族を付き添わせることにした。
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