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襤褸を纏う聖者(9)

akagama / 2007.02.03 09:02 / 推薦数 : 1

 院生が、責任もクソも無いものですが、とりあえず、二人の看護師も頷いてくれました。

 おいらは、高峰さんとヒヨ子を守るように抱きかかえて、おっさんの動きを見守ります。

 おっさんはゆっくり、押桐さんの頭の上に両手をかざしました。

 すると、おっさんの体が白く光り、放射状に光が広がり始めました。

 広がった光は、押桐さんとおっさんの体を包み込んでいましたが、やがて数分後、光はだんだんと消えていきました。

 そして、おっさんは、黙ったまま、きびすを返すと、よろよろと病室から出て行きました。

「押桐さんの容態は?」

 おいらの声にあわてて正気を取り戻し、立ち上がる、高峰さんとヒヨ子。

「先生、バイタル、落ち着いています」

 高峰さんの声が弾んでいます。

 もう、痙攣もおさまっています。

 おいらは、押桐さんの顔を覗き込みました。

「おしきりさん」

 おいらは一言、呼んでみました。

 その時、奇跡が起こりました!

 これまで、決して開かれなかった、押桐さんの眼が開いたのです。

 よくみると、こころなしか黄疸も、薄くなっているようです。
 
「お、おっさんが、奇蹟を起こしちゃった…」

 おいらは、ただ、ただ、呆然としながら、つぶやくばかりでした。

 さて、その次の日のことです。

 パトカーのサイレンの音で、おいらは起こされました。

「ああ、もう朝になったのか」

 病棟に行くと、ヒヨ子と、高峰さんは、準夜だったので、もう仕事を終えて帰宅していました。

 彼女達から話を聞いていたのでしょうか?

 深夜勤の看護師さんがおいらを見てにっこりと微笑んでいます。

「おはようございます、何か外がさわがしいね」

「あら、先生早いですね。なんでも病院の裏で、行き倒れの人の死体が見つかったんで、警察の人が大塚の監察医務院のほうにつれていくらしいですよ。先生、昨夜は大活躍だったみたいですね。香奈ちゃん見直したって言ってましたよ」

 おいらは、照れくさかったので、返事はせずに、押桐さんの病室に行きました。

 もう彼女の意識は完全に戻っていて、血管シャントのはいった手首を指差して、痒いから血管シャントを早く抜いてくれというしぐさを、おいらに示しました。

 これならきっと大丈夫でしょう。
 
 実際、当日の血液データも改善していて、軍曹もびっくりしていました。

 数日後には、重湯を口にする押桐さんの姿がありました。

 元気になったお嬢さんを家へ連れて帰ることが出来るようになったので、お母さんもうれしそうです。

 しかし、最後に残念なことを記しておかなければなりません。

 病院の裏でみつかったという、行き倒れの死体は、やはり、あのおっさんでした。

 押桐さんが良くなったのは、最後の血漿交換が奏効したんだと皆は思っています。

 でも、あの夜の出来事を知っている、おいらと、ヒヨ子、高峰さんの三人だけは、あのおっさんが、自分の命と引き換えに、押桐さんを助けたのだと信じています。

 ではなぜ、おっさんは、押桐さんの命を助けたのでしょうか。

 実は、おっさんは悪いことをして、警察に追われていたそうです。

 これは、新聞の切抜きです。  

 

 強盗殺人事件の容疑者、死体で見つかる。

 二月十六日未明、荒川区南日暮里の荒川医大付属病院近くの路上で、男性が死亡しているところを、同病院の警備員が見つけ警察に通報した。
 死因は不明であるが、目立った外傷はなく、病死と考えられている。
 荒川警察署の調べによると、男性は警視庁より全国指名手配されていた、住所不定無職、神楽仁容疑者(六○)。
 神楽容疑者は、平成八年二月三日、台東区上野の黒門信用金庫上野駅前支店に押し入り、同職員の押桐浩次さん(当時三十一歳)を刺殺し、現金約三百万円を強奪した強盗殺人事件の容疑者として、全国指名手配されていた。

 きっと、おっさんは、おいらたちに迷惑がかかるのを避けるために、最期の力を振り絞り、病院の敷地の外で果てたのでしょう。

 

 次回は最後の謎解きと大団円

 ぽちは、げんきの出るおまじないです。

 もし、おきにめしましたら、おしていただけると、とってもとっても、うれしいです…。

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