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(5)
数時間後、初日のお勤めを終えて、さすがにおいらたちはへとへとに疲れてしまいました。
風呂にはいって、晩飯とビールをいただくと、すぐに睡魔が襲ってきました。
ぐっすりと寝ていたのですが、午前二時過ぎになったころでしょうか。
がんがんがんと、作業小屋のドアを叩く音で、おいら達は眼を覚ましました。
「おい、外に誰か居るぞ」
おいらは、ドアの方にそろそろと歩いていきました。
「まさか、あの屍骸の男の仲間じゃないだろうな。気をつけろ」
おいらは、すこうしドアを開けて外をうかがいました。
ちがいました。
ドアの前で、十五、六歳の女の子が、泣きそうな顔で、立っていました。
トレーナーとスカートが、引きちぎられて、あちこちに擦過傷が出来ています。
明らかに、何者かに襲われてできた傷のようです。
「えんどー…。この娘、怪我してるよ…」
とりあえず、ほおってはおけないので、小屋の中に、女の子を入れました。
お風呂に入ってもらって、傷の手当をしてあげました。
「お話は、出来る? 」
遠藤が、まだショックの取れない女の子に優しく尋ねました。
女の子は、頷きました。
橘 慶子と名乗る、女の子は、もう十年間もこの山の南斜面の小屋で、おじちゃんとよぶ男の人と暮らしているそうです。
学校には行かず、おじちゃんが勉強を教えてくれているといいました。
じゃあ、お母さんとお父さんは、と尋ねましたが、悲しそうな顔をして、返事をしません。
かなりのわけありのようです。
慶子ちゃんは、夕方、山道を歩いているときに、数人の男に出くわし襲われたらしいです。
隙をみて、逃げ出し、隠れ隠れここまで逃げ延びてきましたが、身体のあちこちに、傷を負っていました。
ひどい奴らです。
「あの、屍骸の奴の一味かな?」
おいらは、考えを張り巡らせました。
「可能性はあるな。しかしこんなに、あやしげな連中がウロウロしてるということは、本当にお宝がかくされてるのかもねえ」
他人事のように、淡々と話す、遠藤。
確かにこいつは大物ですが、おいらは一言いわせてもらいました。
「おい、おまえは度胸あるなー、山で歩いてる女の子を襲うような連中とおんなじ山にいるんだぞ。恐いとは思わんか」
「べーつに。だいたい、あいつらは、平家のお宝探しの連中だろ。俺達は、寄生虫の調査だ。利害が一致してるわけじゃないからな。ここは、携帯電話も通じない山奥だ、女の子を襲っても、口封じをしてしまえば、ばれっこないと思ったんだろうよ。ろくでもないやつはどこにもいるよ」
あいかわらず遠藤は涼しい顔で恐いことをぽんぽんいいます。
本当に大物です。
世界中の危険地帯を、ウンコ袋片手にひょいひょい、駆け巡るだけのことはあります。
寄生虫学の教授が、一目置くのも判ります。
「夜明けを待って、おいらたちが、お爺さんのところに連れて行ってあげるから、心配しなくていいよ」
おいらがそういうと、慶子ちゃんは、にっこり笑ってくれました。
奥の座敷で、慶子ちゃんを休ませたあと、おいら達はまた明日に備えて、寝ていたのですが…。
明け方近く、まーた、ドアをぶったたく音がしました。
「おい、開けやがれ! このやろー」
うわあー、もう完全に、尋常でない口汚い言葉が聞こえてきます。
どうやら、慶子ちゃんを追っかけまわしてた連中のようです。
仕方がないので、遠藤がドアを開けます。
やはり、二十から三十歳台の男が三人ほど、玄関でふんぞり返っています。
「あんたたち誰?真夜中に非常識じゃないかとは思わんかね」
涼しい顔で対応する遠藤。
三人の男は、厳しい口調で遠藤に迫りました。
「ちょっと、尋ねたいことがあるんだが、おまえ達、ここで娘を預かってはないかい?」
遠藤は知らないふりで答えます。
「知らんな、その娘はあんたらと何か関係があるのかい」
「黙れ、隠すとためにならないぜ。ちょいと中を、調べさせてもらうぜ」
(6)
三人組は小屋の中に入ろうとしますが、遠藤が、敢然と、立ちふさがります。
「おい、そこをどきなよ」
真ん中のリーダーらしき男が、ドスをきかせて迫ります。
そのリーダーの、鼻面に、遠藤がほいよとばかりに、瓶詰めの、南仏棘口線虫を突きつけました。
見つけない人間がみると、すごく、これはインパクトがございます。
思わずひるむ、リーダー。
「入ってもいいけど、俺達、この一帯の、寄生虫の調査に来てるだけだよ。中には、これと同じような、生の寄生虫がいっぱいあるけど、入って一緒に遊んでみるかい?」
リーダーは思いっきりいやあな顔をしました。
残りの二人に顎で合図を送ると、
「じゃましたな」
とばかりに、きびすを返して出て行きました。
「おうい、ところで、ひょっとして、お友達が、はぐれて、一人足らないのじゃないかい?」
遠藤が、帰っていく三人組の背後から声をかけます。
「なにい? 黒岩のことを知っているのか? 」
足をとめて振り返るリーダー。
「黒岩っていうのか?昨日、ふらふら、山の斜面を北側に歩いていく人影をみたんだけど、夜が明けたら探してみるといいよ」
白々しく、大嘘をかませる遠藤。
「そうか。おい、テントへ帰るぞ、少し休んで夜が明けたら、北斜面の方へ、黒岩を探しにいこう」
おいらは、夜明け近くになって、やっと休むことが出来ました。
さて、日が昇り、朝食を軽めにとり、慶子ちゃんをお爺さんのところに送りとどけるため、小屋を出発したおいらたち。
三人組は、見当違いな方向へ、黒岩を探しに行ったようですが、念のために見つからないように、慶子ちゃんには、おいらの帽子を目深にかけさせて、ジャージの上下を着せて、遠目には女の子に見えないように、お爺ちゃんのところに戻ります。
山林の中に分け入り、十数分も歩くと、慶子ちゃんが指差した先に、おじちゃんの姿が、見えました。
「おじちゃーん」
慶子ちゃんが手を振ると、おじちゃん、気がついたみたいです。
一晩中、山の中を探したらしく、眼が真っ赤になっています。
かけよるおじちゃんに、慶子ちゃんが、昨夜から今朝にかけて、顛末を話してくれました。
ぺこぺこと頭を下げるおじちゃん。
もっともおじちゃんといってもまだ三十歳ぐらいです。
おじちゃんがお礼にと、慶子ちゃんと二人で住む、山小屋へおいらたちを連れて行きました。
山小屋には、人懐っこい、「ゴン」というフレンチブルドッグがいました。
おいらたちを見ると尻尾を振って寄って来ました。
ゴンは、慶子ちゃんととっても仲がいいみたいです。
「慶子、ゴンと一緒に小屋の中で遊んでろ、しばらく外にでちゃいかんぞ。それにしてもあなた方には、お世話になりましたね。」
遠藤とおいらは、慶子ちゃんとゴンが表でじゃれている間、おじちゃんと奥の間で話を始めました。
おじちゃんは橘伊助と名乗りました。
小屋で、彫刻、彫金をしたり、細工物をこしらえては、麓の業者に引き取ってもらっているということでした。
実は、宝石デザイナーを気取る芸能人の代作をかなり手がけているとかで、かなりの収入を得ているようです。
麓で、日用品や、食料品を買い込んでは、この山小屋に帰ってきて、慶子ちゃんとゴンと暮らしているといいました。
「伊助さん、慶子ちゃんを追っかけまわしてた連中に心当たりはないのですか?どうみてもまともな連中ではなかったのですが」
遠藤は伊助さんに尋ねました。
「この山には、確かに平家のお宝伝説という奴があります。それに引き寄せられてくる連中が最近とみにふえました。まあ大体、他人様の隠したものをかっぱらおうなんて了見の人間にろくな奴はいませんから。あの連中もそういう輩のひとつでしょう。山奥でたまたま、かわいい女の子を見つけた。あたりにヒトの気配はない、悪さをしてやろうといったところでしょうか。ぶっそうな時代ですね」
伊助さんはそう答えました。
お忙しい中、何時も御訪問誠に有難うございます。一押しお願い頂ければ誠に幸いでございます。
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