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許されざるもの・死の粛清(1)(2)

akagama / 2007.02.12 07:37 / 推薦数 : 0

 今朝は(1)(2)ダブルアップです。よろしこ
     (1)

 さて、次の日の朝のことです。

 トーストとコーヒーを二人でとったあと、不動産屋さんと連絡がとれた、ヒヨ子は朝一番で、電車にのって帰って行きました。

 ヒヨ子は、今晩は、深夜勤なので、マンションでゆっくりするそうです。

 おいらも、医局に出かけました。

 さっそく、智佳子先生と、廊下ですれ違いました。

 おいらは、挨拶して声をかけました。

「智佳子ちゃん、おはよう。昨日のご馳走はどうだった?」

「……」

 あれれ、智佳子先生は、無視して早足でいってしまいました。

 何か、怒っているみたいです。

「どうしたんだろう」

 おいらは、気になって、智佳子先生の後を追っかけました。

「ねえ、どうしたのさ?おいらに、何か気に入らないことでもあるの?」

 智佳子先生は、振り返り、きっとした顔で吐き捨てるようにいいました。

「しんちゃん、ヒヨ子ちゃんを酔いつぶして、ホテルにつれこもうとしてたでしょ。私、みてたんだから」

 「えっ?」

  たしかに間違いなく、ヒヨ子を部屋に、送るときに、ラブホテルの前でタクシーを降りたのは事実ですが。

「それは、ちがうよ。誤解だよ。ホテルの通りの裏に、ヒヨ子のマンションがあったので、部屋に送るために、そこでタクシーを降りただけだよ」

 そうか、あのとき、横をAMGが走っていったけど、あの車に智佳子先生が乗っていたのか。

 しかし、それにしてもすごく悪いタイミングだよな、それ。

「私の知ってるしんちゃんは、いいわけなんかしないし、そもそも、いいわけをしないといけないようなことはするような人じゃなかったわ。ねえ、私急ぐの、そこ開けてくれる?」

「おやおや、朝から夫婦喧嘩? ほどほどにね」

 おいら達の後ろを、笑いながら歩いていく亜樹子先生。

 でも、智佳子先生は珍しくむきになっています。

「亜樹子先生、そんなんじゃありません」

 智佳子先生は、つーんとそっぽをむいて、病棟のほうへ走っていってしまいました。

「あかがま、何かピンチみたいだね? 相談にのろうか? 」

 智佳子先生の後姿を見ながら、亜樹子先生がおいらに話しかけてきました。

「はあ、んじゃ聞いてくれますか?亜樹子先生」

  おいらと、亜樹子先生は、院生棟で作戦会議を始めることにしました。

  昨日の一部始終を素直に告るおいら、当然、亜樹子先生御用達のカモミールティーのご用意は忘れません。

「うん、あかがま、今日のカモミールティーも出来は良いぞ、ほめてつかわす」

「へへー、ありがとうごぜえますだ、亜樹子先生様」

「まあ、智佳ちゃんには、私が、とりなしといてやるとして、まあ、昨日の顛末をいってみな」

 おいらは素直に昨日のことを包み隠さず言いました。

「なるほど、あかがまは、大和先生のDCA11の使い方が、眉唾だっていうんだね。まあ、DCA11のことは、腫瘍学専攻の私に任しときな。どうせあんたは、腫瘍分子生物学は苦手なんだし、まあ、勉強だけはしろよな」

 亜樹子先生は今度はメンソールタバコを白衣のポケットから取り出します。
 
 今日は、サムタイムライトです。

 失礼のないようにおいらはさっと火をつけます。

「へへー、わかりやした。御主人様」

「智佳ちゃんのことは私も、おまえのことフォローしとくけど、…ちょっと時間が解決するまで待たないとだめかもねえ、あんたがへたに動くと傷口を広げるかもねえ。まあ、がんばりな」


    (2)

 おいらが、院生棟を出て行ったあと、亜樹子先生は、病院の交換台に電話をかけました。

「醫亊臨牀社の、田熊亮一さんにつないでくださる」

 電話の相手が出ました。

「あー、田熊?あんたに儲け仕事のヒント、うーん、ヒントの欠片かな、それをあげようと思ってね、今から、荒川医大の大学院生棟に来てちょうだい」

 亜樹子先生は、院生棟の自分の机に、ノートパソコンを広げ、インターネットにつなぎました。

 DCA11についての情報をどんどん集めていきます。

 ヒットする関連論文を次々に保存していきます。

 やがて、情報画面をみつめる亜樹子先生の顔つきはどんどん険しくなりました。

 サムタイムライトが、次々と灰に代わっていきます。

 一時間ほどして、亜樹子先生は、一人の男の訪問者を迎えました。

 さきほど、電話で話した、田熊亮一と呼ばれた男です。

 亜樹子先生の卒業した川崎市の聖ジュリアンナ医大の同窓生です。

 もっとも彼は、卒後、臨牀の道には進まず、医学関係の出版社、醫亊臨牀社につとめています。

 すこし、崩れた格好をしています。

 あまり、お医者さん関係の人にはみえません。

 副業にいわゆる、医事ゴロ、病院ゴロというあぶない仕事に手を染めている男でした。

「やあやあ、これは葉山先生、久しぶりですね。わざわざおよびとは、そろそろ、三回目の自己破産なので金策ですかい? 」

「おだまり。あんた、そろそろ、医師国家試験の時期じゃないの? 今年も自爆すんの? 」

「あー、国試ね。だめだめ、たぶん。まあ受けるだけは受けるけどね。でもよ、ジュリアンナでは、俺等の学年でまだ、医者になってないヤツが二十人ぐらいまだいるんだとよ」

「そう、今日見てほしいものは、それよ」

 亜樹子先生は、顎で、プリンターに、打ち出した文書を示しました。

 田熊さんは、それを取り上げ、眼を通し始めました。

「ふん、イプシロン製薬の新薬の臨牀トライアルの記事じゃねえか。これがどうかしたか」

「うん、三年目のヤツが、このトライアルがおかしいよって、私にいってきたのでね。ちょっと調べたら、やっぱり何か、わけありみたいでね」

「三年目か、きれるんか。そいつは?」

「そいつも、国試四浪のあんたに、きれるのきれないの、いわれたかないだろ」

「ちがいねえ」

「そいつが、不審に思ったのはねえ、末期がんでDCA11を、隔日投与で飲んでる患者がいたんだけど、間質性肺炎っぽい空咳が、やたらつづいてるにもかかわらず、主治医から、DCA11の投与を連日投与にするっていわれたってのを聞いたからなんだけどねえ」

「うん、普通、有害事象があれば、治験薬は減量するか、中止するのがふつうだからな。患者が副作用で倒れちまったら、元も子もねえもんな」

「それを倍量投与だよ。どうみてもおかしいよね。で、ネットでDCA11のトライアルの論文をいろいろあさってみたんだけどねえ」

「何かわかったかい?」

「ああ、アメリカではDCA11のトライアルはかなりやりこんでいる。サン・ディエゴ、ロサンゼルス、ニューヨーク、オーランド。ただ、その投与量は、一日、体表面積一平方メートルあたり八十ミリグラム。ところが、国際治療センターの大和博士のトライアルでは、一日、体表面積一平方メートル当たり百六十ミリグラムなんだ。場合によっては、三百二十ミリグラムまでいっちゃってるのもある。変だとは思わないかい」

「日本人にアメリカ人の二倍量投与か。それはたしかにおかしいな」

 

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