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   (12)悲しき結末

 

 あの、バケツに捨てたトロンビン末の空き瓶のことを思い出しました。

 そして、以前に、薬品庫の前で聞いた、不審な女性二人の会話。

 あの会話のあと、渚さんは、普段循環器外来で使わないトロンビンの箱を処置室に持ち込んだのでした。

「智佳子ちゃん、おいらちょっと出かけてくる!」

「なあに?そんなに、あわてて」

「院長は、病死なんかじゃない!殺されたんだ。犯人は……」

 おいらは循環器外来に走りました。

 当番看護師に、渚さんの居場所を聞きました。

「お昼休みだから、きっと屋上庭園ですよ」

「ありがとう、言ってみるよ」

 これまでは、昼休みに屋上庭園に上がるには、階段を使えといわれてましたが、もうそんな命令なんてくそくらえです。

 エレベーターを使って屋上へ上がります。

 屋上庭園に、渚さんはいました。

「あら、先生、どうされたんですか?何か怖い顔をされてますね」

「渚さん、世古山院長のことで聞きたいことがあるんだ」

「院長?院長は、病死したのではないのですか」

「渚さん、院長は、病死じゃない。あなたが手を下したんだ。おいらはそれに気がついたんだよ」

「……」

「渚さん、あなたは、トロンビン末の水溶液をあらかじめ入れておいた、採血スピッツを使って、院長から採血したんだ。その直後に、スピッツを挿入したまま、駆血帯を外すと、静脈内圧が急激に低下するから、スピッツ内のトロンビン水溶液が院長の血管内に逆流する。もともと冠状動脈狭窄による狭心症の持病ががあった院長だから、ひとたまりもないよね」

「でも、証拠がないでしょう」

「ごめん、証拠なら、見つけたよ。このトロンビン末の空き瓶を、循環器外来の医療廃棄物のバケツの中からみつけたよ。この瓶からきっと、犯人の指紋がとれるはずだ」

 渚さんは、黙っておいらの眼をみつめていましたが、ふーっとため息をついて、話し始めました。

「先生のいうとおりです。以前から、院長は私にしつこく付きまとっていました。そして、梶田先生と私がお付き合いをしているのを知ると、今度は、梶田先生に、過酷な勤務を強制したり、何かにつけ嫌がらせをするようになりました。梶田先生は精神的にデリケートなところがある方でした。とても繊細な心の持ち主だったんです。結局、梶田先生は、医局で薬を飲んで自ら、命を絶ちました」

「そうか、和光先生が、心臓麻痺といったのは、実は自殺だったのか」

「そのあとも、院長の横暴は続きました。清藤先生を逮捕させたり、自分の意のとおりにならない人は徹底的に排除されました。私は院長がいなくなれば、この病院も変わるんじゃないかと思うようになりました」

「それで、院長を……」

「はい、私は、院長を油断させるために、一旦、院長の言うことを聞くようにしました」

 おいらは、ホテルでのことを思い出しました。

「院長はずいぶんと、よろこびました。今度採血するときは、おまえにしてもらうと、いったとき、私はチャンスだと思いました。薬品庫から、トロンビンを持ち出し、院長に、採血するふりをして、トロンビンを体内に投与したんです」


「渚さん、院長を殺すことを企てたのは、あなただけじゃないでしょう。おいらは以前、予備薬品庫の前を通ったときに二人の女性が「注射」「死ぬ」って言っていたのを聞いたんだ。あの時の声の主が誰か今、思い出したよ。病理の和光史恵先生だ。和光先生に殺し方を指示されて、その後、あなたは、トロンビンを予備薬品庫から、循環器外来処置室に運び込んだんだね」

「会話を、聞いていらしてたんですか。じゃあ、全てをお話しします、和光先生ご夫婦は、美多摩医療センターの現状を憂いておられました。院長と、美多摩PFI社が、医療センターを食い物にしている現状をね。せめて、院長がいなくなればと常々考えていたようです。そして、ご夫婦は、私に声をかけてきました。お付き合いしている人があんななくなりかたをしたので、さぞ、院長をうらんでいるだろうと。わたしは、梶田先生のことはしかたがないと思っていましたが、和光先生の、このままでは、第二、第三の梶田先生がでるよという言葉に心を動かされました」

 渚さんが、そこまで話したとき、和光先生ご夫婦が、屋上庭園に上がってきました。

 二人とも、柔和な顔をしています。

「あかがま君、渚さんは、少しも悪くないよ。彼女は私達に利用されただけだ」

「和光先生……」

「君が、血相を変えて、屋上に上がっていったというのを当番看護師に聞いてね。史恵と相談して全てを警察に話すことにしたんだ。もうすぐ刑事さんがここにやってくる」

「先生方は、この病院の皆のことを考えて、この病院を立派にしようと思ってやったんでしょうが、おいらはとっても悲しいです」

「あかがま君、本当に期待を裏切ってすまない、この通りだ」

 深々と頭をさげる、和光先生。

 もうおいらは何もいえなくなってしまいました。

 遠くに聞こえてきた、パトカーのサイレンが、だんだんと大きくなりました。

「さあ、迎えが来たようだ。最後は胸を張って、この病院を去ろう」

 おいらは、病院を去って行く、三人の後ろ姿を、悔しさで唇をかみしめながら、見送りました。

 

 

 お忙しい中、何時も御訪問誠に有難うございます。御慈悲の一押しお願い頂ければ誠に幸いでございます。 にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ

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コメント

コメント一覧

お粗末さまでした。
最後は、私も疲れました。
written by akagama / 2007.03.13 21:00
火曜サスペンス劇場ばりですね。

あかがまシリーズの最後はあかがま君にとって切ない完結でしたね。マジメにやっている人たちがバカをみるのは、どこの世界にもありますね。虚しいことです。
自分を守るために、嫌がらせをして相手を精神的に追い詰める人もいます。この作品は、そのような方たちへの自戒を促した渾身の作というところでしょうか。

あかがま君に船越栄一郎を彷彿。あっぱれでーす!
written by トトロ / 2007.03.13 21:39
いつも、応援ありがとう御座います。
まだまだ、文章修養は続きますが、ご愛顧頂ければうれしいです。
written by akagama / 2007.03.13 23:02

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