嫁と姑の関係は日本の家族制度の中で親子関係とも複雑に絡みあって非常にデリケートな問題である。理性ではコントロールのできない感情の話で、本能的な物かもしれない。私の外来にいつも寂しい、身体がきついと言っては診察に見える老婦人がいる。以前は夫との二人暮らし息子さん家族とは別々に生活していた。ご主人が亡くなくなった後、お母さん一人では寂しいだろうと息子さんの提案で息子さん家族と一緒に暮らす事になった。それまではお互い、自由気ままに暮らしていたので同居する事がどんなに大変か分からなかった。今度は同じ屋根の下で2家族が暮らす事になった。息子の嫁となると離れていても何かにつけ気を使い、それ以上に嫁も気を使う。ましてや今度は46時中一緒である。孫が2人いてその育て方など、ごく些細な事で衝突してしまう。息子さんは板ばさみになり両方の機嫌を取らなければならないい。昼間は外で働きに出る。その間だけでも煩わしさから離れられる。しかし嫁さんは大変だ、最初の間はなんとか嫁さんが我慢していたのだろう。しばらくの間は穏やかに過ぎていた。そのうち少しの行き違いが積み重なり、なんとか抑えていた嫁さんの忍耐も限界となり隣近所を巻き込んだ騒動も起こす様になった。その度に私の外来を訪れて、体の不調と嫁さんの愚痴を話しに来ていた。私は話を聞いてあげながら自分の経験での息子の立場や嫁の受け止め方を話した。出来る事なら近くでも良いし、同じ敷地でも良いから兎に角、玄関を別々にして、物理的、精神的に互いに離れて暮らす方が良いといつも助言した。近頃、少し明るく元気な様子なので安心していた。ここ4,5日の暑さ続きで喉が渇き身体がきついと診察に見えた。話を聞くと友人の世話で近くに貸家が見つかり私の話して呉れたように現在は息子家族と別居し暮らし出している。近い将来、以前いた敷地に2世帯住宅を建てる予定だと言う。それは何よりで良かったと一緒に喜んであげた。ところが朝一度、診察に来たのに午後にも見えた。それを正すと家に帰ったが日付と時間が分からなくなったし次の来院日が何時だったか忘れた。心配で心配で家にいたたまれなくなりやって来たとの事。これまでは息子さんは夜には必ず訪問して呉れていた。ここ1週間出張で来てくれていない。嫁さんも自分を避けて顔も出さなくなったと寂しそうである。また一方では嫁さんが自分につらく当って居る事、あんな嫁に孫をまかせて置いて大丈夫だろうかなど顔を曇らせ混乱している。私が以前元気だった頃のご主人の話、これまでの外来での出来事を持ち出し話しているうちに、自分の記憶に自信を取り戻したのか穏やかな表情に戻った。転居したばかりの家に一人で過ごし、何の刺激も無いうえに息子さんや嫁さんも来てくれない。ここの所の暑さで記憶も弱り、一寸時間が分からなくなった。それが切っ掛けで戸惑い、自信をすつかり無くしてしまったらしい。藁をもすがる気持ちで私のところ来たのである。嫁さんに助けを求めたいがそれも自分の感情が許さない。代償に嫁さんを悪く思い被害妄想を抱いている。年を取ると一寸した物忘れや、うっかりが戸惑いとなり、すつかり自信を失うものである。喧嘩はしながらでも息子さん家族と一緒が良かったのかもしれない。しかし感情だけは年をとっても衰える事はない。この不均衡はどうしようも無い。人間永遠の問題だ。
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