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< 哀しみを抱いて故郷へ還ろう(3)(4) | メイン | まわるとたのしいもの >

哀しみを抱いて故郷へ還ろう(5)(6)

akagama / 2007.02.23 12:23 / 推薦数 : 0

 (5)

 その夜おいらは、勇太郎に電話をかけて、今日のことを話しました。

 勇太郎は深刻な声で答えました。

「そうか、病状がおちついていれば、天小路はなるべく早めに退院させちゃったほうがいいぞ。あと、宏のことも気になるし、あいつのことは、おれも、差し障りのない範囲で調べておくから」

「うん、たのんだよ」

 勇太郎に任せておけば、安心かな。

 おいらは、受話器を置いて、ほっと息をつきました。

 


 次の日、総回診で、天小路次郎吉の退院日が決まりました。

 明日、退院です。

 総回診で、病室周りをしていた時のことでした。

 勇太郎から病棟に、電話がかかってきました。

 おいらが受話器を取ると、緊迫した勇太郎の声が聞こえてきました。

「おい、しんた。宏にあれから会ってはいないか?」

「うん、あれからは何にも」

「おい、落ち着いて聞け。あいつがもし、あらわれたらすぐ荒川署に連絡してくれ。宏は、今、福岡県警から、全国指名手配されている。殺人事件の容疑者だ」

「なにー!!」

「あいつはな、勤めていた、日本料理店をクビになった後、博多の暴力団に世話になっていたらしい。先週、小倉で、暴力団同士の抗争事件があってな。宏の組と対立する暴力団の組幹部が車に乗っているところを拳銃で襲われて三人が死んだ。現場に落ちてた薬莢から、宏の指紋が出た」

「宏が犯人だっていうのか」

「それは、わからん。だが、重要な容疑者であることはたしかだ。もう、俺たちの力ではどうにもならん。残念だけど」

「……わかった。それから、天小路次郎吉の退院日が決まった。明日だよ」

「そうか、じゃあ今夜をのりきれば大丈夫ってわけだな。がんばれよ」

 今夜の当直はおいらです。

 何も起こらなければいいのですが……。

 宏は、生前の園長先生に可愛がられていました。

 命の恩人と思っていたようです。

 その園長先生は、投資詐欺にあい、結局は自らの命を断ってしまいました。

 その事件の黒幕の一人、天小路次郎吉。

 一途者の気性の激しい、宏が、仇と付け狙う可能性は否定できません。

 しかも、宏は九州で、暴力団の「鉄砲玉」の仕事で、三人を射殺しているようです。

 三人殺すも、四人殺すも同じだという気持ちには、なってはいないでしょうか。

 とても心配です。

 その夜、午前三時。

 病棟のナースコールが鳴りました。

 天小路次郎吉の病室からです。

 オムツを替えてくれということだそうです。

 天小路は、以前交通事故で脊椎損傷の大怪我をしていて、下半身の自由が利かないので、オムツを使っています。

 深夜勤務は、常磐田ちあきちゃんと、高峰香奈子ちゃん。

 二人は、翌朝の病棟業務の伝票をコンピューターでうちだしていましたが、ちあきちゃんが手を止めて病室に向かいました。

 ちあきちゃんが病室に入ると、次郎吉は、

「おい、交換が終わるまで、席を外しとけ、下で茶でも飲んでろ、十分ぐらいはかかる」
 
 と、付き添いの丸坊主に病室を出て行くように指示しました。

「わかりました。その間に、私も手洗いに行ってきます」

 丸坊主は、病室を出てエレベーターの方に行きました。

 香奈ちゃんは黙々と伝票処理を続けます。

 その隙に、黒い影が病棟をさっと横切りました。

 伝票処理に気をとられていた香奈ちゃんはそのことに気がつきません。

 黒い影は、天小路次郎吉の病室に向かいます。

 病室では、ちあきちゃんがオムツをかえているところです。

 突然、乱暴に病室のドアが開け放たれました。

 黒い影は宏でした。


   (6)


 ピストルを構えて、病室にはいっていく宏。

 ちあきちゃんは、はっと気づき、ベッド横の、緊急用のナースコールのボタンを密かに押しました。

 連絡を受けた、香奈子ちゃんはそれを知らせに、おいらのPHSを鳴らします。

「天小路さんの病室が大変です!」

 急いで、病室へ、駆けつけるおいらと香奈ちゃん。

 宏は、ピストルの銃口を、天小路に向けたまま微動だにしません。

 天小路をかばうようにちあきちゃんが宏を睨み付けています。

 天小路の顔は真っ青になっています。

 声も出ません。

「宏!銃をしまえ!ここでは誰も殺させはしないぞ」

「ふーん、ということは、おれが九州で三人やったことはもう知ってるんだな。心配するな、こいつをやったらもう誰もやらないよ。さあ、看護師さん、脇によってくれや」

「あなた、この人を殺したいのなら、まず私から、撃ちなさい。絶対に私はここをどかないから」

 ちあきちゃんは毅然として言い放ちました。

「そいつは、あんたらが命をかけて守ってやるような価値のあるヤツじゃねえ。クソヤローに天誅を下すだけだ。どいてくれよ」

「いやです。ここは人殺しの来るところじゃないわ。さっさと出て行きなさい」

「おまえには関係ない、さっさとどけ!」

 相変わらずピストルを離そうとしない宏に、おいらは声をかけました。

「宏、おまえはおいらと同じ部屋で暮らしてたときは、そんなヤツじゃなかったぞ。あの時の、おまえの心が少しでも残っていたなら、銃を収めて自首をしろ。今からでも、罪を償うんだ」

 宏は、一瞬、おいらの言葉を聞いて、たじろぎました。

 そして、躊躇してピストルをおろそうとしたようでした。

 その時でした。

「先生になにしよるんなら、おらぁあ!!」

 叫び声がして、宏に後ろから、男が飛び掛りました。

 病室に付き添っていた丸坊主です。

 用足しから帰ってきたところ、病室が騒ぎになっているのをみて、飛び込んできたのです。

 「あ、ちきしょう!!」

 思わず宏が叫びました。

 宏と、丸坊主は、もつれ合って病室を転げました。

 丸坊主は、宏ともみ合いながら、懐に呑んでいた短刀をさやから、抜き出しました。

 冷たく光る刃を、宏の首に突き立てました!

 宏の首から鮮血が吹き上がりましす。

 宏も首を刺された瞬間、ほぼ同時にピストルの引き金を引き絞りました。

 銃声とともに「ぎゃっ」と悲鳴を上げて崩れ落ちる丸坊主。

 弾丸は丸坊主の頭部を撃ち抜きました。

 頭の一部が弾け飛び、血が噴出しました。

 丸坊主はすぐに動かなくなりました。

 ただ、宏も、首の太い動脈が切られていました。

 病室の天井まで、血しぶきが達しています。

 わずかな間に、蘇生術を施す間も無く二人の命が失われた血にまみれた病室で、おいらと、二人の看護師はなす術もなく、呆然と立ち尽くすしかありませんでした。

 まもなく、荒川署から事件の処理に、勇太郎が駆けつけてきてくれました。

「勇太郎、ごめん。おいらが、当直だったのに、こんなことになってしまって……」

「気にしても始まらないよ。宏も、かわいそうなヤツだったけれどね、あいつは、我慢をするとかいうことが出来ないヤツだったからなあ。それに一本気なヤツだったし、可愛がってくれた園長先生が死んだことが、本当にショックだったんだよ」

 宏が、勤めていた日本料理店をやめたのは、店の中でお金がなくなったことがあって、宏が疑われたからだそうです。

 お父さんが、刑務所に服役していたことから、就職した当初より、あまり周囲にはよく思われてはなかったようです。

 宏もあまり、媚びるタイプのヤツではなかったですし。

 売り言葉に、買い言葉ということがあったのかもしれません。

 

  次回完結!お慈悲の一押し頂ければ幸いです。

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