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 それでは脳の再生を促すものはどのようなものでしょうか?

 ねずみを何もないかごの中で飼ったグループとくるくる回転して運動ができるおもちゃを入れたかごで飼ったグループで、神経幹細胞の数を比較した研究があります。その結果は運動をしたグループの方が神経幹細胞の数が多いというものでした。人間は植物ではなく動物ですので、動くことで脳が生き生きとします。体力を保つために運動されている方が多いと思いますが、運動は体よりも脳を鍛えるものだったのです。

 神経幹細胞は脳全体に存在していますが、2ヶ所だけ非常に強く再生している場所があります。それは前頭葉と海馬です。前頭葉は額のところにある脳で、物事を考えているところです。お猿さんと人間の脳で一番違っているところです。海馬は脳の底のほうにあり、記憶をコントロールする中枢です。この前頭葉と海馬を鍛えることができれば、脳の再生のスピードが上がるのではないかと期待されます。

 『考える』と『覚える』という行為を一緒にすることを漢字2字で書くと何になるでしょう。それは『学習』です。私たちは人よりもいい生活をしようとか、他人よりえらそうにするために学習するのではありません。それは自分の脳を日々よい方向に作り変えるためだったのです。

 「運動はだるいし、ましてや勉強なんてとんでもない」という方は最後の手段があります。 これもねずみの実験ですが、ねずみに猫の鳴き声を聞かせたり、水の中に沈めたりして精神的ストレスを与えると、次第に動かないウツウツとしたねずみになります。ある研究者がこのねずみにうつ病を治す薬を与えてみたところ、イキイキとしたねずみになりました。ウツウツねずみとイキイキねずみの神経幹細胞の数を比較するとイキイキねずみの方が何倍も数が多いことがわかりました。 このことからイキイキとした充実した人生が、脳を再生する大きな原動力となることが推測されます。

 脳の再生を促す方法は以上述べましたように、運動・学習そしてイキイキ人生でしたが、試験でもないとなかなか覚えられません。そこで語呂合わせを考えました。


「ウ」動いて

「マ」学んで

「イ」イキイキ 人生 

 これが脳を再生するウマイ生き方です。

 知能は遺伝かあるいは環境かという議論が医学界で続いていますが、私は環境とくに自分の生き方に大きく影響されると考えています。

 脳は日々再生されていますが、ちょっと油断すると一気に老化してゆきます。毎日のこつこつとした努力を続けていれば、遅々とした歩みかも知れませんが、脳はよりいいものに生まれ変わってゆきます。

 『大器晩成』こそが正しい脳の育て方です。

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 脳を作る細胞があるのなら、それを治療に使えないかという発想が出てくるのは当然です。 すでに臨床応用の一歩手前まできているものは、末梢神経の損傷を神経幹細胞で直すというものがあります。正座していると足がしびれるのは足を動かしたり、足の感覚を司る末梢神経があるからですが、これが事故などで切断されると、治療が非常に困難でした。神経幹細胞は神経線維も作ることができますので、切れたところに神経幹細胞入りのチューブを置いておくと、自然に神経がつながります。

 次に期待されているのは、脊髄損傷です。高いところから落ちたりして首の骨を折り、脊髄が傷つきますと、意識はしっかりしてても手足が全く動かないといった悲惨な状況になります。ねずみの背骨を取り、脊髄をハサミで切ると(本当に医者はひどいことをするものです)、足が動かなくなります。切った脊髄に神経幹細胞を植えておくと、脊髄が再生され、1から2ヵ月後にはピンピン歩き回ります。

 パーキンソン病も研究が進んでいます。パーキンソン病で少なくなるドーパミンをたくさん作る細胞を自分の神経幹細胞から導き出し、それを自分の脳に植えるという研究です。

 しかしこれまで述べた神経幹細胞の移植がヒトで本当にうまく行くためには少なくとも10年以上の時間が必要と思われます。それまで待てないという人、あるいは医療費の高騰でなるべく安く健康になりたいという欲張りな方には朗報があります。 それは自分で神経幹細胞を増やして治すという方法です。簡単に言えば、神経幹細胞を減らすことをできるだけしないで、神経幹細胞を増やすものをできるだけすればよいわけです。

 神経幹細胞を減らしてしまうのは年齢・病気・怠惰な生活です。

 神経幹細胞の元気は歳とともになくなって行きます。二つに増える能力が低下しますので、細胞の数も少なくなります。でも時をとめることはできません。ですから、歳を取れば取るほど脳を再生する努力を怠らないようにしなければなりません。

 いくら脳が再生するからと言っても、脳の病気で一度に多くの神経細胞が失われたら、再生するまでにかなり長い時間を要します。やはり脳の病気は予防するに限ります。

 またコタツでみかんを食べながら、一日中テレビをボーっと見ているような生活を送っていますと、脳を作り変えないといけないほどの必要性がないので、再生されません。
 

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 親を見ていると自分の頭の程度はこれくらいでしかたないかとあきらめている人はいませんか?でもてきぱきと仕事をしている賢い人たちを見ていると、もう一度脳を作り変えることが出来たらいいなあと願いたくなりますが、そんなことは可能でしょうか?

 医学の進歩というものはすさまじいもので、ついこの間まであたりまえのように思っていたことが、間違いだったということがあります。私はこれまで、多くの会場でセミナーをさせていただきましたが、セミナーで必ず入れるお話は、「脳は一度壊れると二度と再生しないから、壊れないように病気にならないように注意しましょう。」という内容のもので、禁煙や食生活の改善を強調してまいりました。しかしおよそ10年前に「脳は日々再生している」と180度考え方が変わってしまいました。

 実は体の大部分の細胞や臓器などは、盛んに再生されていることが昔からわかっていました。 お風呂に入って体をこすると「アカ」が出ますが、これは死んで剥げ落ちた皮膚の細胞なのです。もし皮膚が再生しないのなら、日々皮膚はやせて最後は薄い和紙のような状態になってしまうでしょう。しかし「面の皮が厚い」ままでいられるのは、皮膚の奥のほうで盛んに皮膚を作る細胞が再生しているからです。新しく生まれた皮膚の細胞は生まれてから約2 週間で皮膚の表面に出てくることが知られています。

 ところが脳だけは、生まれたときが成長の終わりで、それからは神経細胞が死んでゆくことがあっても、生まれ出てくることはないと長い間考えられてきました。しかし同じひとつの体の中で例外があると考えるほうが無理があったのですね。

 お母さんのおなかの中にいるときは、脳を作る細胞(神経幹細胞)がたくさんあり、どんどん脳が作られてゆきます。おぎゃーと生まれると、この神経幹細胞が急激に少なくなり、大人ではまったく見られなくなると考えられていました。 しかし成人の脳にもたくさん神経幹細胞があり、しかも増え続けていることがわかったのです。

 最近のアメリカ神経科学学会での発表では95歳の方からも神経幹細胞を培養することができたとの報告があります。

 また驚くべきことに、脳以外の部分にも神経幹細胞に変わることが出来る細胞があることが分かりました。脳以外の部分とは脊髄、骨髄、皮膚そして筋肉です。脊髄は脳とつながっていますから、納得できますが、骨髄といえば血液ですし、皮膚や筋肉にいたっては全く脳と関係ない感じがします。なぜほぼ全身に脳を作る細胞が存在している必要があるのでしょうか?もちろん正確な理由は分かりませんが、これは「いざ鎌倉へ」ではありませんが、生きていくうえで一番大切な脳に問題が起こると、全身から脳を再生させるお助け部隊が集まるようになっているのかもしれません。

 いつもボーっとして、頭の回転が遅い人が「頭が筋肉」と揶揄されることがありますが、本当はほめ言葉だったんですね。

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