温泉町指宿市は観光客が多い。その関係で連休、盆、正月はホテル、旅館から怪我や体調を崩した宿泊客の診察依頼が頻繁になる。勤労感謝の日の前夜は輪番日に当たっていた。一晩に4人の旅行客の来診があった。一人は酒を飲みすぎ転倒して顔面打撲と挫創。後の3人は嘔吐下痢、いずれも同じ旅行会社のツアー仲間であった。指宿市には夕方着きホテルで入浴して食事を共にしている。その後に嘔吐と下痢を繰り返して吐くものも無くなり、脱水でフラフラ状態になりホテルマンに付き添われて深夜の2時に1名、朝の7時に2名来院した。発熱も無く、腹痛もさほど無い。いずれも輸液で気分も良くなり帰っていった。翌日ホテルから食中毒では無かったかの問い合わせが有った。3人との似た症状でもあり可能性は五分五分、しかし確証が無い。もし軽はずみに答えてマスコミが騒ぎ大騒動となると大変である。各方面に迷惑が及ぶ。関東からずっと一緒に行動してきたツアー客同士でもある。いま一番はやっているのは感染性胃腸炎であり、腹痛も余り無く、治療後はどうも無いとのことである。臨床症状からは食中毒の可能性は無いと話して置いた。しかしその後しばらくして保健所から同じ様な問い合わせがあった。旅行会社からこのまま旅行を続けていいか問い合わせがあったとの事。確かな証拠があれば断定出来るがそれが無い。患者さんには、お腹にくる風邪かも知れないと説明してあり、臨床症状が食中毒にしては典型的でないと答えた。公衆衛生の観点では医師の義務として疑いを持ったら届けるべきだったかもしれない。しかし団体客の大人数の中の3人だけで症状も典型的でなかった。これから冬に向かいノロウイルスなどによる集団食中毒が発生する。掻き入れ時に発生すると大変なので食品を扱うホテル、料理店は充分に気をつけている筈である。毎年病院、介護施設などでの発生が相次いで報道されて大問題になる。旅行者は移動範囲も広く感染経路を特定するのは難しいいし、即座に出来る確定診断法が無い。他のグループにでも患者が出ていればホテルの厨房からの原因も考えられるがそうでもなかった。問い詰められているようで何か後味が悪かった。
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