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(9)
思わず、声をあげてしらふに戻る仙道先生。
目の前の田熊さんを見てびっくりします。
「だ、誰だあんた?人の部屋に入り込んで」
「そりゃあすまねえな、間男さんよ」
「え?間男」
「話は、広いほうでしようか」
田熊さんは仙道先生をつれて、客間のベッドに座らせました。
「まあな、俺の女房の尻軽にも困ったもんだけどよ。あいつは、まあ、あとでぶっちめるとして、あんたも、家にかえりゃあ、奥さんいるんだろ。困ったもんだ」
「と、とにかく誘ってきたのは向こうなんだ」
「ああ、知ってるよ。ずーっとみてたからな、ほら」
田熊さんは、何枚かの写真をベッドに、ばら撒きました。
写真に、今夜の仙道先生と華子さんの、バーでの楽しい語らいから、ホテルの部屋に入るまでが、克明に記録されていました。
「でもさあ、これ、あんたの奥さんがみたらどう思う」
突然、仙道先生の顔が泣き顔になりました。
「それだけは、それだけは勘弁してください。お金がほしいんですか? あなたは」
「お金は、いらないんだけどねえ。頼まれてほしいことがあるんだよ」
「いったい、ボクに何をしてほしいんですか」
「あんたらが、国際治療センターで、DCA11を投与した患者の臨牀データと、死亡患者の病理解剖報告書の控えをいただいてきてほしいんだよ。とりあえず、十人分ほどね、この紙にかいてある患者さんたちだ」
田熊さんは、DCA11の患者の名前の書かれたリストを渡しました
「だめです。ばれたら、病院にいられなくなります」
「こっそり、コピーしてくるぶんにはかまわないだろ? あんたがやったなんてわかりゃしねえよ」
「たしかに、ばれなければ…ですが」
「いやなら、この写真、奥さんにみせるよ。そうなると、横浜の病院のお家にはいられなくなるよ」
おもわず、唇を噛む仙道先生。
でも、しかたありません。
もう仙道先生には、データをコピーしてくる以外の、選択枝はありませんでした。
「わかったよな? もう、あんたには、拒否できる余地ってないんだよ。いつ、データはいただけるのかな」
「み、三日まってください。帝国ホテルの、ロビーラウンジで、午後七時、お渡しします」
無事、交渉成立です。
田熊さんは、自分の携帯電話の番号をメモに書いて渡しました。
彼は、違法なのですが、架空名義で取得した、アシのつかない携帯を七つぐらいもっているそうです。
「了解した。あんた、賢いよ。俺の携帯電話の番号だ。都合が悪くなったらとりあえずかけてくれ。それから相談だ。でなきゃあ、この写真が奥さんの眼にとまることになるよ」
さて、これをふまえて、おいらたち三人はまた、作戦会議です。
「仙道先生が素直に、真正のデータをもってきますかねえ」
おいらは、偽造データをつかまされるのが気になりました。
「偽造かどうかは、遺族の日記と臨牀データ、病理解剖記録をつきあわせていけば、だいたいわかるよね。もし、ニセデータをわたしたことがばれたら、恥ずかしい写真が奥さんの手元にわたるだけよ。仙道もそこまでばかじゃあないでしょう」
亜樹子先生がサムタイムライトの煙を吐きました。
「それで、取引の当日だが、不測の事態が起こったことに備えて、あかがま君と亜樹子には、帝国ホテルで待機していてほしいんだよ」
亜樹子は車に乗って、ホテルの前。
おいらは、帝国ホテルのロビー。
それぞれ、待機することにしました。
何もおこらなければいいのですが、万全の準備はとっておきたいものです。
さて、その三日後、約束の午後七時。
約束の三十分前、おいらたちは、亜樹子先生の運転する、BMWで帝国ホテルに着きました。
(10)
帝国ホテルのロビーは、待ち合わせの人でごった返していました。
田熊さんはラウンジで、コーヒーを飲んでいます。
目立ってあやしい人物は、ホテルにはいないようですが、見ようによっては、ロビーの人全員があやしく、おいらの眼には映ります。
ただ、衆人環視のこの場所であまり大それたことはできないので、その点は安心できそうです。
そして、午後七時ちょうど。
仙道先生が、緊張した面持ちで現れました。
小脇に、ファイルケースを抱えています。
田熊さんが手を振って挨拶しました。
仙道先生が、田熊さんの向かいに座ります。
ファイルケースを田熊さんに手渡します。
田熊さんはファイルケースを、あけて、データの打ち出しと、諸書類の収まった、DVDディスクを確認しました。
仙道先生のまずい写真と、それをおさめたメモリーカードは、ニセのデータでないことを確認した後、仙道先生に渡すという約束だったので、田熊さんは仙道先生にはなにもわたさず、ファイルケースを閉じ、すっと立ち上がりました。そそくさとレジをすませて、ラウンジを出ようとします。
その時です!
二人の男が、壁の陰から飛び出しました。
田熊さんに襲い掛かります。
「あかがま君!あとは任せた!!」
田熊さんはおいらに向かってファイルケースを投げつけました。
ナイスキャッチ!
おいらは、ファイルケースを受け取ると、ホール玄関に向かって全速力で走り出しました。ロビーのお客さんの何人かとぶつかったような気がしましたが、かまっていられません。
「あっ、ちきしょう!仲間がいたのか!」
叫びをあげて、田熊さんを突き飛ばしておいらをおいかけようとする二人。
その二人の前に、田熊さんが足をとばしました。
田熊さんの足を引っ掛けて、ひっくり返る男達。
「くっそー、何をしやがる!」
わめく二人組み。
「ご苦労さん。俺も失礼するよ」
もがいている男達に、捨て台詞をのこして、田熊さんは、おいらとは逆の方向に走り去っていきました。
おいらは、玄関から、内堀通り沿いにとめてあった、BMWに飛び乗りました。
「うまくいきました。早く逃げましょう。追っかけてきている奴らがいます」
運転席の亜樹子先生が、BMWを急発進させます。
「田熊は大丈夫かしら」
「あの人のことです、すなおにやられるようなことはないでしょう。きっと、大丈夫ですよ。さあ、大学に戻りましょう!」
大学に向かう途中、田熊さんから、おいらの携帯に連絡が入りました。
田熊さんもうまく追っ手から逃れて、タクシーで移動中だということでした。
おいらと、田熊さんは、荒川医大の大学院生棟で落ち合う約束をしました。
院生棟で、早速、亜樹子先生とおいらは各々、パソコンで、仙道先生から提供された患者データをチェックしました。
遺族の日記や、談話が残されている患者さんの臨牀経過と検査の数値をチェックしていきます。
幸運なことに、電子カルテのデータもpdfファイルにまとめられていたので、それとも照らし合わせました。
あとから、タクシーで無事に大学にたどりついた、田熊さんも、データチェックに協力してくれました。
徹夜で、データチェックした結果、一つの結論が出ました。
国際治療センターで行われた、DCA11の臨牀トライアルは、すべて、大量投与による、細胞・組織障害性の実験に他ならないことがわかりました。
国際治療センターで、カリスマ医師のもとで最先端の化学療法を受けられるという言葉にだまされて、末期がん患者さんは、望まぬ生体実験を受けさせられていたのでした。
お忙しい中、何時も御訪問誠に有難うございます。一押しお願い頂ければ誠に幸いでございます。
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コメント
コメント一覧
こちらもこんな感じでいいですか?
もうすぐこのお話も完結ですね。
応援していただいてうれしいでーす。
今度はどんな結末だろー。
楽しみでーす。
よろしくでーす!
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