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以前、療養型病院に勤務していた時のこと。明治生まれの女性の方。確か末期癌で寝たきりで、あまりご家族の方もいらしてなかったか。一人寂しそうに横になってたから、「何かして差し上げることありませんか?」って尋ねてみた。そしたら、か細く優しい声で、しかしはっきりと、こう話された。
「他人様(ひとさま)に迷惑かけられないから、いいです・・・」、と。微笑みながら。
一瞬、時が止まった。その光景は今でも心に焼き付いている。何とかしてくれ、何かしてくれ、って不満や愚痴を言っても許される状況なのに、その方は・・・。今では聞かれない様なその言葉、その心。
「・・すべてがわれわれのところよりも、こぢんまりと優雅にできている世界、ー小柄で、見るも優しそうな人々が、幸福を祈るがごとく、そろって微笑みかけてくる世界ーあらゆる動きがゆったりと穏やかで、声をひそめて語る世界ー土地も人も空も、これまでよそで見て知っていたとは似ても似つかぬ世界ーそんな世界にいきなり身を置くとき、イギリスの昔話ではぐくまれた想像力の持ち主なら、昔見た妖精の国の夢がとうとう現実になったと思うのも無理はない。・・」
「・・これほど温和で親切な顔を私はいまだかつて見たことがない。そしてこれらの顔はそのまま彼らの魂を表している。私はまだ怒った声を聞いたこともなければ、不親切な行為を目にしたこともない。・・」
これは明治時代、日本を訪れたラフカディオ・ハーンが見て感じた日本の姿。ちょっと前までは残っていた日本人の姿。
「神々の国の首都」小泉八雲(講談社学術文庫)より
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