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哀しみを抱いて故郷へ還ろう(3)(4)

akagama / 2007.02.22 23:18 / 推薦数 : 0

   (3)

 でも、今や宏は、うってかわってすっかり、けだもののような男になっておいらの前に現れました。

 中学校を卒業して、宏は、博多の日本料理屋さんに修行に言ったと聞きましたが、もうその仕事はしていないのでしょうか。

「宏、ずいぶんと派手な格好をしているけど、仕事はちゃんとやっているのか?」

 おいらは気がかりに思っていたことを聞いてみました。

「ふん、おれみたいな半端者の人殺しの息子なんか、雇ってくれるところなんかあるわけねえだろ」

 声をあらげる、宏。

 他のお客さんたちも眉をひそめてこちらをみています。

「おまえ、何があった? 」

 すでに宏の雰囲気は尋常のものではありません。

 宏は、いらいらしたかんじで、タバコに火をつけました。

「おまえは、いいよ。いい飼い主様に拾ってもらったからな。おれは、おまえとちがって、他所に媚びを売って、生きていくのはごめんだよ」

 自分のことを飼い犬呼ばわりされて、少しむっとしましたが、おいらは、だまって宏の言うことを聞いていました。

「ところでよ、天小路次郎吉ってヤツが、この病院に入院しているんだったな」

「うわ、ここで、一番聞きたくない名前が出ちゃったよ」正直そう思いました。

 しかし、宏は何でこの人の名前を出したのでしょうか。

 宏はさらに続けます。

「で、家族のふりして、電話を、この病院にかけて、調べたんだよ。主治医は、赤河ってヤツだってな。びっくりしたよ。おまえが主治医だったとはなあ」

「その人がおまえと何か関係あるのか」

「ふん、聞きたいか?なら教えてやらあ。天使園の園長が死んだんだよ。この間」

「それは知ってる。勇太郎から聞いた」

「そうか?それ、自殺だったの知ってるか」

「ええっ!知らねえぞ。そんなこと」

「経済的に行き詰ってしまってな、自殺して保険金で勘弁してもらったんだとよ」

 おいらの、脳裏に、園長先生の顔が浮かびました。

 もの静かですが、堅実な人です。

 ちょっと信じられません。

「いったい、園長先生に何があったんだ、宏」

「投資詐欺のロイザックトラストグループの役員の一人に、天使園の卒業生がいたんだとよ。おれらより大分年上らしいけどな」

「すると、その卒業生に園長先生はだまされたわけか 」

「まあ、そういうことだ。園長は結局、卒業生に頼み込まれて、五千万円を投資してやったんだと。で、詐欺が発覚して、そのお金はパー。これを境に、天使園の経営はぐっと傾き、去年閉鎖。借金だけが残って、園長は自殺して保険金で借金を払ったということだ」

「それで、天小路次郎吉か」

「ああ、ロイザックトラストの連中が園長や他の被害者から巻き上げた金のほとんどは、天小路の懐に一旦はいったらしいよな。まあ、おれは、園長には良くしてもらったからな、園長を死なせた天小路のヤツに一言、挨拶をしてやりたいわけよ」

「ふざけるな、彼をおまえにはあわせるわけにはいかない、このまま帰れ」

「おい、おまえも園長には可愛がられていたんじゃなかったのか?天小路はおれたちからみれば仇だぞ」

「ここは、癒しの場所だ。怨みをはらす場所じゃない。話は終わりだ。もうここへは来るな」

 おいらは、レシートを取り上げて、二人分の会計をすませると、喫茶室の入り口に引っ掛けていた、白衣を纏い病棟へ戻ろうとしました。

「おーい、またあおうな」

 背後から宏に声をかけられましたが、無視しました。


   (4)

 七階北病棟へ戻るエレベーターに乗っている間、おいらは、小学校六年の時、宏と二人で隣の市まで、園長先生の、お使いに行ったことを思い出しました。

 二人とも、行き帰りのバス代をもらって、届け物を他所の施設に運ぶだけの仕事だったのですが。

 帰りがけに、スーパーに寄ろうと宏が言い出しました。

 そのスーパーの屋上には、ゲームコーナーがあり、宏はそこで遊んでから帰ると言い出しました。

 おいらは、もらった小遣いを無駄遣いするのはいやだったので、スーパーの階段の休憩所の椅子に座って、宏が戻ってくるのを待ちました。

 でも、三十分たっても、一時間たっても、宏は降りてきません。心配になったので、おいらは、屋上へ様子を見に行きました。

 宏は、ピンボールのゲームをずーっと続けてやっていたそうです。

「おい、だいぶ時間がたったよ。もう帰らないと、園長先生にしかられるよ」 

 おいらがそういうと、

「なんだよ、せっかく調子が出てきたところなのに」

 と、ふてくされながら、ゲームをするのをやめました。

 そして、スーパー前のバス停に行ったのですが、宏は、大変なことをいいだしました。

「おい、しんた。おれ、バス代もうないよ」

「えっ」

「スーパーの屋上で全部使っちゃったもん。一円もないよ」

 困ったやつです。

 バスを使わないと、天使園まで、歩いて帰るのは無理です。

 おいらは仕方がないので、宏のバス代三百五十円を立て替えてあげることにしました。

 これで、今月のお小遣いはおいらも、パーです。

 でも、バスで二人帰るためには仕方ありません。

 帰りのバスのなかで、宏は、

「ありがとう、このお金はきっと返すから」

 といっていますが、いまだに、十円も返してくれません。

 今日のコーヒー代も、結局おいらのおごりです。

 まあ、これでおとなしく帰ってくれるといいのですが、亡くなった園長先生にたいする、妙な義侠心を抱えてここにやってきたとしたら、ちょっと厄介なことになりそうです。

 おいらは、天小路次郎吉の病室に、診察に行きました。

 病室のドアを、ノックするとぬっと、丸坊主頭にした大男が顔を出しました。

 天小路次郎吉の付き添いです。

 ボディーガードのようなものでしょうか。

 顎をしゃくって中へ入れというしぐさをしました。

「天小路さん、今日はご気分如何ですか?」

「ああ、もう、大丈夫だ。いつでも退院できるんだろ」

 術後の経過もよく、血色もいいようでした。

「血液検査の結果もいいですから、病棟医長はここ、二、三日様子を見れば退院でいいんじゃないかといってましたよ」

 正直、おいらとしては、二、三日後といわずすぐに退院してほしいところなのですが、総回診で許可が出ないと退院できないのでそこは、いたし方ありません。

 天小路次郎吉が入院してるうちに、宏が変な気を起こさなければいいのですが。

 

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