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でも、いいんです。お金のことは。
この患者さんが、このままよろしくない状態が続くと、下手をすると、肝移植の適応になるかもしれません。
まあそうなると、消化器外科へと転科するので、おいらの身はちょっと楽にはなるのですが、まだまだどうなるか用心、用心といったところです。
おいらは、おっさんのじゃまにならないように、三つほど離れたソファに横になり、毛布に包まりました。
まだ、午前二時、院内PHSがならなければ、五時間は眠れそうです。
明日、患者さんの親御さんがこられます。母一人、娘一人と聞いています。
ご主人さんを早くに亡くされています。
病気ではないと聞きましたが。
親御さんには、容態のことをどうお話したらいいのでしょうか?
そのことを考えるととても憂鬱です。
でも、うじうじ考える余裕も無いほどに疲労が蓄積したとみえて、おいらは横になったとたん、すぐに眠りに落ちました。
翌朝のことです。
おいらは、冷たい金属の感触を、頬に感じて眼が覚めました。
「ああ、もう次の日かよ」
休んだような、休まないような、もやもやした気分です。
頭に、空気が溜まっているような、おもーい感じがします。
「あんちゃん、早く起きなきゃ、お掃除おばちゃんの邪魔だよ」
頭上で声がします。
あの、野宿の先客のおっさんが、おいらの顔を覗き込んでいました。
「え、ええ?あーもうこんな時間かー!」
おいらは、PHSの時計をみて飛び起きました、午前七時半です、病棟で患者さんの、体温とアンモニアチェックに行かないといけません。
「まあまあ、缶コーヒーでもどうかね」
おっさんが、笑いながら、おいらに缶コーヒーを渡してくれました。
さっき感じた、冷感は、この缶コーヒーをおっさんが、おいらのほっぺたに当てたせいでしょう。
「あー、はい」
おいらは財布をズボンのポケットから取り出そうとしましたが、財布がみあたりません。
あせるおいら。
おっさんは笑っていいました。
「いいって、いいって、さっきあんちゃんの財布から諭吉さん一枚拝借してるから」
「あ、ああっ?」
びっくりしたおいらに、おっさんは即座に、
「はは、冗談、冗談。それは、おっさんのおごり。こんな格好してるけど、意外と金持ちなんだよ。おっさんは」
よくかんがえたら、おいらのポケットには、大先輩の顔が印刷された青いお札が一枚入ってるだけです。
盗られるほどのお金も持っていません。
「ふうん、でも、その金持ちのおっさんがなんで、待合室の長椅子でねてるんですか?」
「ふふふ、まあこちらにも都合というものがあるのだよ。ほら、ほら、早く行かないと、あんちゃん今日も仕事なんだろ」
「あ、そうだったー!おっさんありがとー!」
おいらは、コーヒーを白衣のポケットにねじ込むと、病棟へと急ぎました。
おや、何か、がやがやしていますが。
「あーっ、あかがま先生だ、軍曹先生、あかがま先生、来ましたよ」
看護師の高峰さんが、おいらを指差しています。
まずいです。何か、押桐さんによろしくないことが起こったのでしょうか?
前夜、当直の軍曹が、来い来いと手招きしています。
おいらは、びくびくしながら、軍曹の方へ近づいていきました。
「お、おはようございます。軍曹先生。何か、まずいことでも…」
おずおずと、おいらは軍曹の顔色をうかがいながら、口を開きました。
「あかがま、朝早くからご苦労だな。うん、確かに、まずいことはまずいことに間違いないんだがな…。まあ、彼女の容態は、今のところ、低値安定ってところだがな」
~Themes for this part~
I Believe In You (Il Divo with Celine Dion/Ancora)
Say It Isn't So (Gareth Gates/Go Your Own Way)
つづきます
もし、おきにめしましたら、おしていただけるととってもとっても、うれしいです…。
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