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(1)
おいらの幼馴染に、刑事をしているヤツがいます。
長壁勇太郎といいます。
幼少の頃、大分市の清心天使園という養護施設で、おいらと勇太郎は育ちました。
実は、おいらには、両親がいません。
赤ちゃんの時、天使園の前に捨てられていたらしいです。
当然のことながら、その当時のことは覚えていないわけですが。
勇太郎の方は、幼稚園のとき両親を交通事故で亡くし、それ以来、施設で生活をしています。
勇太郎は、大分の高校を卒業してから、警視庁にはいり、荒川署に配属されていました。
おいらは、中学のときに書いた作文が、文部大臣表彰をうけたとかで、それが荒川医大の越谷理事長の眼にとまり、奨学金をもらいながら、東京に来て、北小石川高校、荒川医大に通いました。
なので、勇太郎とは、高校以来、顔をあわしたことはありません。
先日、窃盗で逮捕した男が胃が痛いというので、勇太郎が付き添って荒川医大の内科外来を受診した際、診察したのがおいらでした。
十一年ぶりの再会でした。
それ以来、おいらたちは、時々食事に行ったりとか、付き合いが続いています。
今夜も、南千住の居酒屋で、食事を二人でしていました。
「しかし、おまえも大変な患者をうけもってるんだなあ」
勇太郎が、ミミガー片手に、ビールを飲みながらいいました。
おいらは、今朝の医局会のことを思い出していました。
日陰助教授の言葉です。
「えー、うちの病棟に入院している患者について、こっそり情報を得ようとして、いろいろとマスコミ関係者などが、院内をうろついているらしいので、不審な者を病棟に立ち入らせないこと。また、不用意な発言は慎むように」
その入院患者というのは、きっとおいらの受け持ち患者さんのことです。
昨年、「ロイザックトラスト」といういんちき会社の起こした大規模な投資詐欺事件が日本中を騒がせました。
この犯人グループは、つかまりましたが、騙し取った五十億円にのぼる、お金の多くが、闇の世界に流れています。
中でも、大物フィクサーとして知られる、侠東会という政治団体のボスの天小路次郎吉を通じて、えらい政治家たちに、お金が渡ったらしいのですが、そちらの方は謎のまま、事件に幕がひかれたのです。
天小路は、警察に追及されることもありませんでした。
そして、一ヶ月前に肝臓にがんが見つかり入院をしています。
おいらが内科の主治医です。
先日、外科で、肝切除をうけて、再び内科に転科してきました。でもそろそろ、退院です。
マスコミの人たちは、疑惑のフィクサーは、仮病の入院ではないのか?本当の病状はどうなのか?ということを知りたいらしく、とってつけたような白衣を着たりして、病院内をうろついていたので、助教授の訓示があったわけです。
居酒屋で勇太郎はそのことを言っていたのでした。
「たいへんなのはいつもだよ。でも刑事も、そうとうたいへんだと思うけどね」
「まあな、あ、ところでな、天使園の園長先生、この間亡くなったらしいぞ」
まだ、そんなに、お年ではなかったのにおいらは、ちょっと意外な気がしました。
「えっ、それは知らなかったよ。でも、そういえば、天使園も閉鎖されてたんだよね」
「うん、今はもう建物もつぶされて駐車場になっているらしい」
「ふーん」
その夜は遅くまで、ふたりで愚痴を言い合って別れました。
さて、次の日、おいらは病棟係で、点滴をやっつけていました。
ちょうど点滴が全て、終わったときのことです。
すると、ヒヨ子が、ナースセンターから、おいらを呼びました。
「あかがませんせー、でんわー! 内科外来からー、すぐ来いっていってるよー」
外来から呼び出しと聞いて、とたんにおいらはいやあな気持ちになりました。
だいたい、いい話で呼ばれることは少ないからです。
何らかのトラブルが発生したに決まっています。
(2)
おいらは、エレベーターで一階まで降りて、内科外来に急ぎました。
柄の悪そうな、男の大声が聞こえてきます。
「だから、よべっつってんだろお。おらあ」
外来の看護師さんを怒鳴りつけている男は、見た目そのまんまやくざといういでたちの男でした。
やれやれ、こいつかよと思いました。
天小路次郎吉の一味でしょうか?
「あのー、呼ばれてきたんだけど」
おいらの声をきいて、外来の看護師さんがほっとしたような表情になりました。
「先生、この男性、先生の大事なお知り合いということですが、ぜひ、先生にお会いしたいということをおっしゃられています。何とかしてください」
やくざに、知り合いなんかいねえよ、と思いながら、その男をしげしげとみると…、施設で一緒だったやつでした。
芝村宏、確か小学三年ごろに、天使園に入ってきたヤツです。
宏は、お父さんと二人で暮らしていました。
お母さんは、お父さんに追い出されたそうです。
お父さんは、もともとやくざ者で、博打のトラブルから人を殺して、刑務所に入れられることになったので、天使園に入ってきたのでした。
「おう、きたか、しんた。久しぶりに会いに来てやったら、このブスがなー、ぎゃーぎゃー騒ぐんだ。しばいていいか」
「何ですって!」
看護師さんの眼がまた吊り上りました。
「こら、宏。他人の迷惑になるから騒ぐのをやめろ!こっちへこい」
おいらは、宏の手を引っ張って、喫茶室の方に連れて行きました。
「おまえ、ここへ何しに来た。ここは、喧嘩をしたり、怒鳴りあったりするところじゃないぞ」
おいらは、宏を喫茶室の椅子に座らせ、たしなめましたが、肝腎の本人はあさっての方を向いてタバコの煙を吐いています。
タバコを一本灰にして、やっと、口を開きました。
「ふん、せっかく東京に来たから、挨拶にきてやったら、お説教かい。ずいぶん偉くなったもんだな、しんた先生さんよ」
宏は、天使園に連れてこられた当初は、手のつけられない暴れん坊でした。
気に入らないことがあると、小さな子を叩いたりして泣かせていました。
困った園長先生は、宏を、おいらと同じ部屋に住まわせることにしました。
「しんた、宏は今、おとうさんが悪いことをして刑務所に入れられたのが、すごくつらくて、よその子に八つ当たりをしているだけなんだ。友達が出来たら、きっと、宏もいい子になるような気がする。がまんして、宏の友達になってくれないか?」
「わかりました、園長先生」
宏と過ごした最初の夜に、おいらは、自分がここで暮らすようになったいきさつを話しました。
もっとも、天使園の先生に聞かされた話ですが。
宏はおいらの身の上を知ると、まだ、刑務所に入っていても、お父さんがいるだけ、おれの方が幸せなのかなーと思ったそうです。
それから、おいらと宏は、いろんなことを話し合うようになりました。
テレビのこと、勉強のこと、将来のこと。
それ以降、宏は落ち着いて、あまり、他の子に暴力をふるったりということはしなくなりました。
むしろ、小さい子の面倒をすすんでやるようになり、園長先生が「宏は、いい子になったねえ、園長先生はうれしいよ」と眼を細めるぐらいでした。
お忙しい中、何時も御訪問誠に有難うございます。一押しお願い頂ければ誠に幸いでございます。
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