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   (4)オカリナのひと

 おいらは、外の空気が吸いたくなったので、二人と別れて外に出ることにしました。

「じゃあ、屋上の空中庭園に行くといいですよ。眺望はいいです。今日のお天気なら、富士山が見えるはずです」

「教えていただいてありがとうございます。じゃあ、いってきます」

「ああ、ごめんなさい。教えるのを忘れていたんだけど、医師は、業務時以外のエレベーター使用は禁止されているから、階段を使わないとだめだよ」

「ええっ、厳しいんですね」

 何か、ここの病院は、医師はかなり冷遇されているようです。

 仕方がないので、階段をのぼって、十八階の上の空中庭園にあがりました。

 もう、足はがくがくです。

「はあーっ」っと、大きく息をはいて、背伸びをしました。

 屋上からの眺めは最高でした。

 東に新宿の副都心。

 西に富士山。

 まだ、この街には、この病院以外に高層ビルがありません。

 美多摩市を一望できます。

 おや、どこからともなく、オカリナの音が聞こえてきます。

 とても、悲しげな曲を奏でていました。

 テレビから流れてきたのを聞いたことのある曲でした。

「誰が、オカリナを吹いているんだろう」

 おいらは、オカリナの音の聞こえるほうに向かって、歩いていきました。

 オカリナを吹いていたのは、ベンチに座っているきれいな女性でした。

 髪が長く、くりくりとした瞳の、二十二、三歳ぐらいのひとです。

 女性はおいらの顔をみると、オカリナを吹く手を止めました。

「あ、ごめんなさい、じゃまをしちゃって」

 おいらは、驚かせてしまったのかと、あわてて頭をさげました。

 彼女は、笑って答えました。

「いえ、いいんです。今度、こられた先生ですね。私、仁科渚です。内科病棟の看護師です」

 オカリナを吹いていた女性は、この医療センターの看護師さんでした。

「悲しい曲だね。いつも、ここで、オカリナを吹いているの」

 おいらの、問いかけに渚さんは頷きました。

「宗次郎さんの『悲しみの果て』です。大事な人に聞いてもらっているんです」

「大事な……ひと?」

「……今は、空にいます」

 おいらは、すぐに医局の机の花を思い出しました。

「あの、ひょっとして大事なひとって、ここの病院の先生?」

「はい、彼はとても一途でまじめな人でした。いつも、私の吹くオカリナを聞いてくれました」

「……だから、今日も彼に聞いてもらっているの?」

「今日は、深夜勤務の明けなんです。この街で、この場所が一番天国に近いので、彼の耳にも届くような気がします」

 話していると、渚さんはとても悲しそうな表情になりました。


 そろそろ、休憩時間が終わりそうなのでおいらは、また、医局への階段を下っていきました。

 医局に戻ると、智佳子先生と和光先生も戻っていました。

 でも、医局全体の雰囲気が少し変です。

 お医者さんたちが、がやがやしています。

 見慣れない人も何人かいるようです。

 背広を着た男の人が何人か医局にいます。

 一人の背広服の男の人が、一人の先生に近づいて、なにやら話しかけています。

 その先生は、頷いて両手を差し出しました。

 男の人が、いきなり光るものを胸から取り出しました。

 手錠です!!

 がちゃりと冷たい手錠が、先生の両腕にはめられました!

 先生は、半泣きの表情になりながらも、和光先生に頭を下げました。

 

 お忙しい中、何時も御訪問誠に有難うございます。御慈悲の一押しお願い頂ければ誠に幸いでございます。 にほんブログ村 小説ブログ ライトノベルへ

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